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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(51)

第六章 「血と技」(51)

「いやぁ……荒野さん、やっぱり、ただ者じゃあ、なかったんですねぇ……」
 マンション前で顔を合わせるなり、樋口大樹が荒野の方にすりよってきて、今にももみ手を始めるんじゃないか、と思えるくらいに低姿勢で荒野にそういってきた。
 昨日の説明会の場に明日樹と大樹の姿は見えなかったように記憶しているが、説明会に参加した友人に、なにやら吹き込まれたようだった。
 樋口明日樹は、大樹とは対照的に、荒野と視線を合わせるのを露骨に避け、香也の方の近くに身を寄せていた。
『……ああいう方が……』
 むしろ、普通の対応だよな……と、荒野にとっては、明日樹の態度の方が、かえって納得がいく。
 昨日までのクラスメイトとして接していた人間が、常人以上の能力を持つ怪物だったといきなり判明したら……やはり、普通は引くだろう、と。
 玉木たちのノリの良さや、大樹の追従の方が、どちらかというと例外的だ。

「……おそらく、気のせいだとは思うんだが……」
 いつもの面子でぞろぞろと登校する途中、荒野は誰にともなく、そう呟く。
「……おれたち、いつもにもまして注目されていないか……」
 土曜日の件と日曜日の説明会があったから、同じ制服を着た生徒たちに注目されることは、荒野も覚悟していた。
 しかし、今朝は、「たまたま通りかかった人が、荒野たちに注目している」というレベルでは、なくなっているような気がする……。
「……やだなぁ、おにーさん……」
 そういいながら、飯島舞花は近くの塀にデカデカと貼られているポスターを指さした。
「……昨日から、あれ、町のあちこちに貼ってあるから……それで、なんじゃない?」
 荒野や、茅、楓、孫子、三人組などが、盛装……というよりは、荒野には「仮装」にしか見えないトンチキな衣装を着て、こちらの方をみて、ポーズをとっている写真が、ずらずらと並んでいる。
 背後には、「環境を、守ろう」とか「地域のために、戦う」とかいうお題目が大きな活字で踊っており、ポスターの隅の方には、「商店街協賛」という文字と、ボランティア関係のサイトのurlアドレスが記載されていた。
 舞花の言葉を裏付けるように、前の曲がり角からいきなり飛び出してきた、高校生制服を着た五、六人ほどの女の子の集団が荒野にカメラや携帯のレンズを向け、立て続けにシャッターを切ったかと思うと、「きゃー!」とか盛大な嬌声をあげて脱兎のごとく逃げ出していった。

 校門前まで着くと、普段とは違い、生徒たちの人だかりができていた。
 何事か、と、荒野が人だかりの前の方を覗き込むと……なにやら、生徒たちの鞄の中身を、教員が順番に改めているようだった。
「……ああ……抜き打ちの、持ち物検査だな……」
 例によって、舞花がさりげなくこの学校の風習を説明してくれる。
「……そうか、バレンタインが近いから……。
 もう、そんな時期か……」
 舞花の話によると、毎年この時期になると、チョコレートを持ち込む女子が増えるため、抜き打ちの持ち物検査が行われているらしい。
「……だって……バレンタインは、来週だろ?」
 荒野が舞花の説明に疑問を呈する。
「だからさ……一種の、デモンストレーションだよ……。
 当日、いきなりやって、いきなりチョコ取り上げるよりは、いくらか親切だろ……。
 ……一応、校則では、学校の勉強に関係無い物は持ち込んでは行けないことになっているし……たいてい、女子の方も、これがあることを知っているから、チョコは学校外で渡すのが恒例になっているんだけど……」
 実は、この検査が恒例になっていることが、学校の男友達に義理チョコをやらないでいい口実になっているため、女子の方もこの検査は、おおむね歓迎しているという。
「ま……本命相手なら、呼び出すなり家に行くなりして、どうにかするしな……。
 あれ? どうした、楓ちゃん……青い顔して……。
 まさか、チョコ持ち込んだんじゃ……」
「……い、いえ……チョコは、ないんですけど……」
 楓は、心持ち震えた小声で、そう答える。
「……ちょっと……校則に引っ掛かりそうなものを……」

 楓のいう「ちょっと……校則に引っ掛かりそうなもの」が何であるのか……は、すぐに判明することになった。衆人環視の中、楓の鞄が改められ、そこから、明らかに文具や教科書など、学校内の活動では使用することがない物品が、次から次へと取り出された。
 それらは、要するに手裏剣や六角など、楓が外出時に通常持ち歩いている武器だった訳だが……たまたま女子の検査を担当していた岩崎硝子先生は、刃物を含んだ夥しい無骨な金属片が楓の鞄から次々と出てきたのを、最初、驚嘆のまなざしで見つめ、次いで、取り出しても取り出しても次から次へと出てくる「量」に圧倒され、蒼白な顔をして、押し黙った。
 楓と岩崎先生の周囲に、異変を感じた生徒や教員たちが集合してくる。
「……松島君……」
 押し黙ったままの岩崎先生に代って、大清水先生が楓に尋ねた。
「……これは……なんなのかね?」
「ええっと……だ、大丈夫ですよ!
 どの手裏剣も、刃渡りは極めて短く、銃刀法にひっかからないように作られていますから……。
 あは。あははははは……」
 楓は、問われてもいないことを答え、笑ってごまかそうとしたが、当然の事ながら、大清水先生には通用しなかった。
 大清水先生は、表情も変えずに、楓の目をじっと見つめる。
「……えっとぉ……」
 ごまかしきれないな……と観念した楓は、近くにいた荒野の顔をちらりと伺う。
 荒野は、顔の前で手のひらを振っていた。
 ……できるだけ、内情を離すな……ということ、らしい。
「……これ……わたしの、武術の道具でして……し、知ってますか?
 手裏剣術って、歴とした武術の一種で……」
「……その、武術の道具を、学校に持ち込まねばならない理由は?」
 大清水先生は、相変わらず、むすっとした表情で楓に再度、質問する。
「……ありません……」
 楓は、うなだれて、そう答えた。
「……大体のところ、想像はつくのだが……規則は、規則だ……」
 大清水先生は、楓の標準武装をすべて没収した。
 しかし、没収した武器の総重量はかなりのものになる。そのため、教員たちではまともに持ち運ぶことができず、楓自身がまとめて職員室に運び込むことになった。

 この出来事以降、学校内で松島楓のニックネームは「くノ一ちゃん」で定着してしまう。
 初っ端から、決定したばかりの方針……荒野以外の戦力は、匿名で動く……に水を差された格好の荒野は、ひそかに頭を抱えた。
 これで……以後、この近辺で忍装束の少女が活躍すれば……この学校の関係者は、真っ先に楓の存在を思い出してしまうだろう。

[つづき]
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