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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(49)

第六章 「血と技」(49)

「例えば……」
 荒野に話しを振られた茅は、トコトコと荒野に近づき、ぴたっと抱きついた。
「……荒野と茅は、らぶらぶなの」
「……知っているよ、そんなこと……」
 ガクが、茅の言葉に口唇を尖らせる。
「荒野と茅はらぶらぶだから、えっちをしてもいいの。
 するのが、自然なの」
 ガクの反抗的な態度は無視して、茅は先を続ける。
「でも……絵描きは……。
 テンと、あるいは、ガクと……らぶらぶなの?」
 茅はそういうと、大きな黒目がちの目で、テンとガクの顔をまともに見据える。
 茅に見据えられたテンとガクは……途端に、居心地が悪そうに、もぞもぞと体を揺すり、茅の視線を避けはじめる。
「……お、おにーちゃんは……」
「そ……そういうタイプじゃない、って……知っているじゃん、そっちも……」
 二人は、しどろもどろに、そんないいわけをしはじめる。
「……そう……」
 茅は、二人の言葉に、大きく頷いた。
「二人も知っているように……絵描きは、まだほとんど……他人というものに、あまり関心を持てないでいるの……」
 茅は、そこで少しの間黙り込む。
 テンとガク、それに荒野は、茅の言葉がそこで終わるとは思っていなかったので……辛抱強く、茅が続きをしゃべりはじめるのを、待った。
「絵描きは、前に……他人が、恐い……と、いっていたの。
 でも、それは少し、違うの……。
 より正確にいうのなら……あの絵描きは、それまであまり、他人……他者という存在のことを、深く気にとめていなかった……。
 それまでは、他人が自分をどう思うが、気にとめなかったの。
 でも、最近になって……自分が、周囲の人間にどう思われているのか……意識するように、なった。
 だから……それまで恐くなかった他人が……急に、恐くなりだしたの……」
 絵描きは……香也は、こと、対人関係を結ぶ人格としては……ひどく未熟で、未完成な存在だ……と、茅は語る。
「テンとガクが……あの絵描きのことを、大事に思うのなら……。
 もう少し、彼との接し方を、考えるべきだと思うの」
 テンもガクも……それに荒野も、茅の、香也に対する人物評に、反論できなかった。
「……茅……」
 それでも、荒野は、茅に確認せずにはいられなかった。
「それは、彼を……香也君を、読んで、分かったのか?」
 佐久間流の意味で、香也を「読んだ」のか……と、荒野は茅にただす。
「……違うの」
 茅は、ゆっくり、首を横に振る。
「今までの、絵描き自身の態度……それに、周囲の人々から聞いた話しから、整合性のある仮説を組み立てただけなの。
 絵描きは……樋口明日香が呼びに来るまで、学校に行くことさえ、重要視していなかった。
 それ以前の絵描きには……おそらく、社会性などの観念が、あまり身に付いていなかったと思うの。
 それに……羽生や真理の、絵描きに対する態度や、証言を考え合わせると……絵描きは、ごく最近まで……」
 家族や身の回りにいる少数の人々以外とは、ほとんど交渉がなかったのではないか……と、茅は推測する。
 いわれてみれば……荒野は、香也が、昔から付き合いのある友人……に、あったことがない。小学校の時分からこの土地に住んでいれば……近所の子供や同級生の知り合いが何人かいても、おかしくはない筈だったが……荒野が知る「香也の同年配の友人」は……樋口明日樹が、一番古株であり……それ以外は、だいたい、荒野や楓、茅たちがこの土地に来てから知り合った人々に限定される……。
 これは……改めて指摘されてみると……香也の年頃、としては……かなり、異常な事なのではないのだろうか?
 テンとガクも……自分たちの記憶をさらって、荒野と似たり寄ったりの結論を出したのに違いない。
「……そういえば……おにーちゃんって……」
「ボクたちが来てから、いつも賑やかだったから、気がつかなかったけど……おにーちゃん自身の友だちって……」
「いわれてみれば、極端に少ないような……明日樹おねーちゃんぐらい?」
 ボソボソと小声で、そんなことを言い交わしている。
「おそらく……」
 テンとガクが静かになるのを待って、茅はさらに先を続けた。
「それまでの絵描きは……自我を閉じて、紙に向かうことで……それなりに、充足していた。
 でも……その、充足した自閉状態を、少しづつ開いていったのが……真理であり、羽生であり……樋口明日樹であり、楓であり……荒野であり、才賀であり、茅であり……その他、現在つきあいのある人々、なの……。
 絵描きは、現在、自閉的な人格から、社会的な人格へと変容している途上であり……そのような時期に、不用意に不特定多数と性的な関係を持ち、なおかつ、自分と関係を持った異性が、自分を巡って争うようなことが起こったら……」
 社会的な人格、としての絵描きは……歪むか、壊れるか……するの……。
 と、茅は、ひどく冷淡な口調で告げる。
「……絵描きが抵抗らしい抵抗をしなかったとすれば……それは……」
 香也が、自分の意志を明言することで、他者の意志を挫くこと……自分が、他人の要求を満たせない、という事実を認めることを、ひどく恐れているせいではないか……。
 とも、茅は、つけ加えた。

 そういえば……よほどのことがない限り……香也は、他人の頼みをはっきりと断らない……という事実に、荒野ははじめて思い当たる。
 なにかというと「……んー……」と呻って結論を先延ばしにする香也のあの癖は……優柔不断、は、優柔不断なのだろうが……はっきり断ると、角かたつ……他人との間に少しでも溝が入る、のを……香也自身が、無意識裡に嫌っているから……。
 一種の、精神的な自衛手段、なのか……。

 茅の推測を聞くうちに、テンとガクは、視線を宙にさまよわせ、ひどく落ち着かない様子になってきた。
「テンとガクが、絵描きを歪めたり壊したりしたければ……好きに扱えばいいと思うの……」
 茅は、二人に追い打ちをかけるように、そう断定する。

[つづき]
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