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彼女はくノ一! 第五話 (114)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(114)

 楓は教壇の上、という目立つ位置に座らせながら、他の聴衆たちと同様に、玉木と有働、それに荒野が行う説明を黙って聞き続けている。もちろん、そこで説明される内容は、すでに楓が知っているものがほとんどなのではあったが、大勢の前で、まるで予備知識のない人に向けて、理解しやすいように語句を選んで理路整然と語れる三人が、楓には大きく見えた。

 それに、あらかじめ知っていることでも、角度を変えた見方を提示されると、妙に腑に落ちる所がある。
 楓があらかじめ知っている事柄であっても、
『……そういう、ことなのか……』
 と改めて確認できたことが、多かった。
 有働の説明は、生真面目さを反映してか、時に細部に拘泥し過ぎて全体像が見えにくくなりがち。玉木は、歯切れがよく、言葉に勢いがあるが、有働とは逆に詳細な部分をニュアンスでごまかしてしまうしまう傾向がある。荒野は、一見軽快なしゃべり方をしているように見せかけて、その実、どこまで話していいのか、一言一言吟味する慎重さを感じた……。
 三者三様、の個性はあったが……三人とも、聞いている者を引き付ける話し方を心得ている……という印象を受ける。
 荒野は、特に「姫の仮説」に触れなくてもいいよう、茅の生い立ちに関する情報には、細心の注意を払って迂回しているように見受けられた。
 途中、「昨日の再現」と称して、靴を履き替えた荒野が窓から飛び出していってひとしきり校庭を駆け巡り、再び窓に飛び込んでくる、というパフォーマンスを実演して見せると、生徒たちは、他の細々とした事柄にはもはや拘泥しようとはせず、「荒野個人」に興味を手中させはじめた。
『加納様の、計算……』
 なのだろうな、と、茅は思う。
 他の事柄……学校内に十名以上の暴徒が乱入した……あるいは、商店街にガス弾を投げ込んだ者が存在した……という不吉な事実……それに、茅や楓から、生徒たちの目を逸らすため……あえて、昨日の一件で正体が割れてしまった自分に注意を集めている……。
 いいかえれば、あえて、我が身を楯にしている……。
 その甲斐あって、この場にいる生徒たちの注意は、確かに荒野に集中しているのだが……。
『こういうの……長続きは、しないんじゃないかな……』
 楓は、そう思う。
 一時の熱狂は……すぐに冷める。
 そして、冷めた後に残るのは……。
『……不信感……。
 それに……自分より優れた者に対する……憎悪……』
 楓は、荒野の元に集まった生徒たちの顔を見渡し、不意に悪寒を感じて、自分の二の腕を抱き締めた。
 楓が……再三、荒野がいっていた、「目立つような真似をするな」という言葉の意味を……この時初めて理解した。
 顔を輝かせて荒野の周囲に集まってくる生徒たちと、荒野自身は……明らかに、別の存在だ。
 そして……なにか、ごく些細なきっかけさえあれば……今、生徒たちが荒野に向けている羨望は……容易に恐怖へと、反転するだろう。
 そして……荒野は、先程、生徒の一人に質問された時、楓のことを「茅の世話係」と、ことさら矮小化するようないいか方をした。
 それも……楓に注意を向けさせないようにするための、工夫の一つなのだろう……。

『……なんて……』
 生徒たちに囲まれて、いつものよう愛想笑いをしている荒野をみて……楓は、初めて、荒野の孤独に思い当たった。
『……寂しそうな……』
 楓は荒野に頼れるが……荒野自身は、頼るべき相手が誰もいない。どんな不測の自体にも自分自身で判断を下し、その責も自分自身で追わなければならない……。
 一般人の社会に紛れ込んだ存在……であるのと同時に、荒野は、一族の中でも、孤立した位置にいる。
 加えて……茅や楓自身、三人組の将来に対しても、少なからず責任を背負っている……。

 楓には……大勢の生徒たちに囲まれて笑っている荒野の笑顔が、とても心細いものに見えた。

 それから、少し前から、荒野に、
「自分自身の判断で動いて見ろ」
 と何度か繰り返して言われていたのを思い出す。
 あれは、言い換えれば……荒野の負担をこれ以上増やすな……と、いうことでもあるのだろう……。
 少しして、三人組がきて、昨日の襲撃があって……今、学校に残れるように、こうして生徒たちに理解を求め……その後、今夜は、一族の重鎮たちとの会談という、神経を使う仕事が待ち構えている……。
 こうして考えると……現在、荒野の負担は……心理的にも物理的にも……相当なものになる筈で……。

「……楓……」
 そんなことを考えていると、いつの間にか、茅が楓の隣に立っていた。
「荒野には……茅がついているの……。
 茅は、いつまでも荒野の味方なの……」
 楓が考えていることを見透かしているかのように……茅は、そういう。
 いや。昨夜の佐久間現象への尋問での茅の様子を考慮視すると、実際に「読んだ」のかも、知れなかった。
 もっとも、楓は、ポーカーフェイスの茅とは違い、思っていることは、割りと顔にでる性質だから……もっと一般的に、顔色だけから、なんとなく察しをつけた……ということも十分にありえたのだが……。
 そう。
 とにかく……荒野の側には、つねに、茅がいる。
 味方である楓にはとって、この二人がいれば、たいていの問題はなんとかしてくれる、頼りになる存在だが……。
 敵……例えば、昨日の襲撃者、とか……あるいは、一族の、現在の主流にとって……このまま、茅や三人組が順調に成長し……外見上、荒野の勢力が、日増しに潜在能力を増していくことは……果たして、歓迎すべきことなのだろうか……。

『……この先……まだまだ複雑なことに……なるのかも、知れない……』
 これまでの楓は……考えることは、荒野たち上の者に任せておけばいい……と、そう思っていた。
 しかし……荒野に言われた通り、自分で、現在、自分たちを取り巻く状況を冷静に分析してみると……自分たちは、実に微妙なバランスの上で、今の生活を営んで来たことに……気づく。
 今、うまくいっているのが不思議なくらいで……こうして、正体をある程度明かした荒野が……所詮、一時的な、かりそめの感情なのかもしれないが……それでも、まがりなりにも、現に生徒たちに受け入れられていることも含めて……。
『今までが……むしろ、うまく行き過ぎていたんだ……』
 客観的に判断すれば……そう、結論するしかない。

『今の生活を、守るためには……』
 楓は……頭をフルに回転させる。
 もっと強くならなくては、いけない。
 いざという時も……荒野の判断が仰げない時でも、自分自身で判断し、動けるようにならなければいけない。
 それに……三人組にも、そうなってもらわなければ、いけない……。
 今以上に、鍛える。身体だけではなく、とっさの判断能力まで、含めて……。
 そして、できれば……三人組も、同じように……。
 特に、ガクは……大きすぎる能力と、発想の短絡さが、いかにもアンバランスで……みていて、実に、あやうい……。
 他の二人は……それなりに、慎重だったり、思慮深かったりするのだが……ガクは、能力はともかく、頭の中は、外見どおりに子供っぽい……。
『……ガクが、動けるようにようになったら……。
 今夜か、明日あたりにでも……』
 もう少し真剣に、向き合って話してみよう……と、楓は思った。

[つづき]
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