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彼女はくノ一! 第五話 (110)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(110)

「……それでどうだ? ガクの調子は?」
「病院って、退屈!」
 荒野が問いかけると、ガクが顔を上げて元気よく答える。テンと荒野の会話を聞いていつうちに、少しは普段の調子を取り戻したらしい。
「そりゃ……退屈だろうけど……」
 尋ねた荒野の方は、苦笑いする。
「身体の方は、どうなんだ?」
「手足の方はね、昨日、傷口ふさいだから、後は肉が盛り上がってくるのを待てばいいって。それまでの間、激しい運動、しちゃ駄目だって。傷が開くから……」
「頭の方は……これから精密検査だったな」
「うん。午後一で。もっと設備が整った場所に移動するんで、もう少ししたら、先生が迎えに来るんだって……」
 荒野は、頷く。
「じゃあ……今夜は、テンと一緒に来れるのか?」
 佐久間の招待に応じるのか、と、荒野は確認した。
「行くよ! もちろん!」
 ガクは勢いよく頷く。
「聞いた感じでは、ボクらにとっても重要な会合みたいだし……それに、ボクも、いつまでもテンに考えさせてばかりではいけないんだ……」
「……よし。
 じゃあ、検査が終わったら、テンと二人で、家で待ってろ……。
 おれたちは午後一で学校の人たちに向けの説明会がある……そしたら、みんなで一緒に服を買って、そのまま佐久間の招待に応じよう……」
「……服?」
 ガクだけではなく、テンも揃って首を捻っている。
「今回の集まりは、一族のお偉方が雁首並べるみたいだから……事実上、お前らのお披露目みたいな意味合いも出てくると思う……。
 お前ら……軽装で出向いていって、足元を見られたくないだろう?」
 二人が荒野の言葉の意味を咀嚼している間に、荒野は孫子の方に振り返って、いった。
「……そういうことで、才賀、こいつらと……それに、茅と楓の分も……一族のお偉方の前に立っても見劣りのしないような服、見立ててやってくれないか?
 お前なら、そういうのは詳しいだろ?」
「……それは、いいのですけど……」
 孫子は、軽く眉間に皺を寄せた。
「そういう当の本人の、分は……」
 と、荒野の胸元を指さす。
「おれは……スーツぐらい、持っているけど……」
 孫子は深くため息をついた。
「他人の服装には口を挟むくせに、自分は安物の既製服で済ませるつもりですか……。
 いいです。まとめてこちらで手配します……」
 孫子がそういって携帯電話を取り出そうとすると……。
「……孫子おねーちゃん……」
 その手を、テンが制した。
「ここ、携帯電話、使用禁止……」
 テンが、病室の壁に貼ってある張り紙を指さした。

「……うぉーっす、元気にしてたか、ガキども!
 って、なんだ、荒野とその他一同、来てたのか……。
 せっかく見舞いにきてくれたところなんだが、ガクはこれから別のところで検査だ……」
 気まずい沈黙がしばらく続いたところで、三島百合香がハイテンションで病室に入って来る。
 それを機に、荒野たちは病院を辞した。

「……昼まで、少し間があるか……」
 荒野は、どうせ駅前を通るし、買い物をしていこうかな……と思いはじめている。
 冷蔵庫の中がそろそろ隙間が目立ちはじめているし、それに、今日は午後から予定が詰まっているから、のんびりと買い物をしている余裕はなさそうだ……という思惑もある。
「……それでしたら……」
「ええ。わたしたちの、ほうも……」
 荒野が「帰りに買い物をしていきたい」というと、孫子と楓も頷いた。そういえば真理が不在のため、現在の狩野家の家事は、同居人全員で分担して行っている……という話だ。その同居人のうち、ガクとテンは今みてきた通り、香也は風邪で寝ていて、羽生譲は朝からバイト……ということになると、今日まともに動けるのは、楓と孫子だけ、ということになる。
「……そっか……じゃあ、一緒に買っていってついでに昼も一緒に作るか……」
 どうせ、今日は一日のほとんどの時間を共にするわけで……買い物にせよ、食事作りにせよ、一緒にやったほうが合理的だ……と、荒野は思う。
「台所使わせてもらえば、昼は茅とおれで用意するけど……」
「……それは、助かるのですけど……」
 孫子は、少し困惑顔になった。
「香也様があの調子なので……お昼は、残り物のご飯でお粥でも作ろうかと……」
「ああ……病人食ね。
 うん。いいよ。そうしよう……」
 荒野軽く頷いて、貝柱の乾物くらい買ってか帰ろうかな……と思いはじめている。そして、孫子が香也のことを、さりげなく「香也様」と呼んでいたことに気づいた。楓は以前からそう呼んでいたが……孫子は、以前は香也のことをなんと呼んでいたっけ……。
 そんなやり取りをしながら、一同はそろそろ人通りが多くなりはじめた駅前商店街に向かう。

 その場にいた全員が忘れていたが……商店街では、今、商店街主催の「ゴシック・ロリータ祭り」の真っ最中だった。天候に祟られた昨日はさほどでもなかったが……日曜で快晴の今日は、まだ午前中だというのに、昨日の五割増しくらいの人がいる。それも、人込みの大半は、十代から二十代の女性であり……。
「才賀……良かったな。
 趣味のお仲間がこんなに集まって……」
 とは、荒野。
「壮観……。
 これだけ集まると、迫力が、ありますねー……」
 と、楓。
「マイナーな嗜好の持ち主ほど……同好の士への同胞意識は強くなる傾向があるの」
 これは、茅。
「茅、楓……せっかくの機会だから、同じような格好して、この中に入って見れば……」
 と荒野が勧めると、楓は、
「あはっ。あはははあははっ……」
 と笑ってごまかし、茅は、
「あの格好……ヒラヒラが多すぎて、動きにくそうなの……」
 と、眉を顰めた。
「……高尚な趣味は、なかなか世の中に受け入れられないものですわ……」
 それぞれの反応を、孫子はそういって受け流す。

 ともあれ、いつもより人が多かったので移動に時間かかりすぎ、買い物は最小限で切り上げなくてはならかった。
「……でも、ちゃんとお客さん、集まってくれて、良かったですねえ……」
 帰り道に、楓がそんな風に話はじめる。
「昨日のあれがあったから……結構心配だったんですけど……」
 明るい口調だが……内容的には、深刻なものをはらんでいる。
「結局、あのガスは……一般人の中に被害者がでなかったことで、撮影用に使用した発煙筒、ということになっているらしいな……」
 玉木の機転……の、結果、だろう……。
「……幸運によるところが大きかったよな、今回は……」
 荒野も、真剣な顔をして頷く。
 少しでも処置を誤れば……惨事が待ち受けていた。
 こんな幸運が、そうそう続く訳はない……とも、思う。
「根本的な対策は……首謀者を捜し出して、拘束すること、なんだけど……」
 そうした解決策を実行するには、膨大な人的リソースが必要となる。
「……駄目元で、今夜、頼んでみるよ……。
 あんな、なにをしでかすのか分からないやつら、野放しにしておくな、って……」
 一族にとっても、今回の件は看過できない筈なのだが……それでも首謀者が捕まっていない、というあたりに、不気味さを感じる……。
 一族の中枢に近い者が、首謀を手引きするなり、情報のリークなりをして……一族の裏をかきつづけているのは、確かなように思えた。
 そもそも、佐久間現象は、佐久間と二宮のホットラインを無断で使用していたらしいし……。
『どんどん……話しが大掛かりになっていくな……』
 と、荒野は思った。

[つづき]
目次

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Comments

本日の誤変換情報

「多きかったよな」

  • 2006/08/05(Sat) 17:57 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

毎度ありがとうございます。

「多きかったよな」→「大きかったような」
に修正いたしました。
ご指摘、どうもありがとうございます。

  • 2006/08/05(Sat) 23:06 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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