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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(41)

第六章 「血と技」(41)

 全力で迎撃態勢を整え……敵の襲撃を未然に防ぎ、実動部隊を取り押さえて無力化し、更生させる……という荒野がその場で打ち出した方針は、楓が不審そうな顔をしている以外は、概ね受けいられたようだ。
 とはいえ、六主家の主だった者は、荒野の提案に賛意を表している……というよりは、おそらく……荒野の一党がどこまでやるのか、やれるのかを……この機会に、見ておこう……という理由で黙っている。
 荒野と、それに仮想敵……実戦力を図るための情報が少ない、という点は、双方とも同じであり……その二つの勢力がぶつかって、正確な戦力評価の機会を与えてくれるのなら……喜んで黙認してくれるだろう……と、ここまでは、まずは荒野の読みどおりだ。
 荒野たちが目的を達成できなかったとしても……荒野たちとまともにぶつかり合えば、敵にも相応のダメージを与えることになる筈で……。
 他の六主家にしてみれば、荒野たちが失敗しても、弱体化した敵を、ゆっくりと、料理していけば、いい。
 荒野たちの行動を黙認しても……なんら、デメリットは生じないのだった。
 むしろ……彼らの側らみれば……荒野は、進んで貧乏籖を引きにいっているようにみえる筈……なのだった。

 陰惨な印象を受ける「遠い過去」の話しがひと段落し、昨日の事件の検証に荒野が話題をうつす。すると、その場にいた全員が、硬くなった表情をゆるめたのを、荒野は確認した。
 事件のあらましを知っていた人々には、あまり触れて欲しくはない暗部であり、初耳の者にとっても重苦しい話題だった。そこから話しの先がそれたことで、明らかに全員が安堵しているよう見えた。

 荒野は、佐久間現象をから聞いたことと、そこから推測したことを、一つ一つ確認していく。
 野呂や二宮の若い者に一人一人声をかけ、どこかのノーマンズランドにあるはずの秦野のコロニーに出向いていって、「海外旅行に誘う」という名目で日本にまでご足労願う。
 同時に、佐久間の公式ルートを使って、二宮本家から、人員の派遣を要請する……。
 予想していた通り、表だって動いていたのは現象のみであり、その背後にいる連中は、まったく姿をみせていなかった。
『……しかし、まあ……』
 ご苦労なことだ……と、荒野は、佐久間現象の働きたいして、そういう印象を持つ。
 こうして検証してみると……佐久間現象は、実に精力的に動いている。
 二宮から人を引っ張ってくるために、佐久間の公式回線を使った時は、父親の暗証コードまで使ったそうだ。
 その話しを静寂から聞いた時、荒野は、
『……十年以上前に死んだ男専用の暗証コードが未だに使える、というのは、セキュリティ的に……どうなんだろうか……』
 と、思いかけ、それから、現象の父親が本家筋の人間であった……ということを思い出す。
 血筋や家系にどの程度重きを置いているかは、六主家でもまちまちなのであるが、静寂の今までの話しぶりから類推するなら、佐久間は、どうやら、その種のことを比較的重視する精神的な風土を、持っているようだった。
『……だとすれば……』
 普通の佐久間の者なら、仮になにかの間違いで、本家筋の認証コードなんてものを手にいれても……恐れ多くて使おうとは思わないし……また、誰かが軽はずみに使用する、などという事態も、想定はしないのであろう……。
 権威とは、そういうもので……現象は、そうした佐久間の気風と、自分の出自とを、うまく利用したことになる。
『……本当に……』
 使えるものは手当たり次第、なんでも利用して回ったのだな……と、荒野としては感心するより他ない。とはいえ、その感心の仕方は「呆れかえった」とか「開いた口がふさがらない」類のもので……行動力にも感心するが……それ以上に、本来、まるで戦力を持たない筈の現象が……小手先のセコいペテンと口八丁手八丁だけで、寄せ集めとはいえ、結果として数十人の人間を集めたのは……心情的には、全然評価したくはないのだが、十分に評価に値するのだった。
『……智力の佐久間、の本領か……』
 少なくとも、荒野自身が「同じ事をやれ」といわれたら、躊躇なく尻込みしたことだろう。現象のやり方は……あまりにも不確実な要素が多く、リスクが大きすぎる。博打も、いいところだった。無謀、というよりは……現象には、もっと切実な破滅願望があるのではないか……と、荒野は思った。

 現象をけしかけた連中にしても……「佐久間現象」という人材は、さぞかし、利用し甲斐のある人間であったに違いない……。

 荒野がそんなことを考えている間に、いつの間にかガクが、秦野の女たちに問いつめられている。
 どうやら、商店街での件は、ガクの方から秦野に、「挑戦」したらしい。
 もっとも、ガクが動かなくても、秦野と商店街にいた荒野の一党……と、佐久間現象の側から見なされている人間。ガク、テン、楓、孫子。それに、荒野自身……の誰かが悶着を起こすようにし向けるだけなので……仮に、ガクの方からアプローチすることがなくとも、別の人間が別の騒動を起こす、ように、し向けられたのだろう。
 秦野の女たちが集団でこんな場所に来ている……という事実が判明しただけで、荒野たちは過剰に警戒心を強める筈で……そこをつつくのは、容易なように思えた。

「で、加納の後継ぎさんよ……」
 野呂竜斎がワイングラスを傾けながら、荒野に話しかける。
「……無駄な殺し合いは避けるべきだ、復讐やら報復の連鎖は断ち切るべきだ……。
 ま、ご高説はもっとだわな。いうとおりに、世の中が清潔になりすぎちまったら、おれたちゃ、おまんまの食い上げだけどな……。
 だがよ……そいつは……実際にやろうと思えば、かなり難儀な事だぜ……。
 荒野……お前さん、当てはあるのか?」
「あるといえば、ある。ないといえば、ない」
 荒野は先ほどの静寂の言い回しを引用して、答えた。
「強いていうなら……さっきもいったように、この一件をシリアスなノンフィクションから、コミカルなフィクションに変換しちゃうんだ。誰もが、真剣に思い悩むのが馬鹿らしい見せ物に……」
「さっきいってた、ヒーロー・ショーってやつか?
 うちの若いのが……お前さんの仲間の変なのに、エキセトラに勧誘されたらしいが……あれは、本気だったのか……」
「……なんのことだ……」
 昨日、回線越しに野呂の若者と徳川篤朗が接触した一件について、話しを聞いていなかった荒野は首を傾げた。
「……荒野よ……。
 一般人とつるむこと自体が悪いとはいわねーがよ……。信じすぎると……いつか、足元を掬われるぜ……」
 野呂竜斎は、げっぷをした。
「……一般人との共存を考え、実際に試みた一族の者は……お前が、最初でもないだ……。
しかし、だ。個人対個人、というレベルではともかく、集団とか地域とかで、長期的な共存が成功した例は……今まで皆無だった、ってことを、肝に銘じておくんだな……。
 人間、なんてのはだな……そうそう、ご立派な代物じゃあねぇんだ……。
 おきれいでご大層な理想ばかりじゃあ、世の中は動きやしねぇんだぜ……」
 最後に竜斎は、「ま、若いうちは、いろいろ試してみるのもいいだろうがよ」とつけ加える。

[つづき]
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