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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(59)

第六章 「血と技」(59)

 そうこうするうちに、徳川の工場に行っていた、楓たちがタクシー二台に分乗して戻ってきた。メイド服姿で、紅茶のポットを抱えていた茅は、タクシーから降りるなり、荒野の手を引き、マンションに一旦、戻った。何をするのか……と不思議に思っていると、ティーカップの入った箱を持たされる。
「……カレーには、紅茶が合うの……」
 との、ことだった。

「……でね、今日は中途半端だったから、ボク、一日でも早く、傷口をふさぐんだ!」
 狩野家の居間に戻ると、ガクが今日のことを身振り手振りでみんなに説明していた。
 この家の人々と、飯島舞花、樋口明日樹、三島百合香に加え、玉木玉美も来ていた。
『……そんなもん、自分の意志でどうこうできやしないだろう……』
 荒野は、そんなことを思いつつ、カップを台所に運びこんだ。
 そして、居間に帰ってくるなり、ガクの頭に手をおく。
「……その傷も、元はといえば、自分の判断ミスが原因だからな。
 今後は、もう少し慎重になれよ……」
 頭の上においた手で、ガクの髪の毛をぐちゃぐちゃとかきまぜる。
「……わかっているよう」
 ガクは、荒野の手を払い、指櫛で髪の毛を直しながら、いった。
「ボクは……もっと、賢く、強くなるんだから……」
 それから、カレーの皿とサラダのボウルが炬燵の上に置かれ、夕食がはじまった。
「……でも、あれ、おにーさんが心配していたわりには、みんな平然と受け止めているよな……」
 飯島舞花が、そう切り出す。
 もちろん、荒野のカミングアウトのことだ。
「……みんな、まだ実感が沸いていないだけじゃあないかな?
 これから、本格的な拒否反応がでてくることも、十分に考えられるし……」
 荒野は、あくまで慎重な態度を崩さず、そういう。
「……土曜日に、例の事件があって、日曜日、説明会しただろ?
 その間、うわさという形で静かに広まった分、ショックが少なくなったんだとは、思うけど……」
 一時的なものであれ……静かなとことは、いいことだ……と、荒野は思う。
「……そうだね……」
 玉木珠美が、頷く。
「……土曜日のアレがあったから、うちの部員たちに説明する手間が省けたっていうのは、あるけど……」
「……でも、タイミングとしては、やはり早すぎたの」
 玉木の言葉の続きを、茅が引き取る。
「そうそう……。
 もう少し、ボランティアとかなんとかで、カッコいいこーや君たちの顔を売りながら、徐々に秘密を明かす人を増やす予定だったから……」
 今のところ、うまくいっているのは……僥倖だ、という意味らしい。
「……三学期から、学校に通い出して、ようやく一カ月……だもんな……」
 荒野は玉木の意見に頷く。
 荒野も「うまく運び過ぎている」という点に関しては、同じ意見だった。
「……次々といろんなことが起きるんで、もっとずっと長く感じるけど……」
「ここって、退屈だけはしないよね……」
 ガクは、無邪気にそういいきる。
「……お前がいうな、お前が……」
 ガク、テン、ノリの来訪も……今となってはかなり昔のことのように感じるが……その実、ついこの間のことである。
 三人の存在も、荒野の身辺を騒がしくする大きな原因となっている。
「……そういや、樋口ちゃんは、どこいらへんからカッコいいこーや君のこと、知ってたの?」
 玉木が、樋口明日樹に問いかける。
「……わたし、も……今日まで、はっきりと知ってたわけではないけど……」
 樋口明日樹は、言葉を濁す。
「……松島さんが、来たときの状況が、アレだったから……」
 明日樹がそういうと、話題になっている楓は「あは。あははっはは」と乾いた笑い声をあげた。
「来たとき……どう、でしたの?」
 楓が来たときは、まだこの家にいなかった孫子が、詳しいことを知りたがった。
「……えっとぉ……」
 明日樹は、楓と香也の顔にちらちら視線を走らせながら、詳しい事情を説明するのを、避ける。
 孫子と同様、当時の状況を知らないテンとガクが、「知りたい、知りたい」と騒ぎはじめた。
 もう一方の当事者である香也は、素知らぬ顔……というより、なにを考えているのかよくわからない顔をして、カレーを咀嚼している。
「……あー……。
 あの時、なー……」
 明日樹に代わって、羽生譲が、続きを引き取った。
「……モロ、にんじゃーって格好した楓ちゃんが、登校するところだった、うちのこーちゃんの上に……落ちて来たんだ……」
 テン、ガク、孫子が、目をパチクリさせた。
「……落ちて来た、って……」
「……おにーちゃんの上に……楓おねーちゃんが……」
「……どうして、そんなことに……」
 しばらく間を置いて、こそこそささやき合う三人。
 楓は、乾いた笑い声を上げ続けている。
「……おおかた、電柱の上あたりを走っていて、足でも滑らせたんじゃないのか?」
 澄ました顔をして、荒野が答えた。
「……いわゆるオチものってやつだな……」
 三島が、意味ありげな笑みを浮かべて、そういう。
「先生! 質問!」
 テンが、片手をあげた。
「オチものって、なんですか?」
「らぶったりこめったりするマンガや何かの基本設定、その一、だ……」
 三島は、ちちち、と舌を鳴らして人差し指を顔の前で降った。
「……ある日、いきなり難の前触れもなく、平々凡々とした少年だか青年だかの上に、容姿端麗、しかし、どこか抜けたところのある女性が落ちてくる……所から、物語がはじまる。
 たいていは女神とか天使だとか妖精さんだとかで……」
「……何万人に一人だとかの割合で、あなたの願いをかなえるためにやって来ました……とか、どっかのキャッチセールみたいなこというんだよな……」
 羽生も、三島の説明を横から補足する。
「……そうそう。
 で、主人公がいうことも、たいてい決まっていて、」
「「……君みたいな彼女が欲しい……とか、いった途端、その女神とか天使だとか妖精さんだとかとの同棲生活がはじまるんだよな……」」
 三島と羽生の声が、はもる。
「……それも……日本の伝統ってやつですか?」
 半眼になった荒野が、いかにもげんなりとした声で確認する。
「……まあな……」
 三島は、しれっとした顔をして、答えた。
「……香也様……」
 孫子は、ジト目で香也を睨んでいた。
「このお馬鹿くノ一に……そんなお願い、したんですか?」
「……んー……」
 孫子の剣呑な雰囲気に気づいているのかいないのか、香也は、首を傾げながら、答えた。
「……あの時は、確か……死んだふりをしていたら……三島先生にいきなり往復ビンタをくらって、学校へいけって怒鳴られた……」
「意外な展開、ってヤツだな……」
 三島が、はやり、しれっとした顔をして、答えた。

[つづき]
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