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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(50)

第六章 「血と技」(50)

 茅に淡々とした口調で諭されたのが奏功したのか、その朝、テンとガクはやけに大人しくなった。ガクの場合は、まだ傷口がふさがっていないので、軽いランニングていどしか出来ない、という事情もあったが。
 茅、テン、ガクと一緒に走りながら、荒野は茅のことを考えている。
 ついつい記憶力や佐久間的な能力のほうに注意がいきがちだが……茅の観察力と、そこから細々としたことを推察する能力は、かなり得難い資質なのではないだろうか? こうした能力は、遺伝などの先天的な資質で決定される事ではない。また、茅自身もそれを心得て、必要がない場合は、あまりひけらかさないようにしている節も、ある……。
 荒野の場合は茅と一緒にいる時間が長いので、それだけ、今朝のように、茅がその資質を発揮する場を、目の当たりにする機会にも恵まれることが多い、のだが……例えば、学校の同級生などは……。
 と、そこまで考えて、荒野はあることに気づき、
「……茅……」
 はっとして、肩を並べて走っている茅に、声をかけた。
「学校で……同じクラスで、仲良くしている子とか……結構いるのか?」
「楓。柏あんな。絵描き……」
 荒野ほど心肺機能に余裕があるわけではない茅は、ぼつぼつと単語を並べて答える。
 つまり……学校に通うようになってから、新しくつきあい始めた友達は、いない……ということか……。
 と、荒野は思う。
 楓あたりから、茅がクラスで孤立している、という話しも聞いたことはないので、それなりにうまくはやっているのだろうが……代わりに、取り立てて親しい友達も、できていない、と……いうことか……と、荒野は納得する。
 茅は、表情の変化が読みにくく、独特のしゃべり方をするし……級友たちからみれば、確かに、親しみやすい性格ではないのかも知れない……とも、思う。
「……茅……できれば、でいいんだが……」
 荒野は、慎重に言葉を選びながら、茅にいった。
「学校の中に、少しでも多く、親しい友達を、作ってみないか?
 これからの事を考えると……やはり、信頼できる人は、多ければ多いほど、いいんだ……」
 ……そして、普段から浅い付き合いしかない相手は……やはり、心の底から、は、信頼されないだろう……。
 荒野は必ずしも楽天的な性格ではないので……自分の正体がすでにばれてしまった今、これから、茅も含めて、自分たちが学校で孤立していく……という展開も……当然、荒野は予測している。
「……わかったの……」
 数秒間、考えこんだ顔をした後、茅は短く、そう答える。
 荒野の意図を理解した、表情だった。

 荒野たちの敵は……昨夜の会食で話題が出た襲撃者たちだけ……では、なく……もっと身近な人々の心情や偏見、差別意識……なども、含む。
 どちらかというと……撃破すべき相手がいない、際限のない、不特定多数の、悪意のない人々の意識の方が……相手にする場合、厄介なのではないか……と、荒野は思う。
「人間が人間である限り……差別は、なくならないのです……」
 といった有働勇作の声が、荒野の脳裏に蘇った。

 週末のごたごたが嘘のように、茅は、先週までと同じように淡々とメニューをこなし、その間、荒野とテン、ガクの三人は、今後のことについて、具体的な打ち合わせを行った。ガクがまだ本格的な運動はできないので、どのみち手持ち無沙汰であり、そうでなくとも早朝のこの時間は、三人組と荒野が定期的に情報を交換する時間、でもあった。
 テンやガクにしてみても、島を出てから多くの知り合いを作ったこの町に居続けたい、という希望はあるので、荒野には、協力的だった。
「……基本的に、学校にいっている間は、おれたちは動けないわけだから……」
 荒野は、二人にいった。
「……しばらくは、学校外に関しては、お前らが主体になって警護するわけで……」
「……そのこと、なんだけど……」
 テンが、荒野の言葉を途中で遮った。
「手製の警戒網、ということについて、幾つかトクツーさんが早速アイデアを出してくれて……そのうち、半分くらい、もう試作品の製作に取りかかっているって……メール、あった……」
 試作品、ということは……いずれ、徳川らしい機械、なのだろう。
 確かに、無人で不審者を早期発見できる警戒網が広範囲に設置できれば、荒野たちにとっても便利この上ないのだが……。
「そんなもん、設置する金……どっから、でるんだよ……」
 荒野は憮然とした口調でいう。
 広範囲に設置する、ということになると、やはりそれなりの資本が必要となる。
「……ボランティアの方面の試作品でも、あるんだって……。
 そのうち製品化して市場に出すための試験でもあるから、後から回収できる、とか……詳しいことは、直接学校で聞いたら?」
「そうしよう……」
 荒野は、頷く。
 徳川は勝手に動いていて、テンと徳川は頻繁に連絡を取り合っている……ということが分かっただけでも、荒野にとっては収穫だった。
「あとねー、あとねー……」
 今度は、ガクが元気よく片手を上げる。
「……玉木おねーちゃんが、ボクらのヒーロー化計画を、本格的に進めてくれているみたい。
 今日の放課後も、いろいろ撮影したいってメールきてた……」
「……女性の場合、ヒーローじゃなくて、ヒロインだ……」
 これまた、荒野は憮然として答える。
 玉木も……徳川と同じく、荒野が何かいう前に、勝手に動いている……。
 これは……本来なら、喜ぶべき所なのかも知れないが……なんか……自分が知らない所で、どんどん事態が進行しているような感触があって……荒野は、素直に感謝する気にはなれなかった。

 徳川にせよ、玉木にせよ……必ずしも、将来、目論見通りの成果を上げるとは、限らないのだが……。

 それ以外に、徳川やテンが開発中の、武器や装備のテスト、それに、真理不在中は、狩野家の家事なども比較的手が空いている二人が負担しなければならず、荒野たちが学校に行っている間も、二人ともそれなりにやることはある、ということだった。
 そうなると、荒野としては、
「出来る限り携帯を持ち歩いて、連絡が取りやすい状態にしていろ」
 というくらいしか、二人にいうべき事はなくなってくる。

[つづき]
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