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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(54)

第六章 「血と技」(54)

 一瞬、茅たちと一緒に徳川の工場までついて行こうかとも思ったが、週末に恒例の買い出しに行く余裕がなかったので、冷蔵庫の中身が極端に不足していることを思い出し、同行するのはやはり断念した。
 ライフラインを維持するのも、立派な仕事だ……と、荒野は思った。
 楓や孫子も行動を共にする、というし、工場では、テンやガクも合流する予定だという。そのような状況下でなおかつ茅の身の安全を心配するのも、過保護な気がした。
 昨日に続いて今日もよく晴れていて、商店街ではヒラヒラだったりフリフリだったりするゴシック・ロリータ・ファッションの女性たちでいっぱいである筈……である。
 商店街にいくにせよ、ショッピング・センターにまで足を延ばすにせよ、いずれにせよ、それなりの時間はみておかなければならないのであった。
 そんなわけで、放課後になると、荒野はいそいそと帰り支度をはじめる。

「……ね。加納君」
 帰り支度をしはじめた荒野に、声をかけてきた生徒がいた。同じクラスの女子で、それまで会話はろくに交わしたことがない……と、そういう部類の、生徒だった。
「ああ……っと。
 安藤さん、だったっけ?」
 荒野はクラス全員の顔と名前を記憶していたが、わざといいよどんでみせた。
「瑞希でいいわ。
 それより加納君。これからまっすぐ帰るの?」
 安藤瑞希は、挑発的な目付きで荒野を見返した。
 安藤瑞希の背後には、数人の女生徒が控えており……どうみても、荒野と瑞希の会話を興味本位で面白がっているようだ。安藤瑞希の背後にいる生徒たちは、荒野と同じクラスの者たちもいれば、別のクラスの者たちもいたが……全員、二年生だった。
「まっすぐ……いや、ちょっと商店街に寄って、買い物をしてから帰るつもりだけど……」
「そう……ちょうどよかった。
 わたしたちも商店街に寄って行こうと思ってたところなの。一緒にいっても構わない?」
 さて……どうしたものか……と、思いながら、荒野はとりあえず差し障りのない返答をしておいた。
「……いいけど……。
 最初にいっておくけど、おれの買い物って、本当につまらないものだよ……。
 君たちの興味を引くようなものじゃあ、ないと思うけど……」
 荒野は、そっちの方面にはどちらかというと疎い方ではあるが……ティーンエイジャーの女の子が、肉や野菜のドカ買いに興味を示すとは、到底、思えない……ということくらいは、十分に推察できる……。
 荒野にしてみれば、かなり率直に思ったままを口にしてみたのだが、安藤瑞希は、
「……いいわよ、それで。
 どっちらかというと、わたしたち、加納君の方に興味あるの。買い物は、口実……」
 と、かなり直接的な物言いをする。
 安藤瑞希についてきた女生徒たちだけではなく、その他の、教室に残っていた生徒たちも……明るさまに荒野たちに顔を向けるような真似はしないものの……聞き耳をたてている気配が、した。
 同じクラスの樋口明日樹や才賀孫子は、すでに教室を出た後であったが……それが、荒野にとってよかったことかどうかは……かなり、微妙だった。
「……おれは……別に、構わないけど……。
 でも、本当に……おれの買い物は、つまらないものだよ……」
 荒野は、安藤瑞希の積極性をいぶかしみながらも、さらに、念を押す。
 ……これだけ荷物持ちがいてくれると、かなり買いだめができるな……とか、思いながら。
「……ええ。
 わたしたち、加納君に、本当に興味があるの……」
 安藤瑞希は、不敵、にも見える笑顔をみせた。
「……途中で、加納君のことを教えてくれると、うれしいんだけど……」
 安藤瑞希の言葉に、背後の女生徒たちが「うん、うん」とかぶりをふる。
「話せることと話せないことがあるけど……ご希望には、できるだけ、そうにするよ……」
 荒野は荒野で、自分たちの協力者や理解者を、一人でも増やしたい……と思っている。
「……その代わり、っていったらなんだけど、みんなでちょっと荷物を持ってくれたら……夕飯くらい、御馳走するけど……」
「……ええ……そんなの、悪いよぉ……」
 根本的なところでは噛み合っていないが、表面上は和やかなやりとりをしながら、荒野と安藤瑞希、その他大勢は、教室から出て行った。

 掃除当番その他の理由でたまたま教室に残っていた生徒たちは、荒野たちの姿が完全に見えなくなってから、いっせいに携帯を取り出してメールを打ちはじめた。

「よぉ。ネコミミのにーちゃん……なんだ、今日は……。
 ずいぶんとまた、大勢ひきつれて……」
「……いやぁ……。
 なんか、学校帰りの買い物つき合ってくれる、って、いってくれて……」
「おー。もてるなーネコミミ君。
 それに、今時、奇特だ子たちだ……大事にしろよ。
 じゃあ、こっちの白菜も、どうだ?
 漬物なんかにすると日持ちもするし、こんだけ買うとこんだけおまけするぞ……」
「んー……漬物かぁ……。
 先生ならうまいやり方、知っていそうだな……。
 ええと……あと、手が空いている人は……」
 その日、ゴスロリ・ファッションに身を包んだ女性たちでごった返す商店街の人込みを縫うようにして、食材を抱えて歩く制服姿の姿の一団は、かなり目だった。

「……あー。
 目標は、現在、全員お野菜やお肉の入ったビニール袋をたっくさんぶら下げて、商店街をでました。
 このまま、加納君自宅に向かう模様……」
 そこから少し離れた場所で荒野たちを見張っている集団があった。
 全員私服だが、やはり荒野の学校の生徒たちで、二年生と三年生の混成軍であった。推薦などの場合、すでに受験の苦労から解放される生徒もではじめる時期である。
 その女生徒たちも、荒野に注目するうちに次第に組織化された集団なわけだが、情報の伝達速度ではやはり同じクラス、同じ同学年に所属する地政学的な優位には敵わず、今日も、先に組織化された二年生の電撃作戦に先を越された形だった。
 現在、三人から五人に別れて荒野の後を追尾している集団は、当然の如くほとんどの者が日曜日の説明会に出席しており、目下のところ、荒野が置かれている窮状について理解をしめし、なんとか力になってやりたい……と、思っている。
 彼女たちは、表面的なルックスだけに引かれ、週末の騒ぎに乗じて荒野に近づいた二年生集団とは違うのだ……という自負を、持っていた。
 端から見たら五十歩百歩、という気もしないでなかったが、もちろん、彼女たちにその自覚はない。

[つづき]
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