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彼女はくノ一! 第五話 (127)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(127)

 重いこともそうでないことも含めて、最初のうちに話すべきことを話し合ってしまうと、その後は他愛のない、にこやかな歓談になった。
 孫子とシルヴィ、それに秦野の女たちはいつの間にかファッションについて熱く語っているし、茅は時折給仕を呼び止めては、運ばれて来た料理についてあれこれ質問している。時々、ガクやテンもそれに口を挟む。

 荒野は、竜斎や静寂、それに中臣あたりから、現在進行形の「一般人との公然たる共生」について順番に、かなり詳細な部分まで、根掘り葉掘りといった感じで質問攻めになっていた。

 古株の一族にとって、荒野が現在行っているのは、成功する確率こそかなり乏しいものの、強く興味をそそられる試み……ということになるらしい。
 一族は、過去の経験から一方的に荒野の方法を断罪する、という硬直思考とは無縁のようで、かといって、逆に共生を目指す荒野の方法に過剰な期待を抱いている訳でもない。
「可能性が残されていると荒野が考えるのなら、せいぜいやってみるがいい」とでもいいたげな冷淡さを感じないでもなかった。が、一方で、いろいろと憶測がでている襲撃者への対策については、「一カ所で待ち伏せ策」の合理性を認めており、「しばらく好きにやらせておいて、様子をみてみてもいいか」という空気が支配的なように見受けられた。
 こうしてみると……やはり一族の精神的基調というのはリアリストのそれで、過去の恩讐や伝統に過度に捕らわれる事なく、その時点その時点で有効と思える手段を躊躇なく採用する気風があるのだな、と、楓は確信する。
 荒野が堂々と正体を明かして一カ所の止まろうとしていることにせよ、それを利用して、姿なき襲撃者をおびき出そうとしていることにせよ、従来の一族のセオリーからは大きく逸脱する筈だが……デメリットを冷静に認め、「荒野が責任を取る」ということを明確にした上で、六主家はそれぞれに、荒野を支援しようとしている……ように、楓には、見えた。
 そうした柔軟な対応は……裏を返せば、荒野のような立場のものでさえ、取り返しのつかない失敗や判断ミスを行えば即座にバックアップを断たれる、という厳しさと表裏一体になっている訳だが……そうした六主家の古株たちと、臆する事なく互角に話し合いや交渉を行っている荒野も相当なものだし、荒野の言い分を聞いて柔軟に反応している六主家の重鎮たちも、なかなかに凄い……と、楓は判断する。

 そんな感じで重々しくはじまった晩餐は、後半はそれなりにフランクな雰囲気に移行して進行し、用意された皿もすべて出尽くしてお開きとなった。
 出された料理(懐石風のイタリアン、とか、イタリアンの懐石風、のどちらかだと聞いた)は、一皿一皿の分量が少ない趣向をこらしており、単純にうまい、というだけではなく、一皿を食べ終えた後、次の皿が楽しみみになるようなメニューだった。楓は決してがっついているつもりはなかったが、気がつくつと、出された皿をすべてきれいに食べ終え、デザートのシャーベットまで平らげていた。
 その頃には、おおかたの話し出尽くしており、何だかんだで、荒野は自分が提示した方針を六主家の重鎮に承諾させ、有形無形のバックアップを約束させる言質を取っていた。
 隠し事を極力せず、手持ちの情報をあらかじめ開示してから、自分の思うところを提示する……という荒野の交渉方法は、今回に限り、有効な結果を引き出すことができた……ということになる。

 楓たちは来たときと同じく、二台のリムジンに分乗して、他の面々に見送られた。

「……さて、と……」
 車中で、荒野、茅、楓、孫子の四人だけになると、荒野はいった。
「……これで足場は、なんとか整えた……。
 後は、おれたち次第だな……」
「加納様……」
 楓は、先程考えたことを、切り出す。
「一族に頼らなくともやってけるだけの態勢も、至急整えるべきです。
 それができるまでは……加納様は、極力、戦闘行為を謹んでくださるよう、お願いします。
 今の時点で、加納様に万が一のことがあったら……わたしたちは一族に見放され……バラバラになります……」
 それまで、自分の意見をいおうとしなかった楓がいきなりそんなことを言い出したので、荒野は一瞬面食らった表情をしたが、少し間を置いて真顔になり、楓に切り返した。
「おれになにかあると、一族に見放される……と、そう思う、根拠は?」
「加納様は……一族にとって、価値のある人材です。
 わたしや茅様、ガクやテンは、必ずしもそうではありません」
 端的に、楓は答える。
「当初の予想と異なり……茅様たちは、過去の、現在は凍結中の計画の残滓であることが、今夜、判明しました。
 そのようなものを守るために……一族の方々が、過剰なリスクを負うとは思いません」
 楓の返答に、荒野よりも茅の方が、先に頷く。
「一族は、情で動くほど単純ではない……楓のいうことは、正しいと思うの」
「それで、楓……その懸念に対する、対策は?」
 そういう荒野は……面白そうに、笑っていた。
 楓がどんな返答をするのか……本気で興味を抱いたのかもしれない。
「地元に根付く……一族のバックアップがなくともやっていけるだけの基盤を、作ります」
 荒野も孫子も……今いる土地で失敗しても、帰る場所がある。
 でも……楓には……後がない、のであった。
「……今までの基本方針とも合致するな……」
 荒野は、楓の言葉に頷く。
「それと……おれに実戦をさせたくないのなら……お前の方の戦力を増強して、不安がないようにしろ。
 もっともこいつは……」
 敵さん次第だがな……と、荒野は肩をすくめる。
 荒野にその気がなくとも……相手の出方次第だ……というわけだった。
 敵が、どういうタイミングで誰を標的にするのか分からない以上……そういいたくなるのも、分かる。
「逆に、楓に聞きたいけど……今回のような敵に対して、標的を固定させるような方法……なにか思いつかないか?」
「強さ……脅威になる存在が、ここにいる……と、アピールする……」
 楓は、反射的に荒野に返答していた。
「敵は……自分たちの能力に、絶対の自信を持っている。弱いものから攻めるよりは、強いものから潰しにくる……」
「……それ、お前が考えたのか?」
 荒野の表情が、少し険しいものになった。
「え? いえ……」
 荒野に問い返されて、楓は、少し自信がなくなってくる。
「でも、学校でも……本気で生徒たちを人質にするつもりなら、加納様と生徒たちを分離する方が確実ですし……商店街でも、手製の催涙ガスなんてものではなく、本物の毒ガスを使ってもよかったのに、そうしていない……。
 だから、敵の狙いは、本当に被害を出すこと、ではなくて……結果として被害がでるのもかまわない、とは思っているでしょうけど……それ以上に、加納様を、動揺させたいのではないかな、と……」
「……おれを動揺させることが……敵にとって、どういうメリットがある?」
 楓がいったん言葉を切ると、荒野が質問を重ねる。
「加納様が……本気になります」
 楓は、きっぱりといった。
「たぶん……敵は、本気になった一族のものがどれほどのものか、知りたいんだと思います。
 知った上で……なんだ、自分たちより格下じゃないか……と、安心したいのだと思います」
「楓……。
 それ、自分で考えたのか?」
「……え?
 ええ。そうですけど……」
「……やればできるじゃないか……。
 おれも、その推測はあたっていると思うよ……」
 荒野は楓に向けて、満足げにほほ笑んだ。
「……おれたちが、昨日の現象の仕掛け程度で潰れるようだったら……敵は、おれたちを素通りして、別の一族を襲いはじめただろう……」

[つづき]
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