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彼女はくノ一! 第五話 (122)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(122)

 荒野の提案を佐久間の長が快諾したのなど、まだ序の口で、その後も、楓の思惑などは軽く飛び越した話しばかりが続いた。
 佐久間の長が、荒野の目の前で茅をスカウトする。
 茅は、お返しに、種としての佐久間の衰退、という仮説を披露し、その根拠として、姫のプロトタイプであった佐久間現象のベースが佐久間の体質であることを指摘する。
 佐久間の長は、茅が提示した推測に関する評価は差し控え、控えていた給仕に案内させ、招待客にテーブルにつかせた。
 スープと前菜が運ばれ、やはり佐久間の長が乾杯の音頭をとったが、その後すぐに、荒野の要請され、「姫の計画」の顛末について、涼治が長々と話しはじめた。

 そこで話された内容は……驚くべき、というよりも、もっと悲痛な……もの、だった。
 当初、出生率の低下を是正するために、加納と佐久間が共同で立ち上げた遺伝子改良計画が、他の勢力の介入により歪められ、「より高性能の人間」をデザインするための計画、に、変質しはじめる。
 一方、計画の存在自体を快く思わない一族の者たちが密かに糾合し、研究施設の襲撃を計画する……。

「……結果は、いうまでもないだろう……。
 場数を踏んだ一族の者が……多少の護衛はついていたとはいえ、ほとんど無防備だった研究者と妊婦、乳幼児、新生児の集団を……不意をついて、襲ったんだ……
 それも、当時の責任者が留守の時を狙いすましてな……。護衛として残された人間は、個々に抵抗を試みたが、事前に命令系統を寸断されていたので、悪あがき程度の抵抗しか、できなかった……」
 救援が駆けつけた時には……研究者と被験者を合わせ、五百からいた人員は……数えるほどしか生き残っていなかった……と、いう。
「……ひどい……」
 涼治が話しを区切った時、楓は小さくつぶやいた。隣をみると、孫子も険しい表情を、している。
 テンとガクは……蒼白な顔をして、細かく震えていた。
「……じゃあ……ボクたちは……その時の、生き残り?」
 しばらくして、ガクが、細い声で呟く。
「そうだ……」
 涼治は、即答した。
「……いち早く事態を察知した研究者の一人が……妊婦と子供を、できるだけ多くシェルターに逃し……自分を囮にして、襲撃者ごと、研究施設を自爆させた……。
 そのおかげで、一部の研究者と、研究の成果である何人かの赤ん坊を残し……一切合切が、瓦礫と化した……。
 計画は……その場で、凍結するしかなかった……」
 涼治は太いため息をついた。
「……今まで黙っていたのは……説明せずにすむのなら……その方がいい、と、思ったからだ……」
「……質問が、ある……」
 それまで俯いていたテンが顔をあげ、涼治の顔をまともに見据えた。
「……その、研究所があった場所って、ひょっとして……。
 ボクたちがいた、島?」
 ガクが勢いよく立ち上がり、テンの顔をみる。
「……その通り……。
 よく、分かったな……」
 涼治は軽く頷く。
「ついでにいうのなら……お前らを育てた男は……その当時、研究施設の警護に当たっていた者の……生き残り、だった……。
 襲撃があった時、執拗に抵抗したため、本人もかなり重症を負ったが……リハビリが済んだ後、残された子供たち引き取ってあの島で暮らす、と、言い出した……。
 我々には、その男を引きとめられなかっよ……。
 その男は……そのような襲撃を企図し、実行した一族すべての者……いいや、人間すべてに……嫌悪と、懐疑心を持つようになっていた……。
 子供たちが大きくなり、自分の意志で島をでるといいだしたら……その時は、素直に手放してやってくれ、と頼み……後は、生活物資の補給など、間接的な支援をするにとどめた……」
 その話しを聞いて……楓は、想像する。
 その時の事件は……まだ物心のつく前だった、茅やテン、ガクなどよりも……直接間接に関係していた大人たちのほうに、暗い影を落としているのではないか、と……。
「……茅と……それに、おれの親父は……」
 荒野が、絞り出すような声で、涼治に質す。
「そのことに、どう、関係するんだ……」
「……茅は、その時に生き残った赤ん坊の一人。
 仁明は、当時、加納側から派遣されていた、計画責任者だった。ただ、襲撃があった時は、たまたま研究所を留守にしていた……。
 いや。
 仁明が島を離れた時を選んで、襲撃が実行された、と、見るべきか……」
「親父は……何で、島から離れたんだよ!」
 荒野が、語気鋭く、叫ぶ。
「……お前が、産まれそうだったんだ……。
 難産だった。
 母体か子供か、どちらか、あるいは両方が危ないといわれていた。
 ヘリで本土に向かう途中……」
 涼治は何度目かのため息をついた。
「……襲撃の報と、それに、母親が死んで、お前が産まれた、という知らせが……前後して、ヘリに届いた。
 さまざまな葛藤があったのだろうが……仁明は、結局、ヘリを島に戻させ……数時間後、瓦礫の山に降り立った……。
 そこで、瓦礫に埋もれて泣き声を上げていた赤ん坊に……お前を産んだ女の名を、与えた……」
「……生き残ったのは、ボクたちだけだったの……」
 ガクが震える声で涼治に尋ねる。
「……大人と赤ん坊、合わせて五十人くらいがなんとか生き残ったが、そのうち二十近くが、その時に負った怪我が元で、一日と保たずに、亡くなった。
 残りの三十人のうち、大人は十人。
 大多数が、遺伝子操作をされた卵子を体内に育てていた妊婦だった。研究者自らの子宮を使用している例もあれば、一族とはまるで関係ない、雇われて外部から連れられてきただけ、という代理母もいた。
 その中には……研究所を爆破した男の、妻もいた。その夫婦は……両者とも、佐久間だ。
 成人男性の生存者は……テン、ガク……お前らがじっちゃんと呼んでいた、あの男だけだ……。
 襲撃者の遺体も、瓦礫の中から多数、発見されたが……それで全員だったのか、それとも、逃げ延びた者がいるのかどうかまでは……現在になっても、判然としていない……。
 生き残った赤ん坊のうち、大半は、一族としての形質を獲得していなかった。そうした子供たちは、成長し、一般人と変わらぬ能力しか持たないと分かった時点で、民間の養護施設に順次、送られた……」

[つづく]
目次

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