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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(40)

第六章 「血と技」(40)

「……まいったなぁ……」
 荒野は……ぼやいた。
 今まで伏せられた情報を開示され、大まかな状況を呑み込んだ荒野は……。
「……親の因果は子に報い……なんて、今時、流行らないよ……。
 おれ、今までそういう泥沼の現場に、仕事として何度か係わってきたんだけどさ……そういう世代を越えて受け継がれる骨絡みの恨みって、結局、何もうまないんだよね……。
 親父たちの世代でいろいろあったのは理解できたけど……それ、茅やガク、テン、ノリ……つまり、おれたちの世代までた引き継がれなければならない……って、義理は、どこにもないわけでしょう?」
 そう、ぼやくしかない。

 それまで荒野は……本来なら自分にはあまり縁がない土地に入り込み、そこでの骨絡みの抗争に、仕事として首を突っ込んできた。
 これまでは……よそ者の、「他者」として……。
 しかし……今回の案件は、直接、自分のルーツに係わってくる……。
 まったく、「……まいったなあ……」というのが、率直な感想だった。
 嘆いてばかりいても埒があかないので、荒野は表情を引き締める。
 集まった一族の重鎮たちもそうだが……茅やテン、ガクも、ここで荒野がどのような決断を下すのか、観察しているのを、荒野は感じていた。
 荒神に揶揄されてそれをいなしたり、涼治に内通者がいる可能性を指摘したりしながら、荒野は思考をいそがしく回転させる。
 どうしたら……みんなが、自分が……納得できる解決策を、提示できるか……。
 そして、大まかな方針を決定した。
「おれに、茅を笑わせて見ろ……って、そういったのは、じじいだろ?
 大人の方はそっちに任せるけど……子供の方は、とっ捕まえて……迷惑をかけられた分、いやというほど尻でも叩いてやるさ。
 そして……更生するまでそばにおいて、まともな社会生活に、無理やり、適合させる。
 そうでもしなけりゃ……落ち着いて、平和な学園生活を、送れやしない……。
 テン、ガク……それに茅!
 そういうことで……いいな?」

 今回の案件は……笑えない。
 まったくもって、笑えない。

 過去は過去として……どうして、その時、まだ赤ん坊だった自分たちの世代にまで……そのツケが、回ってくるのか?
 襲撃を受けた当時、研究所にいた人々は……確かに、災難だったろうけど……だからといって、生き残った人々が、多大な巻き添えを作りながら復讐を行ってもいい、という理由には、ならない。
 ましてや……子供たちを復讐の道具として作り、使うなんて……まったく、笑えやしない。

『どっちに向いても……』
 茅や、テン、ガク、ノリ。
 ……茅を育てた、仁明。三人が、じっちゃんと呼んでいる男。
 佐久間現象とその両親。
 おそらく、その裏にいるであろう、一族を目の敵にする集団……。
『……被害者だらけ、じゃないか……』
 こんな……笑えない茶番は……一日でも早く終わらせるべきだ……と、荒野は思う。

「……え?」
「う、うん……」
 荒野にいきなり問いかけられたテンとガクは、顔を見合わせて、曖昧にうなずく。
「……えーと……。
 今、いったことが、よく伝わっていなかったかな?
 静寂さんの説明にあるようなやつらが、今後の相手だと、仮定して……昨日のようなふざけた真似は、もう二度とやらせない。
 向こうがなにか仕掛けてきても、何が何でも、未然防ぐ。
 かといって、相手を殺して禍根を絶つ、とかではなく……。
 ひっ捕まえて、いやというほど尻を叩いて……二度とあんなふざけた真似をできなくなるように、性根をたたき直す……。
 そう、いいたかったんだが……。

 お前ら……反対か?」
「反対か、賛成か、っていったら……」
「決して、反対、ではないんだけど……」
 テンとガクは、やはり困惑した様子で顔を見合わせながら……曖昧に言葉を濁す。
「その……実際に、そんなこと……できるの?」
「できなくても、やるんだ。
 捜査とか早期警戒とか、組織力がものをいう場面は、じじいたちに任せておけばいい。
 おらたちの役割は……」
 荒野は……漠然とイメージしていたアイデアを言語かしようとして……不意に、吹き出しそうになった。
「……殺伐とした、殺し合いや潰し合い……。
 血なまぐさい、報復の連鎖を……」
 荒野の脳裏に、最近見聞きしたさまざまなシーンが蘇る。
 楓と孫子の喧嘩。テン、ガク、ノリが来た時の、いくつかの騒動。自分と佐久間現象とのどつきあい。見世物のヒーローショーにしちゃえば、という玉木のアイデア……。
「……コミカルなヒーロー・ショーに、しちまえばいい。
 玉木も、なんかそんなようなこといってたし……。
 茅もお前らも、そういう勧善懲悪なの好きだろ?」
 荒野自身は……この世界が、善悪で割り切れるほど単純なものではない……ということを、知り抜いている。
 だから、子供向けのフィクションとしては、そういうのもアリだな……とは思うが……。
 そういった作り事を素直に楽しむには、荒野は、様々なことを経験しすぎていた……。
「テン!
 徳川とは、いろいろ新兵器を考えているんだろ!」
「……えっ!
 ……あ……あー……うん。
 今回は、試作品のプロテクターくらいしか間に合わなかったけど……トクツーさん、アイデアの活火山、みたいな人だから、ほっとくといくらでも開発してくれるし……」
「その調子でどんどんやれ!」
「……加納……」
 それまで黙って聞いていた孫子が、荒野に話しかける。
「作ってもらったライフルの調子が予想外によかったので……わたくし、徳川の工場に出資して、あの内部か近所に、射撃場を作らせようと思ってますの……」
「実に結構だ。
 炸薬など、弾薬を生産するのに入手しにくい材料は……」
「わかってますわ。
 才賀から調達できるように、手配します。
 必要な物資を十分に確保しておく。
 これは、基本中の基本ですわ……」
「楓も、消耗品の投擲武器を、徳川に量産させておけ。
 ライフルに比べれば単純な構造だから、頼みさえすれば、すぐに手配がつくだろう。いや、それ以上に……徳川が、お前用になんか変なものを作ってくれるかもしれないな……。
 必要な資金は、おれが出してもいいし、一族につけておいてもいい……」
「……ねーねー。かのうこうや……」
 今度は、ガクが荒野に話しかけてくる。
「昨日の……で、ボク、すっごく反省している。
 ボクは……もっといろいろなことを、学ばなくてはいけないんだ……。
 手初めに、ボクは、もっと強くなりたい。
 それで、楓もおねーちゃんに……稽古をつけてくれるように、いってくれないかな?」
 荒野は、すぐに頷く。
「そういうことで、いいな?
 楓……」
「……え? あっ……はっ! はいっ!
 わたしで、よければ……」
「……こりゃ、いいや!」
 楓が背筋を延ばして返事をすると、荒神が両手を叩いて笑い声をあげた。
「中臣君!
 このぼくに、可愛い孫弟子ができたそうだよ!」
「……そうなると、専用の訓練所も必要か……。
 おい! 才賀!
 射撃場作るんなら、外から見えない、少し広めの……」
「……いいですわね。
 どうせ、用地を確保するのは一緒ですから。
 おそらく、近隣の倉庫のような建物を買収することになりますけど……どのみち、あればわたくしも使用しますから、射撃場と兼用ということにして……」
「……それで、ボクと、茅さんは……佐久間の技、か……」
 テンがなにやら考え込む表情になった。
「確かに……現在のボクらの戦力を増強するために、できることはなんでもやろうって方針は分かったけど……。
 かのうこうや……。
 相手は、ボクらの改良版なんでしょ?
 いくら鍛えても……基本性能は、向こうのが、上なんじゃあ……」
「……生まれもった素質だけが、全てじゃない。
 現に、お前らは、三人で、楓と孫子に勝てなかったろ?」
 テンは、ガクよりは、やはり冷静だな……と、荒野は思った。
「……熟練した技は、そのくらいのハンデくらい、容易に跳ね返すことができる……。
 実際……一対一でやり合ったとしても、ここにいる古株とお前らじゃあ……お前らの方に、分がないぞ……」
 戦闘準備と……それに、マッチメイクの問題、もある。
『駄目モトで……』
 玉木たちが以前話していた「ご当地ヒーローで、隠れた敵を挑発」というのも……試してみる価値はあるかな……と、荒野は思いはじめている。

[つづき]
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