第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(144)
孫子は小一時間ほどを費やして、一ダース以上の弾倉を空にし、その間、若干退屈になってきたギャラリーは、事務所の中でお茶を飲みながら雑談していた。
「……なぁなぁ、くノ一ちゃん。
さっきの話なんだけど、ニンジャってやっぱテッポウ使わないのか?」
玉木が、楓に話しかける。
「……絶対に使わない……というわけではありませんけど……」
楓は、作戦行動時の、秦野の方法についての噂を思い返しながら、慎重に答える。秦野は、近代火器で武装し、人海戦術による速やかな弾薬の補給による包囲殲滅戦を得意とする、と聞いている。常人以上の身体能力を持っていることは勿論だが、例えば、固体の能力を極限まで引き出す二宮とは違って、秦野は、単体での戦闘能力はあまり重視していない。
「……そういう、力づくで制圧する、という手段が有効な局面というのは、意外に限定されていますし……それ専用に特化した集団が、すでにいますから……」
玉木には、ごく簡単に説明した。
玉木は、「……ふーん……そんなもんか……」と、素っ気なく頷く。
むしろ、傍らで楓の話しに耳を傾けていたテンとガクの方が、真剣な表情で聞いていた。
それで楓は、二人に聞かせるため、もう少し詳しく話すことにする。
「……勿論、途切れる事なくいくらでも弾薬を補給出来る態勢が整っていれば……火器で武装するのが、一番です。
いくら体を鍛えたところで、分間何百、何千、何万というオーダーで吐き出される鉛弾には適いませんから……。
でも、平時の法治国家の中でそんな派手な戦闘行為を行うとなったら……その時点で、自分の存在と行為を大声で喧伝しているようなもので……そういう戦い方は、忍がするものではありません……」
忍の最大の武器は……攻撃力よりも、その存在を秘匿し続ける事にある……と、楓は、教えられてきた。
「……でも、楓おねーちゃん……」
すかさず、ガクが無邪気に突っ込んでくる。
「……ノリが眼鏡屋さんで眼鏡、受け取った日……白昼堂々、ボクたちとか孫子おねーちゃんと派手にやりあったじゃない……」
楓の言葉と行動が、一致していない……と指摘され、楓は一瞬、返答に詰まった。
「……わ、わたしは……落ちこぼれ、ですから……」
かなり間をおいて、楓は、ようやくそう答える。
潜在的な能力は強大、しかし、時に状況判断に的確さが欠け、感情的な行動にでる傾向がある……というのが、養成所時代の楓の評価、だった。
楓自身、その評価は的を射ている……と、思う。
徳川篤朗は、孫子が通常のライフル弾からスタン弾に切り替えた時だけ、モニターの前に身を乗り出したが、すぐに「……画面が粗いのだ……」とかいいながらモニターから離れ、孫子が持参したプリントアウトの束に視線を戻した。書類に目を走らせながら、「もっと高速の動きも捉えられなければ、参考にならないのだ……」とか、ぶつくさいっている。画面の粗さ、と同時に、動画のコマ数に不満があるようだった。
「……あー……徳川……」
着弾時のスタン弾の動きを細かく見たいのかな、と察した放送部員の一人が、気を利かせて声をかけた。
「……そういうの撮りたいのなら、こんな家電品ではなくて、もっと高品位のカメラとか強力な光源が必要になるけど……」
「……わかっているのだ……」
徳川は、憮然とした声で答えた。
「その辺の映像資料も、才賀に要求するつもりなのだ……」
孫子は、久々にふんだんに弾丸を消費出来て、割りと機嫌がよかった。立てるようになるかならないか、の頃から、おもちゃがわりに銃を抱いていたような人種である。これほど長期間に渡って実弾演習を怠ってきたのは、孫子にしても初めての経験で、だから、本心では、勘や腕が鈍っていないか、かなり不安だった。
近場に射撃場を確保する……のを急いだのも、様々な状況や口実があったとはいえ、根本の本音をいえば、しばらく鍛練を怠っている間に、孫子の射撃の腕が鈍っているのではないか……という恐怖交じりの焦燥感があったためで……だから、こうして久々にまとまった練習時間をとって見て、体の感覚がまだ鈍っていないことを確認し、孫子は、安堵した。
孫子は、残りの弾倉が五ケースになった所で、射撃練習をやめる。
何百発、という弾丸を一度に発車しのにもかかわらず、徳川が作り直した銃は、特に異常をみせなかった。もちろん、銃身はかなりの熱をため、チリチリと音をたてて周辺に熱気を放射しているわけだが……。
『あれだけ撃っても、狙いがずれなかったのは……』
まずは、合格……と、見るべきだろう。
とっさの時、標準がずれたり作動しなくなったりするのが、一番困る。
兵器は、カタログに記載してあるスペックよりも、信頼性や故障のしにくさ、の方が重視される。特に、個人が携帯する兵器は、「安心して命を預けられる代物かどうか?」が、一番重要だったりする。
『……まあ……とりあえずは、合格、ですわね……』
短時間にこれだけ酷使すれば、そこここのパーツにかなり負担がかかり、場合によっては交換しなければならない筈だが……徳川なら、予備のパーツも用意している筈だ。
実地に試験をしてみて、はじめて孫子は、徳川の技術力を認めた。
この土地にいるかぎり……やはり、仲良くしておいた方が、よさそうだ……と。
孫子の射撃練習が終わると、いい時間になっていたので、その日は解散となった。
ほとんどの放送部員たちは、自転車でここまで来たようで、変える方向が一緒の楓たちは彼らと別れ、タクシーを呼んで貰った。茅が、荒野から「夕食は、狩野家で、みんなでカレー」という旨のメールを受け取っていたらしく、玉木も呼び止められる。
カレーなら、人数の融通が効きやすいし、荒野はかなり多めに作る、という。
「……ここまで、歩きだとかなりかかりますから、頻繁にくるとなると足を確保する必要もありますね……」
三々五々、自転車に乗って去っていく部員たちを見送りながら、楓はそんなことをいう。
実は、楓たちの足ならさほど時間はかからないのだが、それだって、目立たないように、気配を絶っていかなければならない。現在の状況で、町中で大ぴらにを一族の技を使うのは、できれば避けたかった。
一般人に対して……というより、どこかで見ているかもしれない、気配を読む能力を持つ者への用心として……。
「……そういえば、庭に朽ちかかった自転車、一、二台、転がっていたような気がするけど……あれ、直して使えないかな?」
テンが、そんなことをいいはじめる。
「……聞いて見なければ、分かりませんけど……誰も使っていないよ
うですから、直せれば、そのまま使えると思いますけど……」
この中では狩野家への滞在歴に一番長い楓が、慎重に答える。
「……じゃあ、今日帰ったら、にゅうたんに直して使ってもいいか、聞いてみよう……」
テンも、楓の返答に納得したかのように頷く。
「それより……お二人は、自転車、乗れるんですか?」
テンやガクがいた環境には、舗装した道路はなかったのではないか……と、楓は予測する。
「うん。今は乗れない。でも、すぐに覚えるよ……。
ガクも、どうせ、傷がしっかりふさがるまでは、本格的な運動ができない訳だし……ボクはボクで、しばらくトクツーさんの手伝いが忙しくなりそうだし……」
「うん。やるよ、それくらい。
錆を落として、油差して……本格的に駄目そうなパーツ、取り替えるだけでしょ?」
テンの言葉に、ガクも頷く。
自転車くらい簡単な構造ものなら、自分でも直せる……といいたいらしい。
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つづき]
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