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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(61)

第六章 「血と技」(61)

 重い話しも軽い話しも含め、それなりに会話が弾んで夕食が終わると、テンとガクが「お片付け~」といいながら食器を下げ、茅が紅茶をいれに一緒に台所にいく。
 さりげなく香也が席を立とうとするのを、楓と孫子が両脇からほぼ同時に手を伸ばして、阻止した。
「……風邪で、何日か間が空いてしまいましたが……」
 にこやかに笑いながら、楓。
「……そろそろ、体調もよろしいようですし……」
 やはり、にこやかに笑いながら、孫子。
「「……勉強の方を再開しても、よろしいですね……」」
 二人の声が、重なる。
「……はい。
 玉木も、逃げない……」
 炬燵の向こうでは、やはりそーっと逃げようとしていた玉木の首根っこを、樋口が捕まえていた。
「わたしもあんたも学校帰りでそのまま来たんだから、勉強道具あるでしょ?」
「……玉木は、自分でも勉強会企画しているんだから、逃げちゃいけないな……」
 荒野はそういって、立ち上がった。
「……じゃあ、おれも……教科書とか道具、取ってくるよ……」
 茅の分も一緒にとってこようかな……とも、思ったが、考えてみれば、茅は教科書を丸暗記していしノートも取っていない。
 無用の長物、だった。
「……じゃあ、わたしも取ってくるよ……」
 飯島舞花も、荒野と一緒に玄関に向かった。

「……しかし、よく考えてみるとおにーさんみたいな人たちが普通に学校の勉強とかやっているのも、ミスマッチだよな……」
 エレベータの中で、飯島舞花はいった。
「他の子たちはともかく、おにーさんは、ここに来る前まで、現役バリバリでニンジャしてたんだろ? 世界を股にかけて……」
「……まあ、そうだけど……」
 荒野は、舞花の表現に苦笑いをしながら答える。
「……それでも、おれ、今までほとんど日本にいなかったから、国語とか古典、それに日本史基礎知識がごっそりとないからな……。
 理数系はそれなりだけど、英語はまだ、文法用語がよくわからないし……」
「……でも、この間の業者テスト、偏差値わりとよかったて話しでは……」
 毎朝、一緒に登校していれば、そういう話題も自然にでる。
「偏差値って、他の人の成績との比較だろ? まだ、みんな本気をだしていないんでよ……偏差値は、三年になってくると、勉強しているのとしていないの差が、どっとついてくるって……沙織先輩が、いってた……」
「そう、なんだけどね……」
 今度は、舞花が苦笑いを浮かべる。
「そっかぁ……もう……三年生なんだな……」
 そこで荒野の部屋があるフロアに到着したので、一旦舞花と別れ、エレベータを降りる。

 エレベータを降りた荒野は、舞花の言葉を反芻する。
『もう、三年生……か……』
 正直、荒野は、学校に通い出して一月たつこの時点でも、現在の生活に違和感を抱いている。この自分が、一般人の、同年配の子供たちといっしょに、ごく普通に学校に通い、受験や成績の話題に興じている……という事実が、ひどく滑稽で現実離れしているように思えた。
 それから、先程三島から、
『……不利で不利でしょうがないこの状況を、お前さん、楽しんでいるんじゃないのか?』
 といわれたことも、思い出した。
『おれは……笑って、いたのか……』
 確かに……以前の荒野なら……笑っていても、おかしくない状況だ。
 荒野自身は、あまり自覚していなかったが……以前、一緒に仕事をしたことがある者たちは、口を揃えて証言した。
 荒野は……状況が切迫すればするほど……実に嬉しそうな笑顔をみせる……と。
 荒野は、考えてみる。
 窮地に陥るほど顔が綻ぶおれと、友達とカレー食って学校の勉強の準備するおれ……どっちが、本物のおれなんだろうか?

 そんなことを考えてみても結論なんかでるわけもなく、荒野は、教科書とノート、それに筆記用具を抱えて、狩野家の居間に戻った。
 炬燵では、香也が楓と孫子に、玉木が樋口と茅に両脇から睨まれて、教科書とノートを広げている。
「……暗記物は機械的に反復学習すれば、体が自然に覚えます……」
 孫子と楓はそういって、香也に英語の教科書を音読させ、発音を直させていた。
「……玉木……本当にこんな成績で、志望校あそこなの?」
 樋口明日樹は、玉木に向かって同情にみちたまなざしを送る。
「……玉木の志望校って、ランク高いいんだ……」
 荒野は、炬燵の上に自分の勉強道具を広げなながら、そう聞いた。
「……沙織先輩と同じ所、志望だって……」
 明日樹が、軽くため息をつく。
 この地区でも有数の進学校で、荒野たちの学校からは、毎年数えるほどしか合格者を出していない……。
「……そっか、玉木は女子アナ志望、とかいってたしな……」
 荒野も、明日樹に習って軽くため息をつく。
 確かにあそこの学校に進学できれば、その後、東京の大学へ進学する、いい足掛かりになるだろう……。
「でも……それだと、もっと計画的に、出題範囲消化して行かないと……来年まで、待ち合わないと思う……」
 自分でも調べ、実践している経験から、樋口明日樹は、断言する。
「……そんなにひどいのか? 玉木の成績……」
 思わず心配になって、荒野が尋ねる。
「平均すれば、そうでもないんだけど……」
 樋口明日樹は、ひっそりと答えた。
「玉木は……覚えている所と、そうでない所のムラが、ありすぎるの……」
 明日樹の代りに、茅が答えた。
「これなら、教科毎、単元毎に細かくチェックしてって、覚えている所と再履修が必要な所を洗い出し、一つ一つ覚えさせていった方が、早いと思うの……」
「……茅……」
 荒野は、なにかに気づいたように、まじまじと茅の顔をみた。
「そのチェックシート、玉木だけでなく、学校の、他に希望者にも、実施できないか?」
「できるの」
 茅は、頷いた。
「教科書の内容は有限だから……分割して、理解度をチェックするプリントを作成するのは、簡単なの」
「……そういうの、一年の分もあったら……」
「……香也様も、助かりますねぇ……」
 楓と孫子が、声を揃える。
 特に学年度の前半、あまり熱心に授業に出なかった香也の理解度は、かなりムラがある。
「……うちの大樹も……」
 半眼になって、明日樹が呟く。
「そうだ。加納君、大樹のやつに一度いってやってくれない?
 なんかあの子、加納君のいうことなら聞きそうな気がするし……」
「そりゃ……いいけど……」
 どのみち、自主的な勉強会とやらがはじまれば、大樹にも声をかけるつもりだった。
「茅、そのプリントとか、用意するのにどれくらい時間がかかる?」
「……ボクも、手伝う!」
 テンが、片手をあげた。
 記憶力に関しては心配していないが……テンが「学校の勉強」という代物の性質を、どの程度理解しているのか、荒野にはよくわからなかった。
「じゃあ、悪いけど、茅と二人で、今夜から……。
 それ、作ってくれれるか?」
 この時点では、荒野は、勉強会と含めて、学校側の心証をよくする役には立つだろう……くらいにしか、思っていなかった。

[つづき]
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