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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(37)

第六章 「血と技」(37)

『分かる、のか……』
 じっと茅に視線を注いでいる佐久間の長をみて、荒野は思う。
 佐久間の長がどれほどの能力を保持しているのか不明である以上、隠し立てしても無駄だろう……とも、思う。
「以前、ある佐久間の術者と接触したことがありまして……」
 荒野は簡単に説明しようとする。
「……その時に見たことを、真似ているだけです。
 術とか技と呼べるほどでは……」
 ……ないと思います……と、続けようとした荒野の言葉を、佐久間の長が、遮る。
「……加納のボンは、ちびっとそろっとしておくんなまし。
 佐久間の技のことは、わてが一番心得ておるんや。
 今は、この娘はんと話したいのどす。
 娘はん……茅はん、いいましたな?
 加納のボンのいうた通り、誰そに習ったとゆーことではおまへん……というのは、本当でっか?」
 佐久間静寂は、にこやかに笑いながら、茅に問いかける。
 一見して柔和な表情であるため、かえって迫力があった。
「本当なの」
 茅は躊躇せず、即答する。
「見て……頭の中で反芻し、基本原理を推測し、実地に試し……自分で、正しい解を探り出したの」
「……そうでっか……」
 静寂は、さらに目を細めた。
「これは今すぐ、とゆーことではおまへんのやけど……。
 茅はん……。
 この先、佐久間の一員となることを、お考えいただけまへんでっしゃろか?」
 荒野は瞠目した。
 佐久間の出方として、様々なパターンを想定していたつもりだが……まさか、顔を合わせていきなり、それも、衆人環視の状況下で、堂々と茅に「寝返れ」とスカウトしてくることは……。
 流石に、想定していなかった……。
「……考えるだけなら……いいの」
 珍しく、茅は数秒、考え込んだ……ように、見えた。
「でも、期待はしないで欲しいの。
 それに……いくら、佐久間の血が、絶えようとしているからといっても……まだ、時間的な余裕は、何世代分か、ある筈なの……」
 荒野に次いで、今度は、静寂が目を丸くしていた。
「……茅はん……。
 なぜ、佐久間の血が、絶えようとしていると……」
「佐久間は、六主家の中でも、閉鎖的な慣習を持つ。
 源吉がそうであったように、その慣習を嫌い、佐久間から離れる者も多かった筈なの。
 加えて、佐久間の能力は、他の六主家に比較しても特殊すぎる。
 恐らく……その能力を、世代を越えて維持するため、近親婚も盛んに行われていたと考えるの……。
 でも、それは……佐久間の能力を色濃くする為には有効だったけど……長期的に見たら……。
 佐久間の、生物種としての生命力……生殖能力を、確実に落としていた……。
 品種改良された家畜がよくそうであるように、固体として優れた能力を持つ純血より、雑種の方が逞しく、多様な状況に対応でき……結果、そして、生殖能力……つまり、子孫を残す率が、高くなる……。
 そう。推測したの……」
 ここで、茅は一度言葉を切った。
「……この推測に確信を持ったのは……。
 佐久間現象を目の前にして、『読んだ』時……。
 現象は……わたしたちのプロトタイプであると同時に……佐久間の諸元性能を強化したタイプ。
 プロトタイプのベースが佐久間だった、ということは……姫、は……もともと、佐久間のためのものだった……。
 しかも……性能強化は、本来の目的ではなく……おそらく当初は……そう遠くない将来、その特性を維持し続けることができなくなるほど、個体数が減少することを予測し……新しい世代の佐久間を、人工的に殖やそうとする……人工生殖の研究だった、筈なの……。
 でも、その研究が……どこかの時点で、歪んだ……。
 本来の目的から離れ……一族という特殊な遺伝子プールから任意の素材を取り出し、それを組み合わせることに夢中になる者が、出始めた……。
 その結果生まれたのが……茅たち、なの……。
 荒野たちは……姫、と、呼称している子供たちなの……」
「……ほんに、加納のお子たちは、おもろい子がおーいですな……」
 静寂は、茅の答えに、目を細めて頷いた。
「その仮説には……いろいろ言いたいことがありまっけど……長くなるんやさかい、続きは、お膳をしもってにいたしまひょ……」

 静寂がそういって軽く手を振ると、お揃いの服を着た人たちがどこからともなく現れ、荒野たちを席につかせた。
 座る場所はあらかじめ決められていたらしく、荒野は、細長いテーブルの端の席に、もう一方の端には、佐久間静寂が座っている。
 静寂の右には、秦野の男三人。左には、秦野の女三人。
 荒野の右には、茅、楓、孫子。左には、涼治、テン、ガク。
 その中間に、野呂竜斎、荒神、中臣、舎人の三人の二宮、シルヴィ・姉崎の席がある。
 給仕を行う者を除けば、会食の出席者はこれで全部のようだ。

『……考えたな……』
 これだけの距離があると、荒野と静寂が小声で内緒話、ということはできない。荒野が静寂と意志の疎通を図ろうと思えば、間にいる者たちに筒抜けになる。
 つまり……やはり、現象の件はきっかけにすぎず……おそらく、この会食は……佐久間が、荒野たちが「姫」と呼んでいる子供たちについて、他の六主家に説明することが、一番の目的なのだろう。
 その目的のためには……現在、四人の「姫」を預かっている荒野と、佐久間の長の話し合いを、他の六主家に直にみせる……というパフォーマンスが、有効だ……。
『……半分、予測はしていたことではあるけど……』
 それまで姿をひた隠しにしていた佐久間……それも、長が、直接姿をみせる……それも、自発的に、まだまだ若い荒野と話し合うために……というのは……どう考えても、不自然すぎた。
 だから、荒野のことをだしにして、直接自分の口からなにがしかの意志を公式に伝えるためのセレモニーだ……とは、荒野も予測していた。
 その、荒野の予測を裏付けるような、席の配置だった。

「……そろそろ、はじめましょうか」
 グラスに飲み物が注がれ、スープの皿が一通り給仕されると、主催側である佐久間静寂が、大きくはないがよく通る声で話はじめた。
「……この度は、びっくりするほど豪華な顔触れが集まってくださやはった。発起人としては、鼻が高いことでおます。
 皆様、すでにご存じの所とは思いるけど、この度皆様に集まってもろたのは、他かてあらへん。
 先程、加納はんの所のかいらしいお嬢はんがおっしゃりたんや通り、加納はんが、姫、と呼んでいらっしゃるお子たちについて、しゃべるためでおますわ。
 加納の姫様はたいへん利発なお方のようで、先程のお言葉は、ようけの真相をついていらっしゃやはった。
 若干、事実とちゃう部分もありまっけど、その子細については、おいおい、お話させてもらうわ。
 また、不祥事をしでかしたわての身内、佐久間現象を、加納のボンが快く引き渡してくださったことについても、この場をお借りして改めてお礼申し上げます……」
 ここで佐久間静寂は、実際に荒野に向けて、深々と頭を下げた。
「……ともあれ、六主家の主だった者が一堂に会するのも、珍しいことではおますわ。
 後のお話は御膳をいただきもって、そろっと行うことにして……せっかくのスープも冷めますさかい、まずは皆様、ごゆるりとご歓談おくんなはれ……」
 そういって静寂は手にしていたワイングラスを掲げ、「一族の未来に」対して、乾杯の音頭をとった。

[つづき]
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