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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(43)

第六章 「血と技」(43)

 テンとガクの承諾を得た……ことを確認した荒野は、今度は、涼治に向き直った。
「じじい……そういうことで、いいな?」
 今いったような構想を、一族の重鎮がこれだけ揃っている現場で、承諾させる……ことができれば、この先、荒野たちは、かなり動きやすくなる。
「長老」である涼治は、必ずしも六主家全体に対して高圧的な権力をもっているわけではないが……少なくとも、名目上、「尊重」はされている。無茶な命令ならいざ知らず、一族全体に利益がある提案を跳ねるのなら、それなりの理由がなければならない。
 荒野は、自分が提示した方法の合理性をすでに説明した。それを否定するのなら、もっと合理的な方法を提示しなければならない。
 そこまで準備を整えた上で、荒野は、涼治の言質を取ろうとしていた。

「茅たちや、身の回りの一般人を守るだけではなく……」
 相変わらず人の良い微笑を浮かべた涼治は、荒野に問い返した。
「荒野……お前は……その襲撃者たちをも、守ろうとしているのだな?」
 不要なモノ、邪魔なモノは、実力で排除する……というのが、一族全般の、一般的な思考である。
 自分たちを目の敵にする存在を保護しよう、という荒野の方針は、その意味では、一族の規範から逸脱している。
「そうでないと……笑えないんだ……」
 荒野は、頷いた。
「たまたま……茅たちは、今、おれの傍にいる。
 だけど……ちょいとした偶然で、その襲撃者たちと立場が入れ替わっていたとしても、おかしくはないんだ。
 そんなやつらを……本気で、殲滅しようとは、思えないよ……。
 仮に、他に選択肢がなくて、やつらを本気で潰しちまったとしたら……おれは、おそらく、一生笑えなくなる……」
「荒野が笑えないと……茅も、笑えないの」
 茅が、荒野の言葉に言い添える。

 涼治は……目を瞑って、ひどく長い時間、なにやら考え込んでいた。
 いや。実際にはさほど長い時間ではなかったのかも知れないが……荒野にしてみれば、ひどく長く感じられた。
「よかろう……。
 好きなように、やってみなさい……」
 そう答えてから、涼治は、長々とため息をつく。
「ここにいる皆も……ご協力いただければ、ありがたい……」
 そして、他の六主家の重鎮たちに、軽く頭を下げた。
「命令」ではなく、もっと各自の自主性に訴える「お願い」だが……こうした場で涼治が、他の六主家に対し、はっきりと意向を示した……ということだけでも、荒野にしてみれば……ありがたかった。

「協力、っていってもなあ……うちら野呂は、独立独歩が建前だし……」
 そういう野呂竜斎は、相変わらず料理には手をつけず、ワイングラスばかりを傾けている。
「ま……若い連中の中には、お前ん所の動きに興味示しているの多いからよ……。
 上からどうこうしろってことはないが、動きたいやつは自分でそっちに出向くんじゃねーのか……。
 全身タイツは、無理だとは思うがな……」
 荒野は「……なんだよ……全身タイツって……」と、思わないでもなかったが、とりあえず、頷いた。
 どのみち自発的に集まってくる人員は……特に、一族の技を習得しているような人材は、歓迎する所である。

「荒野君、荒野君……」
 今度は、二宮荒神が語りかけてくる。
「うちの若いのも……荒野君に、興味を持っているのが多くてね……。
 昨日の校庭の件で、荒野君人気、鰻登り。
 ……そうだよね、中臣君?」
「……長……」
 二宮中臣は、拗ねたような表情で、顔を伏せた。
「事務は全部わたくしに任せてくださるのに……。
 下々の事情には、非常に良く、通じていらっしゃるようで……」
 中臣は、「非常に良く」の部分を強く発音する。
 半分、「仕事はしない癖に、そういう所にばかり気が回る……」という、荒神の自分のあしらい方への、不満表明でもある。
 が……少なくとも、荒神の言葉を否定はしなかった……。
「……だって、事務仕事なんてのは、弱っちい下っ端の仕事だよ……」
 荒神は、中臣の顔をまともに見返して、しれっとした表情で答える。
「ま、その下っ端の中にもそれなりに向上心を持っているのはいるからさ。
 荒野君、そっちの仕事を手伝う代わりに、ちょこちょこっと、昨日やったみたいに、時々稽古をつけてやってくれないか?」
 ようは、「自分で相手をするのが面倒くさいから、荒野に相手にさせよう」ということらしい。
「……いい、けど……」
 荒野としては、これもまた頷くより他ない。
 今後のことを考えれば……使える人手、多ければ多いほど、いい……。
『どのみち……有事の際以外は、こっちではやることないんだから……』
 そういった余剰人員は、平時には、ボランティア活動の方にでも回そう……と、荒野は思った。
 これだけの人数が集まるとなると……昼間ちらりと話しがでていた、NPOうんぬんとかいうのも、夢ではなくなってくる。

「……ほんなら、わてら佐久間も、なんぞやらへんとあまへんな……」
 佐久間静寂も、にこやかに申し出てくれる。
「せやかて……佐久間は、余分に割けるほど、ようけ人がおわすわけやおまへんし……。
 そや。先ほどの技の伝授に向かう人員に、佐久間の通信システムとマニュアル一式をおつけしまひょ……」
 佐久間のシステム……について説明を求めると、テキストベースの独自OS……みたいなもの、らしい。
 コマンドを全てタイプしなければならないので、佐久間の記憶力を持たない一般人には扱えない代物だが、操作する人間に負担をかける分、同じスペックのマシンでも高機能に作動させることができる……との、ことだった。
 おどろくことに、佐久間は、このシステムをインターネットの普及以前から完成させており、有線、無線など、その当時その当時の在り物インフラを介して使用していた……という。
 それだけの歴史のあるシステムだから、現在では大方のバグも取れ、かなり「枯れた」、信頼性の高いシステムに仕上がっている、とも、いていた。
「……そちらのお嬢さん方なら、軽く扱えますやろ……」
 との、ことだった。

[つづき]
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