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第六章 「血と技」(62)
夕食後、二時間ほど他の連中が勉強をしている間、テンと茅は羽生譲の部屋に引っ込んで早速カリキュラム作りを開始した。孫子や楓、茅に借りた教科書や参考書、問題集を羽生のスキャナで取り込んで、整理したりしていたらしい。そのうち、羽生のデスクトップやテンが徳川に借りているノートだけでは足りなくなってきたのか、茅は途中で自分のノートパソコンを取りにマンションに戻ったりしていた。
二人の作業は荒野たちが勉強を終えた後も続き、荒野は飯島舞花や玉木玉美、樋口明日樹とともに狩野家を辞す時間になっても、まだ終わらなかった。
かなりいい時間になっていたので、自然と、荒野が玉木を、香也が樋口を送っていくことになる。
「……こうしてつきあってみると、みんな普通の子なのにね……」
マンションの入り口で舞花と別れ、二人きりになると、唐突に、玉木がそんなことをいった。
「みんな……カッコいいこーや君たちと、実際につきあってみればいいんだよ。
そうすれば、変な偏見は、なくなるから……」
「……そうだと、いいんだけどな……」
荒野は、そう答えることしかできなかった。
「だから……もっといろいろな人と、つきあわなければならないね……。
一人でも多くの人と、直に顔を合わせて、一緒に話したり勉強したりすれば……友だちが、いっぱいできれば……事態は、好転して行くよ……」
「そうなると……いいな……」
玉木は商店街の外れまでくると「ここでいい」といったので、荒野は、夜道を一人で引き返した。
マンションに戻ると、茅はまだ帰っておらず、部屋は真っ暗なままだった。
バスルームに入って風呂に火をいれ、コーヒーメーカーをセットし、自分のパソコンを立ちあげ、メールチェックをすると、野呂竜斎と二宮中臣からメールが着ていた。
内容は、どちらも似たようなもので、現在、荒野がこの土地で行っていること……正体を晒した上で、一般人として生活する、という選択……に興味を持った若い者が数十名、この町に、一般人として移住してくる。
ついては、なにかあった時に相談相手になってやってくれ……というものだった。
メールに添付されたファイルを開いてリストの内容を確認してみると、野呂系と二宮系、それぞれ五十名前後の顔写真と簡単なプロフィールが記載されている。男女半々くらいだが、十代から二十代前半の若者たちで、土曜日に学校で叩きのめした顔も、少なからず交ざっていた。
今でも……荒神がいて、荒野がいて、シルヴィがいる。監視の人員も、何十人か常駐して、交替で荒野たちの動向を記録している筈だ……。
だが、今度の大挙して来る若者たちは……確とした目的を持ってここに来るのではなく……荒野がはじめてたとの顛末を、その目で確認しにくる……という漠然とした目的しか、持たない……。
『興味、本意か……』
土曜日の一件で、荒野は、自分で認識している以上に、一族の中で自分が注目されていたことを実感した。
加納と二宮の両方の血を継ぎ、荒神の弟子……。
しかし、長く日本を離れ、実態よりも「噂」や「イメージ」の方が先行していて……土曜日の一件で、実力も証明してしまった。加えて、日曜の会食で、重鎮たちを目の前にして、「正体を明かした上で、一般人社会の中で生きる」と宣言してしまったわけで……。
『やつらかられば、……珍獣、みたいなものだろうな……』
こうして改めて考えてみると……荒野の出自も、やり方も、経歴も……確かに、一族の規範から大きく逸脱している。
一族の中心から発生し、従来の一族の生き方を否定する生き方を選択しようしている荒野は……彼ら、一族の中で育った者たちからみれば……かなり、奇異に移る、筈だ。
だから、好奇心を抱くのも、よく理解できるのだが……。
『だからって……この、狭い町に、さらに百名前後の術者が、来るのかよ……』
茅や三人組……楓や孫子に加え……この上、若い……実力も性格もよくつかめない連中まで、三桁のオーダーで大挙して押し寄せて来る、となると……。
例え、やってくる連中に害意がないとしても……。
『また……一騒動、二騒動、あるんだろうな……』
そう予測せざるを得ない。
楓や三人組の例から考えても……とのちょいとした行き違いや摩擦が、増えるのは、明白なように思える。
コーヒーを飲み終えて、湯加減をみにいくと、ちょうど良い湯加減だった。
荒野は炬燵と同様に、湯船になみなみとお湯を張る日本風の風呂が、割合に気に入っている。もう少し落ち着いたら、一度みんなで温泉にでもいってみたいものだと思っているが、それはいつのことになるのか、今の時点ではまるで予測ができない。
脱衣所で手早く服を脱ぎ、ざっとシャワーを浴びて、バスタブの中に入る。
「……ふぅうぅ……」
という年寄り臭いため息が、思わず漏れた。
今日のように冷え込みが強い日は、なおさら効く。
『……出来れば、味方につけたいんだけどな……』
国内の若い一族の者がどれほどの修練を受けているのか、荒野はよく知らなかったが……今度この町に来る者のほとんどは、即戦力にはならないのではないか?
と荒野は予測する。
即戦力になるような人材なら、二宮舎人や荒野がそうであったように、現場に出て自分の仕事を抱えている筈だからだ。
すぐにこの町にこれる……といいうことは、目下の所、差し迫った仕事を抱えていない、あるいは、一族の仕事からの足抜けを考えて、仕事を控えている……か、まだまだ修練が不足していて、術者として未熟で、現場に出せないような人材であるか……いずれにせよ、なんらかの理由で第一線から外れた者しか、これない筈であり……。
『でも……人手が欲しいことは、確かだからなあ……』
そうした連中の下手な動きを、警戒しつつ、うまく利用しあう……という関係に、なってしまうのだろう……。
いずれにせよ、それら流入組は、荒野にとってメリットとデメリットの両面を備えた、扱いの難しい集団になりそうだ……とか、考えていたところ、唐突にがらりとガラス戸を開いて、
「……お風呂イベント、発生!」
とかいいつつ、全裸の茅が入って来た。
「……その無駄知識、今度は誰に吹き込まれた?」
荒野は、タオルで額の汗を拭いつつ、茅にツッコミを入れた。
[
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