第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(128)
行きとは違い、才賀孫子が先行の車に乗ったので、帰りは、テンとガクの二人になった。
「昨日と今日の……どう思う?」
車中で二人きりになると、テンはガクに話しかける。運転席とはガラスで仕切られているので、会話はこの場にいる二人にしか聞かれない……と、思う。
「どうって……何が?」
ガクは、首を傾げる。
「何が……って、……いろいろあるでしょ?
他にもボクたちみたいな子たちがいた、とか、それが今ではボクたちを目の敵にしている、とか……」
「いろいろ……感じたことは、あるけど……それを話し合ってもしかたがないじゃん……。
だって……全部、昔のことが原因で、今、こうなっていて……。
時間を溯って今を改善できないのなら、今の時点で自分にできることをする……今回に限り、かのうこうやは正しいと思うよ……」
問い詰めたテンがガクに諭された形になった。
「まずは……捕まえて、引きずり出して……更正が可能なら、そうする……。
ボクは、ひどい目にあったし、やつらのお陰で大勢の人に迷惑をかけちゃったから、その前に何発か殴るかもしれないけど……」
ガクは、短慮ではあるかもしれないが、無思慮、というわけではない。
「それは、それでいいんだけど……」
テンはため息をついた。
「……ガクは……本当にかのうこうやがいう通り、うまく運ぶと思っているの?」
テンは、ガクほど楽観的にはなれない。
テンが調べた限り……人間社会は、雑多な要素で構成されている。単純な利害関係のほかに、感情的な要素もあるし……それに、構成員が個々人が善良にみえても、集団になると他者に冷酷になれる……という性質が人間にはあるようだ……と、雑多なデータを漁ったテンは、この時点で結論づけている。
そして、テンたちは……一般人に対する一族……というマイノリティの中のさらに微小な新興勢力である……と、テンは認識している。
荒野や一族のものたちが仮想敵とした「姿なき復讐者」について、その思想や行動を肯定するつもりはないが……場合によっては、一族や荒野たちから離反して、彼らと行動を共にする……というのも、ありなのではないか……。
と、テンはガクに説明した。
「……それって……彼らを捕まえて保護しようっていうかのうこうやの案と、どう違うの?」
「ボクたちの独立性が、保てる」
ガクの質問を予測していたように、テンが答える。
「……もちろん、昨日みたいなことを繰り返させるわけにはいかない……敵をふやすだけだから。
でも……ボクたちは……出生からいえば、かのうこうやより、彼らに近い存在だ……」
「……テン……それ、おかしいよ……」
ガクが、珍しくテンに意義を唱えた。
「じっちゃん……一族の人だったけど、そんなの関係なく、仲良くやってたじゃないか。
おにいちゃんだって、真理さんだって、にゅうたんだって、先生だって……みんな、一般人だけど……それでも、うまくやっていたじゃないか……。
生まれがどうとかではなく……今現在、一緒にいたいかどうかの方が、大切なんじゃないか?」
テンは、まともにガクの視線を受け止める。
「テンは……難しく、考え過ぎだよ……。
ボクたちも、一般人も、一族も……多少の違いはあるけど、同じ人間だ。
同じ人間の中で、ことさら違う部分に意識を向けて、カテゴリーを作っちゃう……という考え方は……ボク、好きになれないな……」
「……だ、だって……」
テンは、口ごもりながら、ガクに反論する。
「……ボク……こっちに来てから、いろいろ調べたんだけど……一般人の社会って……矛盾と不合理と不公正と……とにかく、無茶苦茶なんだ……」
「それは、ボクだって知っているけどさあ……」
ガクは、頭を掻く。
「矛盾と不合理と不公正……に満ち満ちた社会システムで、ここまでうまくやってきたんだっていう実績の方は、どうするの?
今、人口……六十億以上、だっけ?
確かに人間の社会システムは不合理な部分が、多い。それに、みんながみんな……テンや佐久間みたいに、頭がよかったら……もっとよい社会を築き、維持できるのかも知れない。
それでも……現に、違うじゃん。
欠点だらけの一般人は六十億以上もいて、ボクらは数えるほど。一族の関係者、隅から隅まで数にいれても……おそらく、一億には届かないんじゃないかな?
欠点が多くて、嘘つきで、無能な一般人が数に任せてこの世界を形作り、一族やボクらはその隙間にひっそりと巣くっている。
それで……」
「……それで……。
一般人の社会内の矛盾を利用して、ようやく居場所を確保している一族は……本来なら、一般人自身がやらなければならない汚れ仕事を請け負うことで……ようやく、生存を黙認してもらっている……」
テンの声が震えていたので、ガクははっとして顔を上げる。
テンは、涙を流していた。
「……それで……今度はボクらが……。
一族内の内紛や矛盾を引き受けることで……生存することを、許してもらうの?
そんなの……優れている方が、割りを食っているなんて……絶対、おかしいよ!
ボクらを作った人たちだって……自分たちの子孫を守ろうとして……訳の分からないやつらに殺されたんだぞ!
ボクらだって、いつ、そうなるか!」
「……テンは……優しいな……。
おそらく、優しすぎるんだ……」
ガクは、テンの肩を抱き寄せた。
「……でも……ボクがいるから……。
この先、なにがあろうとも……テンとノリは、ボクが守るよ……。
ボクらに手をかけようとするやつらは……全部、敵だ……」
「……おや?」
リムジンが目的地である狩野家前に着き、ドアが開くと、テンとガクはもつれ合うようにしてシートに横になり、寝息を立てていた。
「……これは、倒錯的な……。
くノ一ちゃん、ソンシちゃん、頼む」
出迎えた羽生譲は、先に着いた楓たちを手招きし、とりあえず、二人の体を居間にいれた。
「……このまま……布団に……というわけにもいかんか……」
二人は、玄関先で靴こそ脱がせたもの、ドレスとタキシード姿のままだった。
楓と孫子は、明日も学校があるので、早めに寝るようにいいつけておく。香也は、風邪薬を飲ませてもっと早くに寝かせつけている。楓と孫子は、そのまま風呂場に向かい、羽生は、とりあえず、毛布を持ってきて二人にかぶせた。
「……考えて見れば……病院出てから、すぐに出てったんだもんだ……。
いろいろあったようだし……疲れが残っていて、当然か……」
二人が起きたら……きっと、いろいろな話しをしてくれるに違いない……と、羽生は思う。
二人の寝顔をあどけなく……「無垢」という言葉を体現しているように、羽生にはみえた。
「……そうだ……。
いい、チャンスだから……」
羽生は居間の隅に常備しているスケッチブックを取り出し、炬燵に入りながら、鉛筆を走らせはじめる。
怠惰を理由に、羽生はここしばらく、自分自身の絵を描いていなかった。
しかし、絵を描かなかった本当の理由は……じつは怠惰にすぎない、ということを、羽生は知っている。
身近に香也なのような……本当に無心なタイプがいると……自分は、邪心が多すぎるような……引け目を、どうしても感じてしまう。
だから、必要に迫られなければ……絵筆を取らなくなる。
『……だけど……こういうのなら……』
自然に、描けるな……と、羽生譲は思った。
そんなことを思いながら……いつまでも、鉛筆を走らせ続ける。
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つづき]
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