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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(29)

第六章 「血と技」(29)

「……なんで、現象が逃げやすいように、わざと隙を作ったの?」
 制服姿の茅と二人で外に出てしばらくすると、茅唐突にそう聞いてきた。非難する口調ではない。茅は、不思議そうな……荒野の真意が汲めない、といった顔をしていた。
「センサーを仕込んでいて……遠くに移動すれば、逃げられても追えないと思うの……」
「もっともな疑問だけど……」
 荒野は、茅の言葉に頷く。
「現象は、現に逃げなかったろ?
 今の状況は、現象にとっても都合いいんだよ、きっと……」
 茅は、荒野の言葉の先を即すように、頷いた。
「現象は……今では、このまま、佐久間に引き渡されることを、望んでいる……」
「自分を追放した、佐久間を憎んではいないの?」
「憎んでいるからこそ、かな……。
 差し違いになっても……佐久間の長に何か仕掛けようって……つもり、なんだと思う……。
 このままおとなしくしていれば……おれたちは、佐久間の長に、やつを引き渡す……。その時までは、現象は大人しくしているさ……。
 今のやつは……自分の恨みに取り付かれている。それを晴らす機会を目の前にぶら下げておけば、自分からは、逃げない……」
『でも……現象よりも佐久間の方が、上手だろうな……』
 と、荒野は思う。
 以前、荒神が源吉を攻撃できなかったように……現象に対して、何らかの処置を施している筈だったが……それは、佐久間の側の問題だ。
 荒野は、佐久間が要求したとおり、現象を会談の場まで持っていく……所までは、責任を持つつもりだが、その後、現象と佐久間との間にどんな事が起ころうとも、手出しをせずに見守るだけにするつもりだった。
「仮に、現象が逃げたとしても……今回、現象を動かしたたやつらの元に、今さら帰れるわけもなし……やつ単独では、なにもできないよ……」
「……そう……」
 茅は、荒野の説明に頷いてみせたが、不承不承、という感じだった。
「でも……現象単独でも……わたしたちに対する、悪い印象や噂を広めることは、できるの……」
 佐久間の技は、洗脳や心理、情報操作に特化している。
 茅の心配は、確かに的を射ているのだが……。
「……やりたいように、やらせておくさ……」
 荒野は、不敵に見える笑顔をみせる。
「もう……おれたちのこと、ここまでオープンになっちゃったし……今日の説明会で、おれたちのことを知る人は、さらに多くなる……。
 ここまで来ちゃったら……逃げ隠れをするのは、かえって逆効果だ……。
 やつが、おれたちの印象を悪くしようとするのなら、好きにさせておく。
 おれたちは、事実でそれに対抗すればいい。
 自分たちの手で、自分たちの評判を守っていけばいい……って、それだけじゃないかな……。
 もともと、そのために、有働君や玉木が、ボランティアがどうのこうのと動いてくれたわけだし……ここまで良い条件が重なったこの土地でやれなければ……多分、どこに場所を移しても、根を張って生きることは、できないと思う……」
 ここに来る前の荒野のように……根無し草として……「一族の一員である」という事以外のアイデンティティを捨てて、移動する度に新しい名前や経歴など、嘘で固めた身分を用意し、身に纏い続ける……などという生活を、茅にはさせたくない。
「わかったの……」
 茅は、今度こそ納得のいった表情で頷いた。
「荒野……もう、後がない、と、思っているの……」
「……ああ……」
 荒野も、意外に真剣な顔で頷く。
「やつらの妨害が勝つか……おれたちの信用が勝つか……。
 これからが、本当の勝負だよ……」
 今日の説明会は、確かに重要な、荒野たちが今後も学校に残れるかどうかを占うものだが……それが成功したとしても、まだまだ、先は長いのだった。
 荒野たちのような「異物」がこの土地に受け入れられようとするのなら……この先、とんでもない努力が必要となるだろう……。
 それでも……。
『努力する、価値はある……』
 と、荒野は思う。

 ある意味で……一族とか、昨日の襲撃者の一味とは、「敵」というよりは「障害」で……荒野たちの本当の「敵」は……特に荒野たちに害意を持っているわけではない、「一般人の偏見」というやつになる筈で……。
 この、「本当の敵」は……無形で、手応えがない分……苦戦することは、確かなことだった……。

 幸い、在庫があったので、学校指定の店で制服を買い、その店の更衣室で早速着替え、二人で学校に向かう。店をでた頃には、説明会の開始時刻から、二十分ほどが経過していた。
「ここから学校まで……十五分くらい、かかるかな?」
 制服に着替えた荒野は、携帯の画面で時刻を確認しながら、そう呟く。
「走って、いく?」
 茅が、首を傾ける。
「いや……いい……」
 荒野は、そう答えた。
 今までに携帯に何にも連絡がない所をみると、それなりに順調に進行しているのだろう。
「焦る必要は、ないよ……。
 ゆっくり行こう……」
 おれたちは……玉木や有働君を、もっと信用すべきだ……と、内心でつけ加える。

 結局、荒野たちが学校に着いた時には、説明会の開始時刻から四十分以上経過していた。
 休日の学校は、相変わらずガランとしている。今日は、昨日とは違って天気がいいのに、校庭で部活をしている生徒の姿も見えなかった。
 上履きに履き替えて、やはりガランとして人気のない廊下を歩いて、視聴覚室に向かう。
 ……と、視聴覚室前の廊下に、人だかりができていた。

「……ええ。
 そういう経緯がありまして、今回のボランティア活動を、始動させることになったわけです……」
 マイクを通した、有働勇作の声が廊下にまで響いてくる。
「……あ! 加納君、こっちこっち……」
 廊下の人だかりの中の一人、女生徒が、荒野の姿に気づいて手招きをした。
 同じクラスの、本田三枝だった。
「はい、主役登場だから、君たち、道を開けなさい……」
 本田の声で荒野の存在に気づいた生徒たちが、ぼそぼそ近隣の生徒たちと囁き合いながら、それでも荒野と茅に道を開けていく。
 荒野と茅は、そうして開けられた道を進んでいく。
「あ。来た来た。おにーさん……。
 今、有働君が、ボランティアの本当の目的を説明し終わったところ……」
 人混みの中を移動している途中で、そういって肩を叩かれた。
 飯島舞花だ。その隣に、栗田精一もいる。
「がんばれよ、加納君……」
 途中で、同じのクラスの嘉島にも、声をかけられる。
 嘉島の周辺には、顔見知りの野球部員たちが固まっていた。
「いつも御馳走になっているからな。野球部は、君の味方だ……」
「……もちろん、料理研も……」
 荒野と同じクラブの部員たちの姿も、あった。
「がんばってね、加納君!」
 と口々に声をかけられる。
 茅も、文芸部の生徒たちやクラスメイトたちに、声をかけられていた。

「……はい。
 有働君の説明が一段落したところで、遅れていた主役が到着したようです……」
 玉木が、人混みをかき分けて教壇に近づいていた荒野たちに気づき、マイクを片手にそういって手招きをする。おかげで、周辺の生徒たちが進んで道をあけてくれたので、格段に前に進みやすくなった。
 荒野と茅は、ようやく教壇の上……マイクを握っている玉木の前に立つ。
「玉木……こんなに、人が……。
 お前、どんな魔法、使ったんだ?」
 荒野が小さな声で囁くと、玉木はにやにや笑って答えた。
「何いっているんだい、カッコいいおにーさん……。
 ここにいる人のほとんど、君たち目当てなんだから……」
 君たちの普段の行いが、ここにいる人たちを集めたんだよ……と、玉木は荒野に告げる。

[つづき]
目次

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Comments

怪談の場

>現象を怪談の場まで持っていく……

>今回、現象を動かしたたつらの元に、今さら返れるわけもなし……

>茅の心配は、確かに的を射ているのたのだが……。

>苦戦することは、確かなだった……。

  • 2006/08/07(Mon) 21:01 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

怪談→会談

変換ミスっすね。
ご指摘道もありがとうございました。
修正しておきました。

  • 2006/08/07(Mon) 21:36 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

怪談の場2

>今回、現象を動かしたたつらの元に、

>茅の心配は、確かに的を射ているのたのだが……。

>苦戦することは、確かなだった……。

>ご指摘道もありがとうございました。

  • 2006/08/07(Mon) 22:03 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

以上、修正完了。

>今回、現象を動かしたたつらの元に、
 →動かしたた「や」つらの
脱字
>茅の心配は、確かに的を射ているのたのだが……。
 →射ているのだが

>苦戦することは、確かなだった……。
 →確かなだった

以上、修正完了。
重ね重ね、どうもっす。

  • 2006/08/08(Tue) 07:02 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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