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彼女はくノ一! 第五話 (109)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(109)

 羽生譲はファミレスのバイトが入っているということで、朝食後、すぐに身支度をして愛用のスーパーカブに跨がって出て行った。
 路面はまだ乾ききっていなかったが、昨日の大雨が嘘のように晴れわっっていた。

 茅は朝食の後片付けを手伝ってくれた後、浅黄の相手をしてくれた。というか、浅黄と一緒のレベルで遊んでいるように見えた。
 依然として風邪が直っていない香也は自室に戻ってすぐ布団に入る。
 楓と孫子は、二人で手分けしてバタバタと掃除をはじめる。こうして二人で掃除してみると分かるが……羽生譲の祖父が建て、その後何度か改装を経ているこの家は、実に広い。
 家自体が広いから、普段、使用する部分を中心にして、適当な所で切り上げるつもりだった。こうして実際に掃除をしてみると、真理は毎日、こんなことを繰り返していたのか……と、感心をする。これだけ広い家を、多少の手伝いはあったとはいえ、実質一人でこなしていた、というのは……地味に、凄い……と、楓は思った。
 十時過ぎにタクシーが迎えに来たので、それに浅黄を乗せてやり、茅は一度マンションに戻って着替えて、荒野を伴って戻って来た。これから、茅と荒野、それに、楓と孫子の四人で、ガクが入院している病院にいくことになっている。
 病院は意外に近くて、駅の向こうにある個人経営の小さな所だ、という。
「……まあ、そこは、ベッドと手術施設借りているだけ、みたいな感じだそうだけど……」
 涼治の手配で、手術時にはどこからか腕の良い執刀医が呼ばれて来たし、これから行う脳の検査は、また別の、もっと施設の充実した場所に移動して行われる、という。
「……テンからのメールによると、止血処理は終わっているから、後は傷がふさがるまで安静にしていればいい、ってことだけど……」
 そういいながら荒野は、行き掛けにマンドゴドラに寄って、お見舞い用にケーキを一ダースほど包んでもらった。
「……あいつの場合、花より団子、だろう……」

 駅向こうの病院は三階建ての、小さいが小ぎれいな建物で、受付で尋ねると、ガクは個室を与えられているようだった。
「たいした……傷ではなかった、って話だけど……。 他の患者さんの邪魔にならないように、という配慮かな……」
 そんなこといいあいながら、受付で案内された部屋に向かう。ノックしてから、全員で入っていく。
 ベッドに寝そべったガクと、パイプ椅子に座ったテンとが、ババ抜きをやっていた。ガクの両腕には包帯が巻かれていたが、それ以外は普段どおりに見えた。
「なんだ、元気そうじゃないか。
 ほれ、これ、お見舞い……」
 そういって荒野は、ケーキの入った大きな箱をガクの膝の上に置く。
「……これ……」
 ケーキの箱を抱えたガクが、何故か俯いた。
「こんなの貰う資格なんて……ボクには……みんなに迷惑をかけて……」
 ケーキの箱に、ボタボタと水滴が落ちる。
「ガク……昨日から、この調子なんだ……。
 暴走した時のことを思い出すと……」
 テンが小声で、荒野たちに伝える。
「あのなあ、ガク……」
 荒野はガクの頭の上に掌を置いた。
「お前は、精一杯やった。
 お前のお陰でガスの被害は最小限で済んだし、お前の暴走は、事故であってお前の責任ではない……。
 お前は、出来る範囲内で、ちゃんと正義の味方してたよ……」
「……でも……。
 でも……」
 ガクはぐずぐず泣きはじめる。
「かのうこうやは、甘いよ」
 テンが、意外に厳しい声を出す。
「ガク……自分の体質……外部の衝撃によって意識を失うと暴走するっていう体質を分かっていた筈なのに……自分の身を、危険にさらした。
 ここはボクらしかいない無人島ではないし……あそこでガクは、自分の身を危険にさらす選択をしてはいけなかったんだ……」
「それも、一理ではあるんだがな……」
 テンの言葉に、荒野は頷く。
「そうだな……楓。
 昨日、ガクを取り押さえる時に……お前、ろくな打ち合わせもしてなかったのに、まっしぐらにガクに突っ込んでいっただろ?
 どうしてあんな危ない真似、できたんだ?」
「……え?」
 いきなり話しを振られた楓は、少しの間狼狽したが、すぐに、
「えっ……とぉ……。
 あの場には、大勢、人がいましたし……短時間でもガクちゃんの動きを止められれば、後は他の人がなんとかしてくれるかなぁって……」
「テン……これが、お前らと楓の違いだ。
 楓は、無条件に、たまたまその場にいた連中がバックアップしてくれることを、信じられる。
 お前らは、全てを自分たちだけで解決しようとする……。
 ガクは、自分一人でガスの中に残る前に、他の人たちと対応策を練ることもできた筈だし……テンも、ガクの行動を自分一人で背負い込もうとしすぎている……。
 仲がいいのは結構だが……もはや、事態はお前らの力だけで収拾出来るほど、単純なものではなくなってきているんだ……」
 ガクとテンは、荒野の話しを真剣な顔で聞いている。
「とりあえず……お前らは、もう少しおれたちの事を当てにしていい。
 特にガクの暴走体質については……こっちにも害が及んでくる問題だから、茅が前に約束した通り、おれたちも体を張って止める。
 それから、昨日の一連の件について、今の時点までに分かったことを伝えておくと……」
 荒野は続けて、昨夜、佐久間現象を尋問して判明した事実を、手短に語って聞かせる。
 現象も、テンやガクと同質の存在……ただし、佐久間の技を仕込まれた存在であること。
 現象の背後に、さらに黒幕がいること。その黒幕の正体は、今の時点でははっきりしていないこと。「一族キラーとして育てられた存在ではないか?」という、荒野の仮説。
 それに、佐久間の長から、今夜夕食に誘われていること……などを、荒野は、二人に説明する。
「……で、その佐久間の長から、現象の身柄が欲しい、って打診があったんだけど……聞くことも聞いたし、おれは、さっさと佐久間に渡しちゃっていいと思っている……。
 お前らとしては、どうだ? 現象の引き渡しに異論はないか? それと、引き渡す前に、やつに確認しておくことは?」
「かのうこうやは……そうやって、ボクらの意見を聞くんだね……」
 テンが、真剣な顔で荒野にいう。
「将来は分からないが……当面、お前らとは、同盟関係だと思っている。今のところ、利害が衝突する局面はないし……正直、危なっかしい所もかなりあるけど、何だかんだいって、お前らの潜在能力を考えると、むやみに敵対するのは、どう考えても得策ではない」
「それは、わかるけど……今の時点では、ボクらは未熟だ。能力的に、ではなく、判断能力が。
 ボクらは……経験知が、あまりにも不足している。
 かのうこうやは、ボクらの未熟を理由にして、一方的に命令し、それに従うよう強制することもできる筈だ……」
「おいおい……」
 荒野は首を振った。
「おれ……お前らのことまで、責任、持てないぞ……」
 言外に「自分の進むべき道は、自分で選択しろ」と言っている。ガクたちの年齢を理由にして保護者を気取ろうとは、荒野は思っていない。
「分かった……当面、ボクらとかのうこうやは、同盟関係だ……」
 テンは、重々しく頷いた。
「その、ゲンショウっていうのには、特に聞きたいことないけど……佐久間の長が出てくるんなら……一つ、お願いしたいことがあるんだ……」
「いってみろよ。
 今回の件は、佐久間の廃棄物処理が甘かった、というのも原因になっている。よほど過大な要求でなければ、呑んでくれる可能性が高いぞ……」
「過大な要求かどうか、判断が難しい所だけど……。
 ボク、佐久間の技を習いたい。
 それも、ボクが単身佐久間の本拠地に行くのは危険すぎるから、出来れば家庭教師に、こっちまで出向いて貰いたい……」
 テンの要求を聞いた後……少し考えて、荒野は頷いた。
「向うが呑んでくれるかどうか分からないが……いい、アイデアだ。
 テンと茅に、佐久間の技を……できる範囲内でいいから、教えられる家庭教師を、要求してみよう……」

[つづき]
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