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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(42)

第六章 「血と技」(42)

 荒野は、感じ入った。
 竜斎の言葉に、ではない。
 他でもない、普段、あれほどやりたい放題にしている竜斎が、そのような「比較的まともな意見」を年少の自分にしみじみと語った……という事実に対して、ひどく感銘を受けた。
 野呂……は、六主家の中でも個々人の力量を評価し、よくいえば自由競争的な思考を是とし、悪くいえば、本人の実力次第でどんな欲望でも叶えることを肯定する、行きすぎた実力主義ともいうべき風潮を持った集団である。
 とはいえ、やはり実際に仕事をするとなると、最低限の折り合いをつける社会性は必要となってくるのだが……それでも一般人の規範に比べれば、「自分の欲望を追求する」という行為に対する寛容さを持っている。で、なければ、「老害」とか「歩くセクハラ」とかいわれる竜齊が、野呂の長をやっていけるわけがないのであった。
 その竜斎がわざわざいった、ということが、言葉に、重みを与えている。
 実感……それも、経験からきた言葉、なのだろう……。
「……忠言、肝に銘じておきます……」
 荒野としては、殊勝にそう頷くしかないのであった。
「若……」
 二宮中臣が、困惑顔で話しかけてくる。
「その……ヒーローがどうとか……少々、話しの流れが見えにくいのですが……」
「……そうか……中臣さんは、知らなくて当然だな……」
 二宮は、長である荒神が楓たちと同じ家に住み込んだり、学校の教師をしていたりするのだが……荒神の性格からして、そこで知り得た情報を、わざわざ二宮に送る……などというマメなことをしているわけがないのであった。
 だとすれば……中臣に届いているのは、涼治が配置している監視網から届いてくる、表面的断片的な情報のみ、ということになる。
「今、おれたちの通っている学校には、発明狂とかマスコミ志望の生徒とか、個性豊かなのが多くてな……。
 そいつらの発案で、おれたち、地元社会に貢献することで、自分たちの居場所を作ろうとする、準備をはじめた所で……思いがけず、佐久間現象が、襲ってきたんだ……」
 二宮中臣は最初、荒野がいっていることが理解できない、という顔をした。
 しかし、隣に座る荒神から補足説明を耳打ちされたりするうちに、がくん、と、中臣の顎が落ちる。
 俗にいう、「開いた口がふさがらない」というやつで……荒野は、普段、びっとしている中臣がこれほど間の抜けた表情を見せるのを、初めて見た。
「……わ、わか……」
 中臣の声は、震えていた。
「……す、すると……なにですか?
 ひょっとして……一般人に、一族のことを……」
「うん。説明した。
 最初のうちは、うるさくかぎまわってきそうな数人に話しているくらいだったが、昨日の一件でどうにも隠しきれなくなってね……。
 おれとしては、もう少しあそこで頑張りたいし、だから、今日の昼間も、学校に人を集めて、必要な範囲内で説明会をやってきた所なんだ……」
 中臣の横で、舎人が、「あーあ……いっちゃった」という顔をして、首を振っている。
「……せつめい……会……」
 中臣の頬の肉が、ひきつっている。
「すると、何十人もの人間に……」
「……んー……五十人はいたかなぁ……」
「正確には、ピーク時で六十八人なの……」
 荒野が暢気な口調で大まかな人数を伝え、茅が正確な情報を補足する。
「……若!」
 根が真面目な中臣は、案の上、暴発した。
「自分が何をやったのか、わかっていらっしゃるのですか!」
「……わかっている。
 でも、他に選択肢がなかったんだ……」
 荒野は、真顔で中臣に応じた。
「竜齊さんのいうこともわかるし、中臣さんの危惧も理解している。
 だけど……あそこには、おれが、守りたい人たちがいる。
 そういう感情をなくしてしまったら……おれは多分、現象やその背後にいるやつらと、同類になっちまう……。
 おれは、まだ……竜齊さんほどは絶望していないし、中臣さんほど打算的にはなれない……。
 甘いとは、分かっているんだけど……本当に駄目になるまで、好きなようにやらせて貰えないだろうか?
 もちろん、関係のない一族の情報は極力漏らさないようにするし……それに、闇雲にやつらを探すより……一カ所に網を張って、そこにおびき出す方が、簡単だと思う。
 おれたちの居場所を固定して、その上で挑発を繰り返せば……やつらの注意も、それなりに引きつけられるのではないな? 漠然と当てのない捜索をしたり、闇討ちをされるのを待っているよりは、いくらかマシだと思うけど……」
 中臣は、顎に指をつき、しばらく思案した後、不承不承、という感じで、荒野の意図を確認してきた。
「つまり……若は、自分たちを囮にして、網を張ると……」
「うん。
 聞いた話しじゃあ、やつらの意図は、一族全体を潰すこと。
 しかも今回、現象を使って威力偵察をしてくるくらいだから……茅たちには、強い興味を持っている筈だ。
 その茅、ガク、テン、ノリから……ネットを通じて、堂々と挑戦状と解釈できる映像を流したら……くらいついてくるんじゃないかな?」
「……そんなに、うまく……」
「いくかどうかは……正直、やってみなくては、わからない。向こうが何を考えているのか、推測するばかりではっきりとしたことはわかってないからね。
 でも、万が一、そんなことでやつらの興味をこっちに引きつけることが出来たら……おれたち迎撃する側にとっては、かなり都合がいい。
 警戒する範囲を大幅に狭めることになるんだから……。
 いつ、どこに攻撃を受けるかわからない、というのと……いつかは分からないけど、この近所の特定の人を狙ってくる、というのとでは……同じ警戒態勢でも、かなりやりやすくなると思うけど……」
「……それって、つまり……」
 テンが会話に割り込んでくる。
「その、謎の襲撃者が、ボクたちを標的にしやすいように誘導する……やつらを釣るための餌になれ、ってことだよね……」
「お前らは……肉体的なスペックのみでいうのなら、一族の誰よりも頑強だ……」
 荒野は、にやりと笑う。
「それに、お前らだけでうまくやつらをやりこめれば……お前らが、一族を越えたことを、証明することになる……。
 じっちゃんの言葉を本当にすることは……お前らにとっても本望だろう?」
「それって……ボクらにとって、すっごくリスクが大きいよね……」
 そう答えるテンは、かなり真剣な顔つきをしている。
「大きいな……」
 荒野も、真面目な顔をして頷いた。
「でも……成功すれば、お前たちは、正真正銘の正義の味方だ……」
「ボク……ガクほど単純じゃないから、そういわれてもあんまり嬉しくない……」
 テンは、わざとらしくむくれてみせる。
「でも……じっちゃんを嘘つきには、したくないな。
 確かに、ボクらが一族を越える者、であることを証明する、いい機会ではあると思うし……。
 いいよ。
 その餌、なってやろうじゃないか。ノリにも、後で説得してみる……。
 ガクはどうする?」
「やるよ」
 ガクは、テンほど悩まなかった。
「ボク……昨日の件の原因を作ったそいつらのことは……本気で、怒っているんだから……。
 引きずり出して、謝らせてやる……」

[つづき]
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