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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(39)

第六章 「血と技」(39)

 茅たちは、その襲撃をなんとか切り抜けた生き残りだった……と、涼治は語る。
 ガクやテンたちを育てた男も、当時研究所の警護にあたっていた者で……。
 計画の、加納側の監督者だったという仁明は、その時、何をしていた、と、荒野は涼治に詰め寄った。
「……お前が、産まれそうだったんだ……。
 難産だった。
 母体か子供か、どちらか、あるいは両方が危ないといわれていた。
 ヘリで本土に向かう途中……襲撃の報と、それに、母親が死んで、お前が産まれた、という知らせが……前後して、ヘリに届いた。
 さまざまな葛藤があったのだろうが……仁明は、結局、ヘリを島に戻させ……数時間後、瓦礫の山に降り立った……。
 そこで、瓦礫に埋もれて泣き声を上げていた赤ん坊に……お前を産んだ女の名を、与えた……」
 それが……茅だった……と、いう。

 荒野の脳裏で今まで疑問に思っていた事柄がぐるぐると回る。

 何故……茅は、一族としての技能を一切教えられなかったのか?
 茅を育てた仁明が……茅を、「一族の一員」として、育てることを望まなかったからだ。
 何故、ガク、テン、ノリを育てた男は……三人に対し、一族の技を教えながら「一族を越えてみろ」と言い聞かせていたのか?
 その男は……一族全体に、激しい失望感を抱いていたからだ。

 後半生、世間に背を向け、人里離れた場所で、特殊な子供たちを育てた二人の男は……表面的に見れば、まるで正反対の教育方針を採用していた訳だが……動機の根本の部分は、ひどく似通っているように思えた……。

「……じじいは……親父……仁明の居場所を、知っていたのか?」
「わしは……知らなかったよ。聞こうとも、思わなかった。
 茅を抱え、どこかに潜んだことは知っていたが……あえて、探さなかった……」
 荒野の問いに、涼治は、答える。
「知っていたのは……物資の補充をしていた、秦野衆くらいなものだろう……」

「……我々は……」
「現役時代の仁明氏に……」
「かなりの貸しを作っていましたから……」
 見分けのつかない秦野の男たちは、一つのセンテンスさえ、三人で分担して話す。
「数年間、生活必需品を……」
「運び込むことで、その貸しが返せるものなら……」
「今までの対価としては、安いものです……」
 荒野は重ねて、秦野衆に現在の仁明の消息を尋ねたが、即座に、「茅と別れた後の消息は、知らない」と返された。

「仁明の消息なら……」
 それまで黙って聞き耳を立てていた荒神が、赤い舌を踊らせる。
「今、ぼくが、人を使って探らせているよ……。
 なにか分かったら、真っ先に荒野君に知らせると約束しよう……」
 その約束が実行されるのは、少し先の話になる。

 涼治の説明が一段落すると、荒野はその場にいた大人たち全員に、
「……佐久間現象の背後にいた首謀者について、何か参考になる情報を知らないか?」
 と問いかけた。
 横目で確認してみれば……テン、ガク、茅……それに、楓や孫子までが、涼治の話しを聞いて、動揺した様子を見せている。
 無理もない……と、思うし、荒野自身も、思うところはあるのだが……所詮、過去は過去、だ。
 今は、過去のことよりも、もっと差し迫った問題がある。
「……その前に、現象のこと、聞きたくあらしまへんか?」
 その時、不意に荒野に声をかけてきたのは、今夜の主賓である佐久間静寂である。
「……今の話しにできた、研究所を自爆させた男と、その妻……ともに、佐久間の研究員であらはったわけどすが……。
 その時、身重だった、生き残ったおなごはんな……。
 そのおなごはんの中にいたのが、現象どす……」
 その夫婦の夫の方が、先代の佐久間の長の息子にあたり……。
「……ちょうど、加納はんとこの、仁明はんと同じ立場……。
 当時の、佐久間側の監督者、ということになりますなぁ……」
 現象を身ごもったまま、夫の自爆、という行為で、なんとか生き残った女は……事態収拾の混乱期に、失踪し……そのまま数年間、一族の者たちの前から姿を消した。
「……母親の方が佐久間の技を仕込まれておりやしたので……母子二人でも、一般人をようけ操って、どうとでも暮らして行けたのでっしゃろ……」
 一族の……いや、佐久間の手の者が、数年後、二人を発見した時……母親の方は強迫観念に取り付けれ、すっかり精神を病んでいた。そんな母親に育てられた現象は、子供特有の単純な価値観に驕慢な性格を備え、さらに、佐久間の技を母親に仕込まれた……ひどく、危険な存在になっていた。
「……もう、五年ほど前になりますかな。
 某所で、見境なく佐久間の技を使って悪さをしているボンがおる、いう噂が広がりましてな。で、網を張って捕まえてみたら……それが、現象だったわけどす……」
 現象が取り押さえられる同時と、安アパートで同居していた母親の身柄も押さえられた。しかし、母親の方は、完全に精神を閉ざして外界の変化に一切の反応を示さず、肉体的な衰弱も著しく、現在に至るも、病院のベッドで寝たきりの生活を続けているという。
「そんで、当時の跡取りの夫婦がそんなんなってしもうたさかい、わてみたいな若輩者が佐久間の長、やらしてもろうとるわけですわな……」
 静寂は、自爆した佐久間の監督者の、妹……という関係だという。
 この一件でひどく気落ちした当時の佐久間の長は、まだ若年だった静寂に無理矢理家督を継がせ、早々に引退した。

 現象は……研究の成果である、頑強な身体、それに、母親に佐久間の技と、自分は佐久間本家直系の男子である……という、強迫観念に近い増長心……さらに、父親を自爆に追い込み、心を病むほどに母親を追い詰めた、一族全体に対する恨みを根深く心に宿した、ひどく、暗い目をした少年として、佐久間の前に現れた。
 大人の佐久間より術に長け、六主家の大人以上の身体能力と、深く暗い情念を身につけた現象は……。
「……現象の方も……何度か、矯正を試みたんどす。ですが、なぁ……。
 ……正直、往生しましたわ。
 何人も病院送りにされた後、ようよう観念して、念を入れて記憶を封じ、身体の方も人並み以下の能力しか発揮でけんようにして……養子を探していた一般人のご家庭に、里子にだしましたわ。
 あのまま、その封印を解かれず、一般人として暮らしとった方が、あの子のためにはなんぼか良かったんとちゃいますかな?
 それを……わざわざ出向いていって封印を解き、あの子を焚きつけたんがいましてなぁ……」
「その……現象の封印を解いたやつらに、心当たりは……」
「あるといえばある。ないといえばない。
 証拠はあらへんけど、動機と方法を持っている者には、心当たりはおます、いうところですなぁ……。
 加納のボンも……なにがしか、思うところがあるんとちゃいまっか?」
「……あり、ますね……確かに……。
 先程の話しに出てきた中で、生き残った大人は……ほとんど、佐久間の研究者や、妊婦だったわけですね?」
「奇遇どすなあ。
 わても同じ人たちのことを、思い浮かべましたわ……。
 確かに襲撃によって、研究資料の大半は失われましたけど……生き残った佐久間の頭の中に、丸まる残っておったわけどすな……。
 彼女らには、自分らをひどい目に合わせた一族に対する恨みつらみがある。研究を再開するために必要な、情報や知識、蓄積された実験データやこんまいノウハウも、ぎょうさん持ってなはる。
 そんなおなごはんが、対一族用の人材を、こっそり、どこぞで育成しておったら……そりゃ、えらいことになりすわなぁ……」

[つづき]
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