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彼女はくノ一! 第五話 (116)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(116)

 茅は、目前の生徒たちを見る。生徒たちの心理が、徳川の説明が進むほどに、表層的な興味本位から真剣な共感へと推移して行く様子を、茅は興味深く見届けた。群集心理、というものもあるのだろう。
 昨日の出来事を説明し終えた徳川が、いよいよ本格的にボランティア活動の打ち合わせに移行する時、「これ以降は退屈な話になるから、興味のない者は退出した方がいい」と勧告した際も、視聴覚室から出て行く生徒たちはほとんどいなかった。

 少数の例外は、斎藤遥で、これは出て行ってからすぐに紙の束を抱えて帰ってきた。そして、話が一段落したとこで紙の束を抱えて教壇に向かい、
「……ボランティアに協力できる方は、この紙に書いてある方法で、メアドを登録してください。一度登録すれば、後は自分の都合のいい日時を指定するだけで、作業に参加できます……」
 と、抱えてきた紙を集まってきた生徒達に配りはじめる。
 構築したばかりの、スケジュール管理システムへの、簡易登録マニュアルだった。

 そんな幕間劇を挟みながらも、話し合いは続いて行く。
 企画と広報を玉木と有働が中心となった放送部有志、必要なシステム回りをパソコン部有志、抽象的な達成目標を具体的な事業として再構築するする役割を、徳川と才賀孫子が行う。
 徳川篤朗は、名義は姉のものとしているとはいえ、事実上、自分でそれなりの事業を起こしている現役の経営者であり、才賀孫子もそれなりの教育を幼い頃からなされているため、同級生よりはよほど世間知というものがある。
「……人手と、それをマネジメントするシステムとは、すでに土台ができあがっているようなのだな……」
 と、徳川。
「ああ。
 後は、この場にいる人だけではなく、外に向けての広報は……」
 と、孫子。
「ああ。そっちの方は、うちらに任せて……」
 と、玉木。
「……後は、金か……いくつか、適切なアイデアがないこともないのだが……」
「……例えば?」
「うちの工場でなにがしかの製品を作って売り、その収益の数パーセント、純利益のほとんどをプールするのだ……」
「……それじゃあ、トクツー君所の会社に旨みがないじゃん……」
「協賛企業として、製品にでかでかとうちの会社のロゴでもいれておくのだ。PR活動の一環として考えれば、そのていどの出費はできるのだ……」
「……あ。CMかぁ……商店街の人たちにも声かけて見るかなあ……」
「例えば、ゴミを放置される所、というのは、たいてい人目が行き届かない所なのだ。
 そういう場所専用に設置する監視カメラなど、結構売れると思うのだ。
 夜中に不自然な場所に停車した車のナンバーとか、不自然な荷物を抱えてうろうろしている人の顔を撮影するアルゴリズムは簡単に構築できるし、何事もなければ稼働率は低いメカニズムなので、風力発電や太陽電池と組み合わせれば、電源がない場所にも設置できるのだ……」
「ああ……誰もいない場所にゴミを捨てようとすると……いきなりフラッシュが炊かれて……そういう場所には、確かに放置ゴミは少なくなるかも……」
「肖像権など、法律の問題があるから、いきなり撮影する前に、音声か何かで警告をする方がいいのだ」
「……この場所は私有地です。無断でゴミを投棄するのは違法です。今、車のナンバーを撮影しました。数日内に車両の所有者に通知がいきます。場合によっては裁判所から呼び出されることもあります……」
 徳川がそう説明すると、玉木がいきなりかしこまった声を出しはじめる。
「……そっか……ニッチなニーズだけど……確かにそういう装置が必要な場所は、あるよなぁ……」
「……とりあえず、早速試作品を幾つか作るので、市内の投棄場所の地主に持っていって、効果があるかどうか、試して見るのだ。それで効果がありそうだったら、ネットを使って全世界に向けて売るのだ……」
「……じゃあ、その交渉は、ぼくがやります……」
 有働が、片手を上げた。
「何人か、話を聞いた地主さんもいますし……」
「頼む。
 最初の数個は、試作品ということで、無償提供するのだ。
 そっちで成果が出れば、後は口コミで顧客が増える筈なのだ……」
「……お役所、無人の駐車場、敷地の広い工場や倉庫……それに、自然保護団体……それなりに、買い手はいそうですよね……」
「人の目が行き届かないのなら、機械にやらせればいいのだ……」
「その事業……うまく行きそうだったら、設備投資に必要な資金は、わたくし個人が出します……」
「才賀か……そうすると、株主か共同経営者という形になるのだ……。
 となると、いっそ、新しい法人を作った方がいいか……」
 孫子と徳川が関わると、どんどん話が大きくなって行くのだった。
「……有働……。
 ゴミの方が一段落したら、独居老人の巡回をはじめる、とかいう話もしてたな……」
「……あ。はい……。
 この辺も、たいがい高齢化が進んでいますから……」
「……必要とあれば、効率的に介護をするのに必要な器具も作ってやるのだ……」

 それから二時間以上、いろいろと話し込んだ後、
「……もう、時間も時間だし、今日はお開きということでいいんじゃないか?」
 と荒野が言い出す。
 途中から、特に斎藤遥がメアドの登録法をかい書いた紙を配り初めてから、ばらばらと帰って行く生徒が増えたため、今では視聴覚室も閑散としている。
「そうですね……今日だけで、参加希望者、二十人以上増えていますし……。
 初日の説明会でこれだけの成果が出れば、上等かと……」
「……じゃあ、ぼくは、ゴミ投棄場所の地主さんと交渉して、徳川君の監視カメラを設置させてもらったり、ゴミを片付ける日程を組んだりします……」
 これは、有働勇作。
「わたしは……放送部有志を引っ張って、広報関係の続きだな……好きに使えるタレントもいるし、やれることは多いし……」
 これは、玉木玉美。
「ぼくは、必要な機器類と製造ラインの設計に入るのだ……」
 これは、徳川篤朗。
「わたくしは、もう少し事業計画を見直して見ます。将来、仕事は多様化しそうな気もしますし……」
 これは、才賀孫子。
「……なんか、おれ……あんまり出る幕、ないような……」
 これは、加納荒野。
「組織だった動きが必要な局面になってくると、個人的な能力の高低は、あまり問題視されなくなってくるのだ……」
 徳川が、荒野に向かって言う。
 荒野は、反論できなかった。
「……つまり……凄いのは、加納先輩だけではなかった、ということですね……」
 そうまとめたのは、斎藤遥だった。
「今日の説明会で……同じ学校に通う生徒にも、いろいろな人がいる、と、みんなも分かったと思います……」
「……そうだな……」
 荒野はしみじみと頷いた。
「才賀は、どちらかというとおれたちに近い人種だから置いておくにしても……。
 玉木とか徳川とかみていると、自分がさほど特殊な人種ではないという錯覚を覚えるよ……」
「やだなあ……。
 カッコいいこーや君がいなかったら、わたしたちもボランティアなんて面倒な事ははじめなかったって……」
 玉木が、けらけらと笑い声をたてる。
「……ボランティアも大いに結構だが……」
 最後まで残っていた大清水先生が、いきなり近寄ってきて、声をかけてきた。
「……勉強の方も、忘れないようにな。
 三学期ももう半ばだし、加納や玉木たちは来年三年生なんだ……」
 夢も希望もない言い草が、いかにもこの先生らしい……と、荒野は思った。

[つづき]
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