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彼女はくノ一! 第五話 (126)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(126)

『ヒーロー・ショーって……』
 何? と、耳が拾った単語について、楓が疑問に思っていると、
「その……ヒーローがどうとか……少々、話しの流れが見えにくいのですが……」
 二宮中臣が、ズバリ、楓が疑問に思ったことを、荒野に尋ねてくれる。
「……そうか……中臣さんは、知らなくて当然だな……。
 今、おれたちの通っている学校には、発明狂とかマスコミ志望の生徒とか、個性豊かなのが多くてな……。
 そいつらの発案で、おれたち、地元社会に貢献することで、自分たちの居場所を作ろうとする、準備をはじめた所で……思いがけず、佐久間現象が、襲ってきたんだ……」
 ここまでは、楓も承知している。
「発明狂」とは徳川篤朗で、「マスコミ志望の生徒」は玉木珠美や有働勇作のことだろう。
 しかし、二宮中臣にとっては初耳だったらしく、ぽかんと三十秒ほど口をあけてぼんやりした後、ごそごそとなにやら隣に座る荒神に耳打ちをされ、気を取り直して表情を引き締めた。
「……わ、わか……」
 しかし、それでも中臣の声は、震えていた。
「……す、すると……なにですか?
 ひょっとして……一般人に、一族のことを……」
「うん。説明した。
 最初のうちは、うるさくかぎまわってきそうな数人に話しているくらいだったが、昨日の一件でどうにも隠しきれなくなってね……。
 おれとしては、もう少しあそこで頑張りたいし、だから、今日の昼間も、学校に人を集めて、必要な範囲内で説明会をやってきた所なんだ……」
 中臣は、両目を大きく見開く。
 荒野はなんでもないことのように、さらっと言ってのけるが……自分の正体を公然と一般人に明かす、というのは、はやり、従来の一族の在り方には反する……。
 中臣のように、長年中枢で働いてきた人間には、なおさら受け入れがたい事実だろう……と、楓は推測した。
 しかも……それをやってのけたのが、加納の後取りと目されている荒野であり……。
「……わかっている。
 でも、他に選択肢がなかったんだ……」
 荒野は、真顔で中臣に応じた。
「竜齊さんのいうこともわかるし、中臣さんの危惧も理解している。
 だけど……あそこには、おれが、守りたい人たちがいる。
 そういう感情をなくしてしまったら……おれは多分、現象やその背後にいるやつらと、同類になっちまう……。
 おれは、まだ……竜齊さんほどは絶望していないし、中臣さんほど打算的にはなれない……。
 甘いとは、分かっているんだけど……本当に駄目になるまで、好きなようにやらせて貰えないだろうか?」
 さらに、軽薄挙動の末、というわけではなく、現在の状況を考えに考えた末、最上の策、として選択したのだとしたら……。
 中臣は、難しい顔をして、しばらく思案した後、ようやく顔をあげた。
「つまり……若は、自分たちを囮にして、網を張ると……」
 多分……中臣にとって、荒野は……軽々しく囮にしていいような人材ではないのだろう……と、楓は、その表情推移をみて、推測する。
 現在、加納の姓を名乗っているとはいえ……荒野の母は、荒神の姉……つまり、荒野には、半分、二宮本家の血も、流れている……。
 荒野は、いわば六主家主流のサラブレッドのような存在であり……血統に加えて、実績と実力も兼ね備えた、一族の次世代の指導者として申し分のない存在、なのである。
 その荒野が、自分自身の将来も掛け金に乗せ、かなり無謀な賭をしようとしている……というのが、現状だった。
「血統」とか「伝統」に拘る常識人ほど……抵抗が、あるだろう。
 今まで、荒野の身分があまり取り沙汰されなかったのは……中臣のような常識人がたまたま身の周りにいなかったので、騒ぐ人がいなかった……というだけのことである。
「……そんなに、うまく……」
「いくかどうかは……正直、やってみなくては、わからない。向こうが何を考えているのか、推測するばかりではっきりとしたことはわかってないからね。
 でも、万が一、そんなことでやつらの興味をこっちに引きつけることが出来たら……おれたち迎撃する側にとっては、かなり都合がいい」
 しかし、荒野は、顔をひきつらせている中臣とは対照的に、平然としていた。
 これは、ポーズなどではなくて……荒野自身は、自分の身分や素性を、さほど重要視していない……からだ。
 これは、普段からそうなので……楓には、そうした荒野の無防備さを、かえって自然に感じたが……。
『しかし、これは……』
 一方で、実は、とても危ない状況でもあるのではないか……と、楓は思う。
『これから、加納様に、万が一のことがあったら……』
 自分たちは……確実に、バラバラになる……。
 と、楓は思う。
 求心力がなくなる、ということの他に……加納とか六主家とかとの、パイプが、極端にか細くなる。
 仮に、荒野が負傷などをして、数ヶ月とか長期に渡って動けなくなったら……自分や茅、テン、ノリ、ガクたちの身を……六主家は、果たして本気で案じてくれるのだろうか?
 茅たちは、以前、荒野が推測したように、一族が開発した秘蔵の子供……ではなく、中断した開発計画から、たまたま生き残った余剰品にすぎず……だとすれば、さっき涼治が語ったような「敵」が、荒野が不在になった際に狙ってきたと仮定して……六主家は、どこまで本気で自分たちを守ってくれるだろうか……。
『……やはり……』
 これから、荒野は、なるべく前線には立たせない。
 また……一族のバックアップを受けられなくなっても、なんとかやっていける体勢を、早めに作る。
『地元に、根を下ろす……基盤を作ることは……』
 必要だ、と、楓は結論した。
 帰ったら、徳川、玉木、それに羽生譲……あたりにも、きちんと相談してみよう……と、楓は思う。学生、という身分でできることは限られているのだろうが……徳川や玉木、有働たちは、そんな制約などものとせず、自分のやりたいことをやっている。
 だったら……楓にも、なにか、出来る筈……だった。

 それまで「上からの命令を待つ」という受動的な立場に甘んじていた楓は……「自分の意志で動く」という主体的な存在へと、変容しはじめていた。

[つづき]
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