第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(141)
茅は給湯器しかないことに不平をいったが、それでも持参のポットと茶葉を使って全員の分の紅茶を用意しはじめた。
その間に、楓は持参してきた投擲武器を一揃いを、徳川にみせる。楓は手持ちの武器を一つづつ、持って来ていたが、徳川は、楓が取り出した物品をしげしげと眺めては、即座にテンに手渡す。
「……つまらない……こんな単純な構造では、改良のしようがないないのだ……」
とか、ぶつくさ言っていた。
創意工夫の余地がないことが、不満らしい。
徳川から次々と武器を手渡されたテンは、珍しそうにひとしきり重さや形状を確認した後、即座にノートパソコンにデータを入力しはじめる。
「このうち、六角というのは、工場内の設備と材料で生産をはじめられる。
手裏剣類は、刃物だから、鍛えたり研磨したり、とか工程が増えるけど、二、三日もらえば十分量産ライン作れるよ……」
「……この程度のもの、すぐできて当たり前なのだ……」
テンの言葉に徳川が答えた。
「ということで、この辺の製造ラインはテンに任せるのだ。コストダウンと材料の改良も視野にいれて、やってみるといいのだ……」
ここで徳川は、楓の方に視線を向けた。
「……手持ちの武器には、まだ余裕があるのだろう?」
「……ええ……十分に……」
楓は、頷く。
もともと、実戦がなければ、そうそう消耗するものでもない。
「……では、すべて引っくるめて、せいぜい二、三日で最初の試作品を作るのだ……。
それでよしとなれば、そのラインを正式に稼働させるのだ……」
楓の答えを聞いてから、徳川はテンに告げた。
「改良なしの複製なら、ここの設備を使えば、今日明日中にも可能だね……」
テンは、徳川の言葉に頷く。
「……それでは、次はこれを……」
今度は、孫子が何種類かの弾丸を徳川にみせた。
「……実弾は、鋳造でも構いませんが……スタン弾は、多少構造が複雑で、材料も特殊です。合成樹皮を使用している、とは聞いていますが、詳しい組成などは知りません……」
孫子は通常のライフル弾とスタン弾、アンプル弾とHEAT弾なども念のため持参していた。
荒野の構想を考えれば、このうち最も使用頻度が多くなりそうなのは、スタン弾だろう。アンプル弾は中に入れる薬剤が調達可能かどうか分からないので後回しでいいし、実弾とHEAT弾は……できれば、使用しなければんらない……という局面には、なってほしくない。
「……合成硬化ゴム、か……確かに、材料も構造も特殊なのだ……」
孫子の手からスタン弾を受け取った徳川は、しげしげと眺めてそっとため息をついた。
「確かに、これはテンの手には負えそうにもないのだ……この手の材料に詳しい人間に聞いて見ないと分からないこともあるし、ぼく自身がやるのだ……。
それから……このHEAT弾というのは……中に炸薬が詰まっているのかね?」
「……ええ……」
孫子が、頷く。
「装甲を打ち抜くために開発された、徹甲弾の一種です……。
打ち出されて、この弾頭が装甲に当たると、弾頭部分が爆発して標的を破壊。その後、中に火のついた炸薬を送り込みます。
対装甲車両の兵器としては、現在ではミサイルが主流ですが、腕のよい射手がいれば、このような特殊弾の方が遥かにコストパフォーマンスに優れています……」
物騒な内容を淡々と解説する孫子。
「……むむむ……」
徳川は、唸った。
「……こっち方面も、流石にノウハウを持っていないのだ……」
「実家に問い合わせて、必要な資料を取り寄せましょう」
即座に、孫子が答える。
「……可能なのかね?」
徳川が、孫子の顔をまともに見る。
常識的に考えれば……そんな物騒な兵器の開発を、簡単に任せたりしないものだが……。
「どうせ、炸薬も取り寄せになります。
実家は……こちらが説得しますわ。
そのかわり……」
そういって、孫子は、持参した書類を広げて、徳川に見せた。
「……事業計画書、か……」
「ええ……。
ビジネスの相手として信用できる、ということになれば……才賀は喜んで、誰とでも手を組みます。
高い技術力を持ち、それなりに実績もある御社が、潜在的な能力をフルに発揮して利益率を上げれば……才賀は、喜んで手を貸すでしょう……。
内容は、不公平にならないように気をつけたつもりですが……もちろん、そちらの人員や顧問に、時間をかけてチェックして頂いて結構です……」
「もちろん、そうするのだ。
こちらも、気がついたらのっとらられていた……ということになったら、困るのだ……」
そういいながら、徳川は、孫子が持って来た書類を引き寄せて、子細に読み込みはじめた。
孫子と徳川がシビアな対話をしている内に、茅はみんなに紅茶を給仕しはじめる。カップは持参していなかったので、ここでふだん使用している、プラスチックのカップに人数分の紅茶を注ぎ、浅黄と一緒に配って回った。
浅黄は、最初の一杯は砂糖とミルクをどっさりいれ、ゆっくりと時間をかけて飲んでいたが、ほとんど渋みがないことが分かると、今度は隣に座っていた茅のストレートティを一口確認し、二杯めからはストレートで砂糖もいれずに飲みはじめた。
他のみんながお茶を楽しんでいる間も、孫子と徳川は書類を挟んであれこれ議論していた。議論の内容は、もはや二人以外には理解できないほど専門的な方面に突入している。新規事業のために新しい法人を作った方がいいか、悪いのか、そのための資本比率はどうするのか、など、普通の学生には縁のないことをあれこれ話している。
『……ウドー君なら、まだしも理解できたかもな……』
と、傍で聞いていた玉木玉美は思った。
ゆったりとお茶をしてから、ガクにせっつかれたこともあって、楓は事務所を出て、とりあえず「実技」をしてみることになった。茅にも「見学させる」という約束をしているし、先に徳川に見せた投擲武器を、実際に使用する場面も、見せておいた方がいい。
楓とガクに続いて、他の面子もぞろぞろとついていく。
「最初に確認しておきますが……」
事務所を出た楓は、ガクに問いかけた。
「手裏剣とか六角とかの扱いは……まだ、習っていなかったのですね?」
「……うん」
ガクは、頷く。
「投げるので、習ったのは、印地打ちだけ……。
ベルトとか、帯条の布とか革ならなんでもいいんだけど、そういうので、こう、そこいらにある石とかを、ブン!
って、ぶつけるやつ……」
ガクは、ジェスチャーつきで説明してくれる。
「印地、あるいは、飛礫。
スリングや素手での、広義の投石攻撃方法……ですが、古代から中世、いや、近現代まで、広くみられる攻撃方法です。
悪党の技、としている本もありますが、戦国期まで合戦の資料をみると、刃物による傷よりも打撲による負傷の方がよほど多いそうですから……一般的なイメージよりも、こっちの攻撃方法の方が、主流だったのでしょう……」
孫子が、解説を付け加える。
「……じゃあ……。
やぁやぁ、我こそは……って、名乗りあったりするのは……」
玉木が、疑問の声をあげる。
「……大方は、平和な後世の創作ですわね……。
だって、雌雄を決する合戦の実態が……石合戦がだったり、遠くから弓矢を射掛けるだけでは、絵にならないでしょう?」
孫子は、肩をすくめる。
「武士、という階級の黎明期に、自分たちの存在を誇示するために、ごくごく限定された期間と地域で、そういう芝居めいた真似をすることがあったのかも知れませんが……。
実際の戦は、もっと泥臭いものです……。
それに、武士の発祥は、貴族子飼いのやくざみたいなものですわ……」
だから……特に、初期は、自分たちの働きを、周囲に認識させる必要があった、と孫子はいう。
そんなことを話す間にも、放送部の面々は、ビデオカメラと光源をセットしはじめた。
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つづき]
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