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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(44)

第六章 「血と技」(44)

 続いて、姉崎と秦野も、ともに「情報的な支援」を約束してくれた。この二つの集団は、ともに海外に多くの拠点を持ち、国内よりも国外を主な活躍の場としている。謎の襲撃者……をいつまでも放置しておくのも目障りだ、という点こそ、他の六主家と同じだったが、特定の土地に本拠を置いていない、という分散構造を組織的に採用しているため、他の六主家よりは、この手の無差別攻撃に強い。
 言葉を変れば、襲撃者の脅威も、それだけ軽減されることになり、切実な対応を必要としていない。
 したがって、協力も、他の六主家よりは消極的なものに止まるわけだが……荒野にしてみれば、それでも十分だった。

『……なんだか……』
 いつ間にks……随分、変なことになってしまったなぁ……と、荒野は思う。
 ここに来る前は、自分自身のことさえ考えていればよかった。
 茅と暮らし始めてからは、二人の将来について悩むようになり、今では、学校の連中や一族全体のことを考えている、自分がいる……。
『……おれも……』
 多くのものを……背負おうとしている。

 例えば、涼治に、「その襲撃者も含めて、守ろうとしているのだな」といった意味のことを問われた時、自然に肯定する言葉が口をついて出ていた。
 ちょいたした偶然で、そいつらと茅たちの立場が入れ替わっいてもおかしくはない。
 だから、本気で殲滅しようとは思わない……と。
 実際に手加減できる相手かどうかは、この際、度外視する。
 現在の荒野の心情が、自分でも意外に思うほどすらすらと口からでてきた。
 そのことが、荒野自身、不思議だった。

 重苦しい雰囲気ではじまった会食は、思ったよりもなごやかな雰囲気で終わり、荒野たちは来た時と同じように、リムジンに分乗して送られることになった。
 茅、楓、孫子、荒野の順でリムジンに乗り込んですばらくすると、楓が、意外に真剣な表情で、「荒野は極力実戦に参加しないこと」、それに、「すみやかに、一族のバックアップを受けなくともやって行けるような体制を整えること」と進言して来た。
 そもそも、楓が荒野に向かって進言する、ということ自体、初めてのことだったので、荒野は楓に、さらに詳細な意図を尋ねる。
 尋ねられた楓は、理路整然とした口調で、「荒野に万が一のことがあったら、自分も、茅たちも、一族が本気で助けてくれるとは思えない」、と、語った。
 荒野は、完全に虚をつかれた形だった。
 たしかに……茅たちが、一族にとって重要視されている……という前提が崩れた今……荒野の存在、という要素がなくなったら……一族が、それでも本気でバックアップしてくれる……という保証や理由、根拠は……どこにもないのだった……。
 荒野は、楓に指摘されるまで、そのことに気づかなかった……。
 多分……一族の中心部にいて、一族の組織を自由に使えることを無意識に「前提」にしている、甘さ、が、荒野の内部で根深く巣くっているのだろう……。
『……たしかに……』
 仮に……現在進行している地元との共生とか、それに襲撃者たちの問題を荒野たちがうまく解決してしまったら……今度は、荒野たちが、一族から「脅威」として認識され……スポイルされる可能性も、なくはないのだった。
 秦野は……ガクやテンのことを、「新種」という呼び方をした。
 その呼称の裏には……六主家と同等の勢力になりうる可能性を秘めている、というニュアンスが、感じられる……。
 六主家の中で一番旧い、とされる秦野にとって、ガクや茅は……新たな異能種族の萌芽に見えるのかもしれない……。
 荒野が今取り組んでいるゲームは……一般人社会、六主家、それに襲撃者までを相手取ったサバイバルゲームなのだ……と、改めて思い直す。
 力比べで勝敗を競うのが目的ではないし……また、茅たちは、ほんのささいな判断ミスでその存在を抹殺されるような局面も……この先、出てこないとも、限らない……。
 そのためには……一族への依存度を、今後低くしていく方が……いい……。

 楓に説明をさせ、一通り考えた後、荒野は楓に改めて尋ねる。
「楓……。
 それ、自分で考えたのか?」
「……え?
 ええ。そうですけど……」
 そう答えた楓は、荒野がなんでそんな分かり切ったことを聞くのかわからない、といった顔をしている……。
 楓にとっては自然な発想なのかもしれないが……生まれた時から一族の中心にいた自分では、思いつかないこと、でもあった……。

『楓も……いつの間にか……』
 茅も、楓も、自分も、孫子も……出会った頃とは、随分と変わっている……。
 それを単純に「成長」といいきってしまっていいのかどうか、微妙なところだが……わずか数カ月、という短期間に、自分たちが変わりつつある……ということを、荒野は実感する。
「……やればできるじゃないか……。
 おれも、その推測はあたっていると思うよ……」
 荒野がほほ笑むと、楓も照れたような笑いを浮かべる。
 考えてみると……荒野が楓を、面と向かって称賛したのは、これがはじめてなのではないか?
「正直……不安要素は、多いから……どこまで粘れるかは分からないけど……こうなれば、今の土地でとことん粘ってみたいと思っている……」
 荒野は、茅、楓、孫子の顔をゆっくりと見渡し……。
「そのために、協力をしてくれると、ありがたい……」
 三人に向かって、頭を下げる。
 そうすることに、躊躇は感じなかった。
「頭を下げる必要はありませんわ……。
 わたくしたち自身のためでもありますもの……」
 孫子が、いう。
「茅は……荒野といつも一緒なの」
 茅が、いう。
「わたしは……今の生活を、守りたいから……」
 楓が、いう。

「……また、明日から学校だな……」
 荒野は目を閉じてシートに体重を預けながら、そういった。
「いろいろあった週末だったし……これからも、おそらくいろいろあるんだろうが……」
 この週末にあれだけのことがあったから、それまでの生活と寸分違わず、同じ……とは、いかないだろうけど……それでも、日常というものは強靭だ。
 寝て、起きれば、また、以前とはほんの少し違った「日常」がはじまる。繰り返される。
 以前の「日常」とはまた少し違った「日常」ではあろうが……その繰り返しが、荒野たちの現在の生活である。

 その生活を守る意志を、四人は車中で確認し合った。

[つづき]
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