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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(31)

第六章 「血と技」(31)

 荒野への質疑応答が一段落すると、今度は商店街への襲撃まで説明することになった。
 玉木と有働が昨夜、話し合った結果、
「……今後もこういうことが起こり得るんなら、学校側だけにでも正直に理由を話して、協力を求めた方がいい……」
 という結論になったからだ。
 とはいえ、その結論も、
「今後、何か有った時、後から責任を追求されるよりは、今のうちに話しておいた方が、まだしもマシ……」
 という「消極的な賛成」、ではあったが……。

「……詳しい説明をする前に、いっておくと……」
 昨日、学校と商店街で、実際に何があったのか……ということを説明する前に、荒野は前置きとして、そう語り出した。
「彼ら……学校とか商店街とか襲ったやつらの目的は……おれたち、なんだ。
 だから、おれたちがこの町からいなくなれば、少なくともこの町の人々に被害がでることはない。
 正直……かなり、考えたよ。
 このまま、なにも言わずに、この町から出て行く方がよかったのではないかって……。
 でも……何人か、事情を知っている人が……それでは、場所が変わるだけで、根本的な問題はなにも解決しないっていってくれて……かろうじて、こうして踏みとどまっている。
 でも……この先、敵、が……無関係の人たちを巻き込むようなことを仕掛けて来たら……その時は、出て行くかもしれない……」
 考えに考えた末、今、この場に立っている荒野の言葉には……重みが、あった。

 荒野の前置きの後、学校への襲撃と前後して行われた商店街での一連の出来事を、玉木と有働が交互に説明しはじめる。
 学校での動きと同時進行だったので、ビデオに残されていたタイムスタンプを頼りに、タイムテーブルを黒板に書き出したり、あるいは、テンやガクが、ゴスロリ・スタイルの秦野の女たちと乱闘している映像などもプロジェクターで見せたりしながら、してかなり苦労して説明した。
 テンとガクの二人と、秦野の女たちの戦いは、どこかコミカルで非現実的な印象をみている者に与えたので、
「これは、実際にあったことだ!」
 と説得するのに苦労した。
 放送部員なら、これくらい手の込んだいらずらくらい、仕掛けかねない……というのが、生徒たちの一致した見解だった。

 その疑惑に答える形で、実際にカメラを持っていた放送部員数人が教壇の上に呼ばれ、それぞれに見たことを証言する。
 さらに説明が進んで、ガス弾が使用された際の映像も流れ、ガスの中に残ったガクに、必死に呼びかけるテンの音声、救出のため、煙の中に入って行く荒野の映像と音声、それに、次々に煙の中に入って行き、煙を吐き出し続けるガス弾をキャッチボールしながらあっと言う間に遠くに運び出して行く秦野の女たち……などの映像が流れ出すと、さすがに捏造疑惑を口にする者は少なくなっていった。
 ガス弾を抱えて線路上をひた走る荒野と秦野の女たちは、昨日、少なからぬ人々に目撃されており、その噂を聞いたり、あるいは、直接かいま見たりした生徒たちが騒ぎはじめたことも、信憑性を保証するのに一役買った。

「……なんだなんだ!
 まだ昨日の事をはなしているのか、愚民ども……」
 そこまで説明がすんだ時、不遜な言葉と態度で人込みをかき分けて教壇に向かって来た生徒がいた。
「……徳川、か……」
 相変わらず、図体の大きな黒猫を頭にのせている。
「……加納がここにいると聞いて来たのだ。
 昨日の服に染み込んでいた成分を分析した結果を、知らせにきたのだ。
 二酸化炭素とコーンスターチ、それに粉山葵と乾燥させたマスタード、粉末にした唐辛子など……。
 ふん。つまらん。
 おおよそ、予想どおり結果だったのだ。
 あのプラスチックの容器の中には、大気に触れると化学反応を起こして容積を急激に増す物質と、ありふれた安物の調味料、それに、色付けのコーンスターチがぎっしり詰まっていた、というわけなのだ。
 人騒がせな、いたずらなのだ。
 まったく、毒ガスかと思って一時は覚悟を決めたぼくが、馬鹿みたいなのだ……」
 玉木と有働が止める間もなく、徳川は強引に人込みをかき分けて教壇に立つ。
「……いいか、想像力のない愚民どものためにわざわざ説明してやるとだな、毒ガスが使われはじめたのは……」
 と簡単な歴史から始まり、現代化学兵器がいかに毒性が強く、なおかつ、不意に使用された際、対抗手段ないものなのかを延々と具体的に説明しはじめる。
 徳川の説明があまりにも真に迫っていたため、青い顔をする生徒が続出し、もちろん、その場はシーンと静まり返った。
「……で、たまたま、ぼくはその場に、商店街にいて、あの銀ピカの子らの活躍をモニターしていたのだ。
 そこに、加納の声で、そこから逃げろ、という連絡が入って来て……ああ。このあたりだな。加納の声に反応して、上から降ってくるガス弾を、銀ピカの一人が指さしているところなのだ……」
 有働が、徳川の話しに合わせて、そのシーンをプロジェクターに映すように、操作している。
「……はい、この後、黒い女たちと銀ピカの一人が、逃げる。
 この時点ではガスの正体はわかっていないし、少しでも化学兵器についての知識があれば、当然の判断なのだ。
 ぼくが逃げなかったのは、ぼくの足では到底間に合わないと思ったからで……。
 で、ここで、銀ピカの一人が、誠に愚かな事に残る。有働、音声……ああ。でたでた。ここなのだ。仲間が逃げろといっているのに、逃げない。こやつは正真証明の、愚か者なのだ。
 で、残って……はい……ガスが、少なくとも即死するような性質のものではないことを、自分の体で、体を張って証明した……。
 で、この音。
 やつのヘルメットに落下して来たガス弾が、ぶつかった音なのだ。
 あれだけの高度から落ちれば、エネルギー量は相当なものになる。気を失う程度ですんだのは、かなり運がいいのだ。ガス弾の容器が壊れやすい、やわな構造であったことが幸いしたのだな。
 で、ここ、加納が煙の中に入って行く……。
 こやつも、馬鹿なのだ。
 いくら即死はしないといっても……こんな正体不明のガスの中に、まっしぐらに突っ込んで行くのは、正気の沙汰ではないのだ。
 でも、こういう……我が身を顧みない馬鹿は、今時、絶滅寸前で希少価値があるから、保護する必要がある……。
 というのが、ぼくの結論なのだ……」
 ここで、徳川篤朗は小脇に挟んでいた大判の紙を黒板の上に固定して掲示する。
「……次に、このガス弾の軌道を分析したのが、このプリントアウトなのだ。これは、web上で閲覧できる衛星写真にマーキングを行ってプリントアウトしたものなのだ。
 ビデオに写っている中で、一番時間を溯れる地点は、ここ。ここから、この太い矢印を通過して、着地点が、このアーケドの上……。
 この点線の部分が、ビデオに写っていないので未確認だが、おそらくガス弾が通過したであろう軌跡を予測したもの……。
 この、軌道の延長上にあるビルは、この付近には、ここ、しかない……。
 最初、ガス弾が落下するのを見た時は、ぼくもてっきりランチャーを使用して打ち上げたのかと思ったのだが……加納の話しとビデオに残された映像を確認してみると、ガス弾の本体は、極めて脆弱な、べこべこのプラスチック製だという。そんな華奢なものを火薬や圧縮した気体で打ち上げれば、すぐにでも空中分解してしまうのだ。
 よって、このガス弾は、どっかの体力馬鹿が、力任せに投げ付けた、という結論になる……。
 そして……投げらるのに適切な場所は、方角からいって、このビルの上しかありえない。
 で、このビルから、着地点まで、直線距離で、六百五十メートル以上あるのだ……」
 ここで、徳川篤朗は、少し間を空けた。
「……誰か、砲丸投げの世界記録を記憶している者はいないか?
 ともかく、そんなのが子供だましにみえるほど身体能力を、このガス弾を投げつけた者は持っている、というのは、事実なのだ。
 そしてそいつらは、他人の迷惑や生死には、まるで頓着していない。今回のガス弾や学校での騒ぎを考えれば、そのことも、極めて明瞭なのだ。
 加納とかあの銀ピカなどの馬鹿愚かがいなかったら、どれほどの被害が出たことか……。
 さらに! こんな非常識なのを、日本の警察が取り締まれるわけがないのだ。
 こんなのを相手にできるのは……」
 徳川は、荒野の肩に手をおいた。
「……こういう、後先考えない絶滅危惧種的にレアな馬鹿愚かだけななのだ。
 こういうレアなのは、放っておく勝手にどこかに消えてしまうので、この学校の生徒どもも、せいぜい加納たちの扱いを考えるといいのだ……」

[つづき]
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