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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(30)

第六章 「血と技」(30)

「……さて、ついに主役が到着しましたので、ここで皆さんお待ちかね、昨日、一体何が起こったのか、という説明を行いたいと思います……」
 荒野たちと小声で話していた玉木は、再びマイクを取って生徒たちに向き直った。
「……とはいえ、わたしたちも同時に二か所に存在することはできません。今回説明することは、数人の関係者や目撃者の断片的な話しを統合して再構成したものであることを、最初にお断りしておきます……」
 そう断りをいれて、玉木は、昨日、パソコン実習室に突如「佐久間現象」と名乗った少年が乱入して来た事、そして、それを迎え撃つ形で、荒野が校庭で数人の不審者を撃退した顛末……などを、話した。
 直接目撃していなかった生徒たちが、ざわめきはじめる。
「……ええと。
 ちょっと静かにしてくれますかぁ?
 にわかに信じられない……というのは、分かりますが……事実です。目撃者も、多数、います……この中にも、います……」
 玉木が懸命にざわめきを静めようとするのだが……一向に、静まる様子はない。

「……荒野!」
 いきなり、集まった生徒たちの後ろの方から、茅の声がした。
「靴、持って来たの!
 実演して見せれば、納得すると思うの……」
 茅は、荒野のスニーカーを手に持って、振っている。
 玉木が昨日の説明を行っている最中に、気配を絶って、こそり靴を取りにいっていたらしい……。

「……そうだな……。
 やって、みせようか……」
 そういうと荒野は一歩前に進み、
「茅!
 それ、こっちに投げて!」
 と叫ぶ。
 荒野が、茅が放り投げた自分のスニーカーを受け取る間に、楓が素早く窓際に移動し、窓を開ける。
「……いいか、よく見てろよ!」
 スニーカーを手にした……と思ったら、次の瞬間には、荒野は楓が開け放った窓枠に腰掛け、上履きをスニーカーに履き替える所だった。
「昨日は非常時だったんで、上履きのままいったけど……。
 それに、場所も、この視聴覚室ではなくて、パソコン実習室だったけど……」
 そういいながら、靴を履き替えた荒野は、窓枠の上に立ち上がった。
「……だいたい、こんな感じ、だったと思う……」
 何げない口調でそういって……高々と……外に飛び出した。

 呆気に取られて多くの生徒たちが見守る中、荒野の体躯は、昨日と同じように放物線を描いて、高々と飛ぶ。落ちながら……やはり、昨日と同じように、くるくると体を回転させていた。
 校庭の中央部に着地した荒野は、はじめは着地点を中心とした渦巻き状に、外に……次に、ジグザグに疾走しはじめた。
 昨日と違うのは、雨が振っていないため、水しぶきのカーテンが発生しなかったことで……。
 そのため、ともすれば、動きが早すぎる点のような荒野の動きに目の方がついていけず、見失いがちになった。

 五分ほど適当に走った所で、荒野は昨日と同じように、出て行った窓枠に飛び込んでくる。
「……とまあ、昨日は、だいたい、こんな感じだったと思うけど……」
 窓枠に腰掛けてスニーカーを上履きに履き替えながら、荒野がそういうと、それまで静まり返っていた生徒たちが、パラパラと拍手をする者が現れた。
 その拍手は次第に大きなものになり、ついには、その場にいた全員が、手を叩くようになる。
 荒野は……苦笑いしつつも、拍手してくれた人たちに、手を振った。
 拍手がいつまでも収まらないので……玉木は、ここで五分ほどの休憩をいれることを、宣言する。
 すると、生徒たちは、雪崩をうったように、わっと荒野の周囲に集まってきた。
 実際には、荒野の周囲に集まってきた生徒たちが静まるのに、五分以上の時間が必要だったが。

「……で、この六主家という、大きく分けて六つの団体……血族……が中核となって、一族を形成している。この他に、外郭として外からスカウトされてきた人たちとか、それと知らずに一族の活動をバックアップしたりしている人たちが、大勢いる訳だけど……。
 で、おれはその六主家の一つ、加納の本家にたまたま生まれて、小さい頃からいろいろ仕込まれたりしている訳……」
 その後、荒野は生徒たちの要請を受け、詳しく話すと差し障りの部分は、具体的な部分を適当にぼかしつつ、説明を行う。
「……で、今回のおれの任務は……ある事情によって、かなり特殊な育ち方をしたこいつを、社会に適合させること。その特殊な事情というのは、おれも詳しくは聞かされていないので、この場では話せない。
 同じクラスの人とか……こいつの、浮世離れしたところを知っている人も、この中には多いと思う……」
 そういって荒野は、隣に立っていた茅の頭を、掌で軽く叩く。
 姫の仮説、については話さない。話すとややこしくなる……ということもあるが、荒野たちの推測をこの場にいる人たちに話しても、混乱するばかりで益は少ない……と、判断する。
「……で、それなりに問題を孕みながらも、昨日まではそれなりにうまくいっていたんだけど……。
 昨日、白昼堂々、佐久間現象と名乗るやつが学校に乗り込んできて、その場にいた生徒を巻き込むような真似をしでかしてくれたので……それも、ご破算に、なった……。
 あの時、おれは……正体を明かして、その場にいる人たちに被害を与えないため、学校に侵入してきたやつらを一掃するか……それとも、他の生徒たちの一緒に、無力な一学生として、やつらにいいようにされるのかの選択を迫られ……前者を、選択した。
 昨日、学校で起こったのは、そういうことだ……」
 そこまで話した所で、荒野はマイクを離して、そばにいた玉木に小声で、「商店街のことも、話したほうがいいのか?」と確認する。
「……その前に、一度質問を受け付けた方がいいかと……。
 あんまりいっぺんにいろいろな事をいっても、消化しきれないだろうし……」
 玉木も、小声で答える。
「……ええ……。
 今、玉木さんに確認した所、ここらで一度質疑応答を受け付けた方がいい、ということなんで、そうします……。
 ここまでで何か質問……聞きたいことがある人、いますか?」
 荒野がマイクに向き直ってそういうと、軽い笑い声が上がって、何人かの生徒が手を上げた。
「今、加納君がやったような動き……誰にでも練習すればできますか?」
「誰にでもできる……とは、断言できません。
 ですが、幼少時からかの習練で、ある程度までは誰でもできるようになります。そのために必要な習練は、メニューがあまりにもきついので、この場にいる人たちにお勧めしようとは思いませんが……」
「同じ時期にこの町に来た松島さんや才賀さんとは、どういう関係ですが?」
「楓……一年の松島さんは、茅の世話のために女手も必要だろうと、うちのじじいが勝手に手配してくれた者です。
 二年の才賀さんは……さて。
 なんで、転入して来たんでしょうねぇ?
 才賀さんの保護者の方とは以前から面識がありますが、才賀さん本人とはここで出会ってからのお付き合いなので、詳しいことは直接ご本人にお聞きください」
「一年の狩野香也君と同じ名前ですが、親類かなにかですか?」
「彼と彼の家の人たちには、家が近いということもあってかなりお世話になっていますが、全くの他人です。
 名前の音が同じなのは、偶然です」
「付き合っている人はいますか?」
「今の所……いません。
 正直……最近は、予想外の事ばかり次々と起こるので、そんなことを考えている余裕もありません……」
 そんな感じで、説明会は荒野が心配していた割りには、穏やか雰囲気で進行していった。

[つづき]
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