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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(33)

第六章 「血と技」(33)

 説明会は、それから二時間以上続いた。後半は説明会というよりも、ボランティア活動の、今後の具体的な方針を決める会議のような様相を呈してきたが、その頃にはばらばらと生徒たちが帰りはじめ、最後まで残っていた生徒は開始時の半分ほどに減っていた。
 それでも、斎藤遥にいわせれば、帰った生徒の大半はメアドの登録をすませて帰って行ったので、実質初日としては上出来……ということだった。

「……徳川先輩とか楓ちゃんとか茅ちゃんほど、極端にできるわけではないけど……」
 合流してきたパソコン部を代表して、堺雅史がいう。
「……ぼくらも、ぼくらなりに、今日は進みました……」
 現在構築中のシステムは、学校の部活の延長上……に、しては、随分と実用的なプログラムだし、それに基幹部は楓と茅の二人でほとんど完成させている。しかし、細かいアレンジやデバッグは無数に存在し、それを一つ一つ潰している最中だという。
「次に大規模なシステムを組む時は、最初からぼくら自身で組む、くらいのことは、できるようになっていたいですね……」
 そうした反応をみるにつけ、荒野は複雑な心境になった。
 彼ら、一般人の生徒たちは……自分たちがいなくとも、別に困りはしない。
 荒野たちがはこの土地に来るまで、なんの不自由もなく、ごく普通の日常生活を送っていたのだから、当然といえば当然、なのだが……。
 やはり、この土地に執着するのは……荒野自身の、エゴなのだった……。

 今回の説明会を聞きに来ていた教員、大清水先生と岩崎先生は、前者がいつもの通り、後者が他の大半の生徒たちと同様、今日、提示された一族うんぬんの情報をまともに消化できず、戸惑っているのがありありと分かる、といった感じで、このうち大清水先生の方は、
「ボランティアもいいが、学業も怠るな」的な常識論を去りぎわに残して行くだけの精神的余裕を保持していた。

 有働と玉木とともに、荒野と茅、それに楓は、ぞろぞろ帰って行く生徒たちを、頭を下げて見送り、その後、残っていた放送部とパソコン部の生徒、それに徳川と孫子とともに、視聴覚室の掃除を行う。
 大人数だったせいで、掃除はあっと言う間に終わり、この日は完全にお開きとなった。
 とはいえ、放送部もパソコン部も、プログラムやら映像、文書資料の整理とか、自宅に持ち帰って仕事を続ける者も少なくはなかったので、「解散」ではあったが、完全な「お開き」とは言えないのかも知れない。
 最初のきっかけは荒野たちの存在を正当化するためのものだった筈、である。そのボランティア活動が、今では玉木や有働、徳川、それに無数の放送部員やパソコン部の有志たちに主体が移っていた。
『いや……それは、最初から……だったか……』
 少し考えて、荒野はそう思い直す。
 ボランティア活動を発案したのも玉木たちだったし……荒野たちは、その容姿を生かして、せいぜい、一時的に一目を引くためのゲストとして利用されただけだ……。
 そこには必要性と必然性があるだけであり、荒野たちの主体性など、最初からなかった……という言い方も、できた。
『そういや……おれ……』
 これまで……自分の意志でやりたくて、やってきたことって……。
『……あまり、思いつかないな……』
 ここに来るまで、一族の一員として生きて来たことに、迷いなどなかった。ほんの少し視野をずらせば、一般人として、いくらでも安穏な生き方ができる……という知識は、かなり早くから持っていた筈だが……そうした「足抜けして、以後の生涯を一般人として生きる」、という行き方には、以前なら、まるで魅力を感じなかったのだが……。
 最近の荒野は変容し、揺らいでいる。
『……彼のように……』
 不意に、プレハブの中で背を向けて、一心に絵に取り組んでいる香也の背中を思い出す。
 あれだけ真剣に向き合える対象を……荒野が持っていれば、また話しは違ったのだろうが……。
『おれには、本当に……』
 なにも、やりたいことがないからなあ……と、荒野は思う。荒野は、大抵のことは器用にこなすが……自分自身が望むこと、は……実は、よくわからない……。
 荒野は、帰り道でそんなことを考えていた。

「……着替えたら、すぐにこっちにくるように……」
 楓と孫子とマンションの前で別れようとすると、孫子にそういわれた。荒野が怪訝な顔をすると、
「……忘れましたの?」
「荒野、病院で、服のこと、才賀に頼んだの」
 孫子は眉間に軽く皺を寄せ、茅が思い出させてくれる。
「ああ……あれか……。
 で、これからみんなで、服屋にでも行くのか?」
「まさか……。
 服屋の方が、こっちに来きますの。もう近くに待機しています。連絡をいれれば、五分もしないうちにこっちに到着しますわ。
 大ざっぱなオーダーは出しておきましたから、後は細かい部分の寸法を体に合わせるだけですわね……。
 本当は時間があった方がいい仕事ができるのですが、今回は急に決まった会合ですからしかたありませんわ……」
 荒野は軽くめまいを感じた。
 ……テーラーを呼び付けて、その場で裁縫させる……。
 そういう発想を電話だけで実現してしまう……しかも、そのことをまるで不自然に思っていないあたりが……あまりにも、才賀だった。

 一旦マンションに帰ってシャワーを浴び、着替えて狩野家に向かう。
 玄関には十名分以上の見慣れない靴が置いてあり、居間とか続きの間では、テーラーさんがミシンを持ち込んで一心不乱に縫い物をしていた。ミシンは、五台あって、もちろん、フル稼働……ちょいとした戦場気分か味わえた。
「……あ。かのうこうやだ……」
 荒野が茫然としていると、下から声をかけられた。
「なんだ、ガクか……。
 体の方は、もう、大丈夫なのか?」
「……うん。傷は、盛り上がってきているから、何日かできれいにふさがると思う。
 頭の方は……正確な検査結果がでるまで何日かかかるそうだけど、今のところ、異常がないって……」
「……そうか……」
 と、荒野が頷きかけた所、声を聞きつけたテーラーの一人が荒野の前に進み出る。
「あなた様が、今回唯一の男性、ですね……。
 才賀様から万事、承っております。
 採寸させていただきますので、どうぞこちらに……」
 みると、茅も同じように、メジャーを持った鬼気迫る表情のテーラーさんに追い詰められている所だった。

 十五分後。
 体の隅から隅まで詳細に採寸される、という慣れないことをして精神的に疲弊した荒野は、ぐったりとなって炬燵の温もりを堪能していた。
「……なんか……凄いなあ……」
 横目で、職人さんたちが奮戦しているのをみて、思わず吐息を漏らす。
「凄いよね……テンなんか、ミシンにかぶりつきだし……」
 ガクも荒野と同じように炬燵に当たりながら、そう呟いた。荒野と同じくらいに、呆気に取られているらしい。
 テンは、職人さんの手元をかぶりつきで覗き込んでいる。

[つづき]
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