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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(55)

第六章 「血と技」(55)

『……まいったなぁ……』
 と、荒野は思った。
 尾行……というのも馬鹿馬鹿しい、稚拙な追尾者たちの正体が、どうやら、以前から荒野のことをこっそりと追いかけている生徒たちらしい……と気づいた時、はじめて荒野は、今、食材を持たせている生徒たちの意図に気づいた。
 荒野たちの後をついてくる集団は、今は私服に着替えてはいたが、以前から入れ替わり立ち代わり、部活を見学しに来ていた生徒たちであり、彼女たちの顔は、昨日の説明会でもみていた。
 そして、彼女たちの正体に気づいた時点で、荒野は、それまでろくに会話を交わしていなかった安藤さんが、今日、はじめて話しかけてきたのか……何故、その後ろに数人の女生徒を引き連れているのか……その意図に、気づいた。
 表向き、「兄弟」ということになっている茅と、毎晩のように秘密の関係を持っている荒野は、表面上、異性に対して超然とした態度をしている……が、それは、欲望が充足されているのと、異性とあまり付き合った経験がない荒野は、性別によって対応を変えない……というところからくる誤解であって、その実、荒野は……。
『こういうの……どう、扱ったらいいんだろう?』
 なにしろ、徹底的に経験値が不足している。
 荒野は、異性の扱いに関しては……からっきし疎くて、そして、思いっきり、鈍感だった。
『……とりあえず……』
 後をつけて来ている子たちにも、声をかけてみるか……と、荒野は思った。面倒なことは、早め早めに片付けておきたい。というか、今の時点でもかなりイッパイイッパイなのに……これ以上の面倒は、流石に抱え込みたくはない。
 そこで荒野は、荷物の重さに耐えながらも必死に笑顔を向けようとしてくれる制服組を、「荷物、多くなっちゃたから、休憩しよう」といって、マンドゴドラに誘った。
 荒野がたまたま全席空いていた喫茶コーナーのカウンターに荷物持ちの女の子を案内し、店頭に立つと、早速店の奥からマスターが顔を出してきた。
「お。来た来た。
 聞いてくれよ、兄さん。コンテストで来たねーさんたちが、自分のブログとかネットでうちのケーキのことを褒めちぎってくれてな、何だかんだでネット通販の売上が……って……」
 そこでマスターは、はじめて疲弊した顔をして喫茶コーナーのカウンターにへたりこんでいる、荒野の学校の制服を着た生徒たちの姿に気づいた。
「……おい、おにーさん……。
 初めてみる顔触れだな……」
 マスターは荒野の耳元に顔を寄せ、急に小声になって、囁いた。
「で……どれが、本命だ?」
 ……やはり、そう見えるのか……と、荒野は思った。
「どれも、本命ではないんだけど……」
 荒野も、小声になった。
「ちょっと二、三分、出て行って、すぐ戻るから……彼女たちの好きなもの、食べさせておいて……」
 と、マスターにお願いする。
 そして、喫茶コーナーに戻り、待っていた女の子たちには、こう告げた。
「……今、知り合いを見かけたから、ちょっといって声をかけてくるね。
 すぐに戻るから、好きなもの頼んでよ。
 勘定は、気にしないでいいから……」
 にこやかにそういって、返事も待たずに身を翻し、荒野は店の裏口から外に出た。

『……次は……』
 荒野は有働勇作の携帯に電話をかけ、ボランティア活動の内情に詳しい者を一人、マンドゴドラに派遣してくれ、と、要請した。
「……そうそう。有望な協力者候補が……あー……二十人くらい、かな? うん。今、マンドゴドラにたむろしているからさ。ちゃんと説明できる人がいいな。
 資料とかも持たせてくれると、さらに、いい……」
 有働勇作は、斎藤遥を派遣してくれる、といってくれた。二人とも学校内にいた……ということは、パソコン実習室か放送室かで一緒にいたのだろう。

「……やあ……」
 二、三人づつのグループに別れ、荒野の後をつけて来た女の子たちのさらに後ろを、気取られずに取る……などいうのは、荒野にしてみれば造作のないことである。
「……ぼくに、なんか用かな?」
 荒野はにこやかに挨拶し、グループのひとつひとつをマンドゴドラに案内する。
「……おいおい、おにーさん……。
 こんな女の子をばかりを集めて、一体、なにをしようっていうんだ?」
 マンドゴドラのマスターは、明らかに面白がっていた。
「……これから、突発的に地域ボランティア活動の説明会、はじめることになりそうでね……」
「……あれか? うお玉んところのお嬢ちゃんが、最近リキいれているやつ?」
「そうそう。それそれ。
 人助けだと思って、しょっとお店貸してよ……。
 なんなら、会場代とケーキ代、払うからさ……」
「そんなもん、いいってことよ。
 おにーさんには世話になっているし……それに、ほれ、ぼちぼち人目も集めはじめているし……」
 そういってマスターはバイト店員を即して、在庫を残らずワゴンに乗せはじめる。
 すでに、あまり広くない店内の喫茶コーナーには、明らかにキャパシティを越える人数の少女たちが密集している。マスターの言葉通り、ショーウィンドウー越しに外からも見える異様な風景に……通行人たちも、足を止めはじめていた。
 この店の突発的なイベントと、便乗ワゴンセールは、もはや近隣の皆様にはおなじみのものになっていた。
 斎藤遥が大量のコピー用紙を抱えた男子生徒二名を引き連れてマンドゴドラに到着するのと、荒野が尾行者全員をマンドゴドラに集め終わわるのとは、ほとんど同時だった。
 こうして一緒に集めてみると、教室内で声をかけてきた安藤さんたちが、制服姿であるのにもかかわらず、どことなく派手な印象を与え、逆に、こっそり後をつけてきた子たちは、どことなく内気そうで地味な外見をしていることに気づかされる。
 斎藤遥がボランティア活動の説明をはじめると、地味グループの子たちは口々に「昨日の説明会、行きました……もう、メンバー登録もしています」といいはじめ、すると、派手グループの方もしぶしぶ、といった感じではあるが、斎藤遥の説明に、真面目に耳を傾けるよりほか、なくなるのであった……。
 斎藤遥に随行してきた男子生徒二名が、外に出てマンドゴドラのワゴンセールに寄ってきた人たちに、ボランティア活動の詳細を記したコピー用紙を配りはじめると、説明を聞く必要のない地味グループの女の子たちが店の外に出て、それを手伝いはじめる。
 派手グループの子たちも、対抗意識がでてきたのか、斎藤遥の説明がすべて終わる前に、慌ただしく携帯の画面でボランティアメンバーの登録を済ませて外に飛び出し、ビラ配りを手伝いはじめる。

「……おにいさん……意外に、策士ですね……」
 途中から手の空いた斎藤遥が、こっそり荒野に話しかけてきた。
 大体の事情は、途中から察していたらしい。
「……そうでも、ないよ……」
 荒野は澄ました顔で答えた。
「おれより年下で、もっとえげつないのいるし……」
 荒野は、知り合って間もない楓と孫子の関係を見抜き、両者を噛み合わせようとしたテンの顔を、思い浮かべていた。

 皆さんがビラ配りに夢中になっている間に、荒野は一度家に帰り、愛用のママチャリで何往復かして、大量の食材を自宅に運び込んだ。

[つづき]
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