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彼女はくノ一! 第五話 (139)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(139)

 今朝、校門前で多数の武器を没収されたことを除けば、目立っているのはやはり荒野であり、少なくともその日一日は、楓の周辺では、これといった異変は起こらなかった。もちろん、没収の一件や昼休み、実習室でのやりとりが噂となってじわじわと静かな波紋を呼んでいる気配は十分に察せられたが、そうした噂が具体的に目に見える形となって跳ね返ってくるのには、まだしばらく時間がかかるのだろう……と、楓は推測する。
 直接、荒野の常人離れした身体能力を目の当たりにした人間はまだ数十人のオーダーに留まっており、あれこれある噂が、それなりのリアリティを獲得するのには、まだ少しの猶予がある……。
 直接、目撃した生徒たちも、間接的に噂を聞いた生徒たちも……まだ、その事実をどのように評価したらいいのか、判断に困っており……とりあえず、物珍しさだけが、先行しているのが、現状だ……ろうと、楓は、観察した。
 そんなわけで、昨日の説明会から数えて一日目、の、月曜日は、表面上、穏やかに過ぎ、放課後になった。楓は、それまで会話を交わしたことのない生徒や、見知らぬ生徒から、通りすがりに「よ! くノ一!」などといきなり意味もなく声をかけられる……ということを何度か経験したが、それ以外はまったく平常通りの学校生活をおくることになった。
 クラスメイトたちの楓に対する態度も……少なくとも表面上は、以前となんら変わらない。
 やはり……非人間的な能力を持っているのは、荒野だけだ……と、思われているようだった。
 あるいは、商店街の人たちが、年末のショッピング・センターの一件について、あえて口を噤んでくれたように……なにがしかのことに気づいても、築かないフリをしてくれている生徒も、多いのかも知れないが……いずれにせよ、まだしばらくは従来と何ら変わらない生活を送れそうだ……ということが、楓にはありがたかった。

 放課後になり、その週は掃除当番に当たっていたので、茅には少し図書室で待って貰い、三十分くらい遅れて、二人で一緒に帰宅する。茅は、図書室の本を、「まだ、全て、記憶しきってないの」とのことで、時間が空きさえすれば図書室に足を運んでいる。したがって、その程度の時間、待たされるのは、まるで苦にならないようだった。
 また、
「待ち合わせしてまで、一緒に下校するのは……兄弟としたら、仲が良すぎるだろう」
 という判断で、荒野と茅は、特別な用事や事情がない限り、一緒に下校することはない。
 だから、帰りの茅の護衛役は、よほどのことがない限り、楓がすることになっている。
「茅様……」
 茅と肩を並べて家路につきながら、楓は茅に話しかけた。
「……体術を習いたい、って……」
「前々から、考えていたことなの」
 茅は、楓の目を真っ直ぐ見据えて返答した。
「茅だけが、戦力外。足手まとい。ウィークポイント。
 それを改善するため、毎朝、走ってきたの……」
 そのことは……茅が毎日ランニングを行っていることは、楓も何度か耳にしていた。そして、茅が以前から「強くなるの」といっていたことも、楓は知っている。
『……本当に……思ったことを……希望通りに、実現しちゃうんだな……茅様は……』
 と、楓は思う。
 少なくとも……そのための努力は、惜しまない……。
「で、でも……」
 茅に、黒目がちの目で真っ直ぐに見据えられ、何故か少し狼狽えながら、楓は目を反らした。
「とりあえず、今日は……見学だけ。
 それから、加納様に正式に許可を取って……。
 その次は……今の時点で、どれだけ体が出来ているのか確認させて貰って……それで、少しずつ、無理のないペースで……しか、お教えできませんよ……。
 それに、どの時点でも、茅様に見こみがないと判断したら……その場で、中断します」
 一口に、「一族の体術を教授する」といっても……いうほど簡単なものではない。その過程は、かなり、「しんどい」し、体にも少なからぬ負担を強いることになる。「最低限の資質」として、「先天的な適合性」に恵まれていなければ体を壊すのがオチで……誰にでも教えられる……というものでは、ないのだった。
「それで、いいの」
 茅は、頷いた。
「茅のせいで、荒野を……みんなを不幸にするのが、いやなだけなの……」
 思いの外、真摯な口調だった。
「か、茅様……」
 その真摯な口調にあてられ、楓は慌てて話題を変える。
「もう、お友だち……できましたか?」
「佐久間沙織先輩。徳川浅黄」
 茅の返答は、いつも単刀直入だ。
「それ以外に、クラスの方とか、クラブの方とか……」
「みんな、優しくしてくれるの。
 クラブの人たちとは、何度か一緒にマンドゴドラにいったの」
「そ……それは、いいんですが……」
 楓は、未だに茅との会話になじめない。
 茅の言葉はいつも「意味一辺倒」であり、「余裕」、というものが無さすぎる。
「……茅様が、特別親しくしている人……とか、出来ましたか?」
 少し前をおいて、楓は、昼休みから考えていたことを、ようやく切り出すことが出来た。
「どこまでが普通に親しい状態で、どこからが特別に親しい状態なのか……明確に条件を設定して貰えないと……うまく、答えられないの」
 やはり……茅の返答は、明確で余裕というものがなかった。
「あ……あの、ですねぇ……」
 楓は、話しの方向を変えた。
「昼間……考えたんですが……茅様にも、お友だちが……もっと大勢の人たちとつき合う必要性が、あると思うんです。
 というのはですねぇ……」
 楓は淡々と、昼休みに考えたことを茅に説明する。
 荒野や自分、のような身内以外に、親しい人間を多数作るのが……地元社会にとけ込む早道だし、特殊な環境で育った茅のためにも、いいのではないか……と。
 楓の話しを、茅はいつもの無表情で聞き入っていた。
「……面白い偶然なの」
 一通り聞き終わってから、茅はぽつりと呟く。
「今朝、茅が絵描きについていったことと……ほとんど、同じ……」
 そういってから茅は、楓の言い分の正当性を認め、「これからは、学校内外に、もっと多くの親しい人間を作るように、努める」と約束してくれた。

[つづき]
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