2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第五話 (128)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(128)

 行きとは違い、才賀孫子が先行の車に乗ったので、帰りは、テンとガクの二人になった。
「昨日と今日の……どう思う?」
 車中で二人きりになると、テンはガクに話しかける。運転席とはガラスで仕切られているので、会話はこの場にいる二人にしか聞かれない……と、思う。
「どうって……何が?」
 ガクは、首を傾げる。
「何が……って、……いろいろあるでしょ?
 他にもボクたちみたいな子たちがいた、とか、それが今ではボクたちを目の敵にしている、とか……」
「いろいろ……感じたことは、あるけど……それを話し合ってもしかたがないじゃん……。
 だって……全部、昔のことが原因で、今、こうなっていて……。
 時間を溯って今を改善できないのなら、今の時点で自分にできることをする……今回に限り、かのうこうやは正しいと思うよ……」
 問い詰めたテンがガクに諭された形になった。
「まずは……捕まえて、引きずり出して……更正が可能なら、そうする……。
 ボクは、ひどい目にあったし、やつらのお陰で大勢の人に迷惑をかけちゃったから、その前に何発か殴るかもしれないけど……」
 ガクは、短慮ではあるかもしれないが、無思慮、というわけではない。
「それは、それでいいんだけど……」
 テンはため息をついた。
「……ガクは……本当にかのうこうやがいう通り、うまく運ぶと思っているの?」
 テンは、ガクほど楽観的にはなれない。
 テンが調べた限り……人間社会は、雑多な要素で構成されている。単純な利害関係のほかに、感情的な要素もあるし……それに、構成員が個々人が善良にみえても、集団になると他者に冷酷になれる……という性質が人間にはあるようだ……と、雑多なデータを漁ったテンは、この時点で結論づけている。
 そして、テンたちは……一般人に対する一族……というマイノリティの中のさらに微小な新興勢力である……と、テンは認識している。
 荒野や一族のものたちが仮想敵とした「姿なき復讐者」について、その思想や行動を肯定するつもりはないが……場合によっては、一族や荒野たちから離反して、彼らと行動を共にする……というのも、ありなのではないか……。
 と、テンはガクに説明した。
「……それって……彼らを捕まえて保護しようっていうかのうこうやの案と、どう違うの?」
「ボクたちの独立性が、保てる」
 ガクの質問を予測していたように、テンが答える。
「……もちろん、昨日みたいなことを繰り返させるわけにはいかない……敵をふやすだけだから。
 でも……ボクたちは……出生からいえば、かのうこうやより、彼らに近い存在だ……」
「……テン……それ、おかしいよ……」
 ガクが、珍しくテンに意義を唱えた。
「じっちゃん……一族の人だったけど、そんなの関係なく、仲良くやってたじゃないか。
 おにいちゃんだって、真理さんだって、にゅうたんだって、先生だって……みんな、一般人だけど……それでも、うまくやっていたじゃないか……。
 生まれがどうとかではなく……今現在、一緒にいたいかどうかの方が、大切なんじゃないか?」
 テンは、まともにガクの視線を受け止める。
「テンは……難しく、考え過ぎだよ……。
 ボクたちも、一般人も、一族も……多少の違いはあるけど、同じ人間だ。
 同じ人間の中で、ことさら違う部分に意識を向けて、カテゴリーを作っちゃう……という考え方は……ボク、好きになれないな……」
「……だ、だって……」
 テンは、口ごもりながら、ガクに反論する。
「……ボク……こっちに来てから、いろいろ調べたんだけど……一般人の社会って……矛盾と不合理と不公正と……とにかく、無茶苦茶なんだ……」
「それは、ボクだって知っているけどさあ……」
 ガクは、頭を掻く。
「矛盾と不合理と不公正……に満ち満ちた社会システムで、ここまでうまくやってきたんだっていう実績の方は、どうするの?
 今、人口……六十億以上、だっけ?
 確かに人間の社会システムは不合理な部分が、多い。それに、みんながみんな……テンや佐久間みたいに、頭がよかったら……もっとよい社会を築き、維持できるのかも知れない。
 それでも……現に、違うじゃん。
 欠点だらけの一般人は六十億以上もいて、ボクらは数えるほど。一族の関係者、隅から隅まで数にいれても……おそらく、一億には届かないんじゃないかな?
 欠点が多くて、嘘つきで、無能な一般人が数に任せてこの世界を形作り、一族やボクらはその隙間にひっそりと巣くっている。
 それで……」
「……それで……。
 一般人の社会内の矛盾を利用して、ようやく居場所を確保している一族は……本来なら、一般人自身がやらなければならない汚れ仕事を請け負うことで……ようやく、生存を黙認してもらっている……」
 テンの声が震えていたので、ガクははっとして顔を上げる。
 テンは、涙を流していた。
「……それで……今度はボクらが……。
 一族内の内紛や矛盾を引き受けることで……生存することを、許してもらうの?
 そんなの……優れている方が、割りを食っているなんて……絶対、おかしいよ!
 ボクらを作った人たちだって……自分たちの子孫を守ろうとして……訳の分からないやつらに殺されたんだぞ!
 ボクらだって、いつ、そうなるか!」
「……テンは……優しいな……。
 おそらく、優しすぎるんだ……」
 ガクは、テンの肩を抱き寄せた。
「……でも……ボクがいるから……。
 この先、なにがあろうとも……テンとノリは、ボクが守るよ……。
 ボクらに手をかけようとするやつらは……全部、敵だ……」

「……おや?」
 リムジンが目的地である狩野家前に着き、ドアが開くと、テンとガクはもつれ合うようにしてシートに横になり、寝息を立てていた。
「……これは、倒錯的な……。
 くノ一ちゃん、ソンシちゃん、頼む」
 出迎えた羽生譲は、先に着いた楓たちを手招きし、とりあえず、二人の体を居間にいれた。
「……このまま……布団に……というわけにもいかんか……」
 二人は、玄関先で靴こそ脱がせたもの、ドレスとタキシード姿のままだった。
 楓と孫子は、明日も学校があるので、早めに寝るようにいいつけておく。香也は、風邪薬を飲ませてもっと早くに寝かせつけている。楓と孫子は、そのまま風呂場に向かい、羽生は、とりあえず、毛布を持ってきて二人にかぶせた。
「……考えて見れば……病院出てから、すぐに出てったんだもんだ……。
 いろいろあったようだし……疲れが残っていて、当然か……」

 二人が起きたら……きっと、いろいろな話しをしてくれるに違いない……と、羽生は思う。
 二人の寝顔をあどけなく……「無垢」という言葉を体現しているように、羽生にはみえた。
「……そうだ……。
 いい、チャンスだから……」
 羽生は居間の隅に常備しているスケッチブックを取り出し、炬燵に入りながら、鉛筆を走らせはじめる。
 怠惰を理由に、羽生はここしばらく、自分自身の絵を描いていなかった。
 しかし、絵を描かなかった本当の理由は……じつは怠惰にすぎない、ということを、羽生は知っている。
 身近に香也なのような……本当に無心なタイプがいると……自分は、邪心が多すぎるような……引け目を、どうしても感じてしまう。
 だから、必要に迫られなければ……絵筆を取らなくなる。
『……だけど……こういうのなら……』
 自然に、描けるな……と、羽生譲は思った。
 そんなことを思いながら……いつまでも、鉛筆を走らせ続ける。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび

アダルトアフィリエイト

↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅう]
有名ブログランキング アダルト・プラス・サーチ オリジナル・サーチ ビンビン萌えランキング 大人の夜の散歩道 Girls-Search STARWEBLINKS  アダルトサーチワールド アダルトサーチ『GASP』 Adult Bell Search! 無料アダルト情報

Comments

また、茅が。

>……と、雑多なデータを漁ったテンは、この時点で結論づけているの。

  • 2006/08/23(Wed) 21:48 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

おっと失礼。

修正しました。
ご指摘、ありがとうございました。

  • 2006/08/23(Wed) 23:55 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ