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彼女はくノ一! 第五話 (125)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(125)

「……ええっと……つまり……」
 ガクが返答に詰まったので、楓が代わりに口を挟む。
「秦野さんたちは……観光に来ただけで……事を構えるつもりは、なかった、と……」
「当然です……」
「ろくな武装の用意もなしにお相手するなど……」
「失礼とは思いましたが……」
「こちらのお嬢さんがご所望でしたし……」
「わたしたちも、噂の新種に興味がありましたもので……」
「軽率だとは思いながらも……」
「ついつい、誘いに乗ってしまった次第でして……」
 楓は……なんと返答していいのか分からなくなって、困惑した。
 助けを求めるように荒野の方に視線を向けるが、荒野は荒野で野呂の長となにやら話し込んでいる。
「……雑種ちゃん、雑種ちゃん……」
 そんな楓に助け舟を出したのは、荒神であった。
「これで秦野は……佐久間と同じくらい……異質な存在だから。
 ぼくも、時々困惑するのだが……彼らは、どうも、彼らの間だけで通用する独自のコミュニケーション方法を持っていて……思考形態も、常人とはかなりことなる……。
 外見上の差異が乏しいことを除けば、一見して普通の外見をしているので、ついつい普通に接してしまうんだが……彼らは、人間の姿をした集合知性体みたいなものだ……。
 目の前の個人と、ではなく、その背後にいる秦野という集団と話すつもりでいくと、割合にうまくいく……」
 荒神のアドバイスを、楓はかみしめ、忙しく頭を働かせる。
 秦野全体で、一つの知性……それは、確かに、異質な在り方だろう……。
 そんな人たちとまともに話しをする、となると……。
「……つまり……あなたがた、秦野にとって……戦闘行為は……他者との、コミュニケーションの一手段……な、わけですね?」
 楓は、今までに聞いた秦野の噂話を思い返しながら、考え考え、言葉を絞り出す。
 ……全体で思考をする、というのなら……秦野にとって、個体の死は、なんら重要なことではなく……多分、普通の人間に例えれば、一個体が細胞の一片くらいの価値観でしかなく……場合によっては死傷者を出すような、損耗の激しい戦闘も……彼らにとっては、ドツキ漫才程度の感覚、なのだろう……。
「その通りです……」
「直接間接的な戦闘行為は、言語によるものと並んで、我ら秦野と他の人類との対話を助ける重要な手段です……」
「故に、我らは、求められれば、全力でお相手致します。
 それが、我らの礼です……」
『なるほど……』
 と、楓は思った。
『……確かに、秦野は……』
 異質であり……敵には回したくない相手だ、と。
 荒野は、六主家の中でも、二宮と並んで秦野を警戒している。この二つについて荒野は「敵に回したら、勝てない」と、以前から明言していた。
 そういいたくなる理由が……楓にも、理解できた。
 個々人で見る限り……秦野は、決して精強、という訳ではない……。
 しかし……「秦野全体」としてみると……事実上、不敗であろう。
 それこそ、世界中に散らばる秦野の位置を補足し、全世界規模でいっせいに殲滅するくらいしか……秦野に「勝つ」方法はない。そして、六主家の中で一番数が多い、という秦野に、正面から大規模な正面攻撃を行える勢力は……六主家はいうに及ばず、事実上、地球上には存在しない……。

「……シスターになるのかパートナーになるのか、よく分からないけど……」
 シルヴィ・姉崎が向こうで男の秦野に管を巻いていた。
「……レイディをホームに閉じ込めているなんて、今時、時代錯誤もいい所よ。秦野は遅れてると思うわ……」
「そうはいっても、我らは古来よりそのような分業を行って来た。慣習でもありますし……」
「性差による向き不向きはあるわけですから、それなりに合理的ではあるわけですし……」
「それに、家を守り子を育んでくれる人々がいればこそ、我ら男衆も安心して働ける訳でして……」
「不合理だったり理不尽だったりするものならともかく、理にかなっている伝統を今更変えるのも、かえって不合理かと……」
「……そういうことを、いってんじゃないの!」
 ぶつくさいう男たちに、シルヴィが一喝する。
「秦野は、たまにはレイディたちに息抜きの機会を与える! ずっと同じ土地に縛り付けられているんじゃあ、いくら合理的だからっていっても、そりゃ、息も詰まるってもんです。たまには旅行にぐらい出して上げなさいっていってるの! それくらいの余裕、あるでしょ? 仮にも六主家の一角なんだから!」
 聞いていた楓は、シルヴィの見幕が、なんだかえらく俗な方に話題が流れているような気がしたが、秦野の男たちは気まずそうに顔を見合わせたりしている。
 どうやら、反論できないらしい。
「そういや、秦野さんたちのその服……誰の趣味なの?」
 続いてシルヴぃは、秦野の女たちに話しかけた。
「……おかしいのですか? これ?」
「この土地では、こういうのが普通で目立たない、と聞いたのですが……」
「事実、昨日、駅前にいた女性の多くは、こうした傾向の服装をしていたように見受けられましたが……」
 今度は秦野の女たちが顔を見合わせた、口々にそんなことを言い合う。
 秦野の女たちは、昨日、商店街でしていたのと同じ服装、つまり、ゴスロリ・ドレス姿だった。
「……いいえ。よくお似合いですわよ……」
 今度は、才賀孫子がにこやかに話しかけた。
「とてもいい趣味をしていらっしゃると思います……」
 楓がちらりと横目で確認すると、テンは目立たないように顔を背けてこめかみを揉んでおり、ガクは運ばれてくる料理を片っ端からたいらげている。
「楓おねーちゃん……食べないの! おいしいよ、これ!」
 楓の視線に気づいたガクが、能天気な声で、楓にそう声をかけてきた。
「あっ! はい! いただきます!」
 楓はあわててスプーンをとって、冷めかけたスープをすくった。
 あんな話を聞いた後では、食欲はあまり沸かなかったが……。
「……あっ……おいしい……」
 一口、口にして、楓は思わず感嘆の声を上げる。
「でしょ!」
 ガクが、自分の料理が褒められたように、破顔する。
「こんなおいしいもの、しょぼーんとした顔をして食べてたら、作ってくれた人に悪いよ!
 ちゃんと、味わって食べよう!」
 ガクの、邪気のない笑顔を……楓は、いい笑顔だ……と、思った。
「……そ、そうだね……」
 テンも、ガクの言葉に反応する。
「いろいろ、難しいこと、考えることが多すぎるくらいだけど……まずは、食べなけりゃ……先生も昨日、食欲がなくっても、明日のために食えっていってたし……」
「腹が減っては戦ができぬ……」
 孫子も、料理に向かいはじめる。
「……補給のない軍隊、飢えた兵隊が勝ったためしは、古来、存在しませんわ……」
 涼治によって、過去の重い事実を披露され、一度は沈み込んだテーブルに少し活気が戻り、華やいだ雰囲気になりはじめていた。
 向こうでは荒野が、六主家の重鎮たちに向かって、ヒーロー・ショーがどうとか話している。

[つづき]
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