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第六章 「血と技」(63)
狭いバスタブに、茅を抱えるようにして一緒に浸かりながら、荒野は茅から今朝の一件を詳しく聞いた。朝のランニングの時に小耳に挟んだ香也をめぐるいざこざの詳細を。
早朝、寝汗を流すために香也が朝湯に浸かっていた。その現場に、テンとガク、それに羽生譲の三人が、突如乱入していって、例によってあれこれあったらしい……。
「…………彼も、災難だよなあ……」
思わず、荒野は呟いてしまう。
どう考えても、女難の相がでてる。荒野は無宗教だったが、香也に前世があるとするのなら、絶対に女性を虐待していたヤツだったに違いない……などと、思ってしまう。
なにしろ、あの家の男女比率は女性の方に大きく傾いている。しかも、その女性のほとんどが、香也に気があるらしい……という、非現実的この上ない現実がある。この分では、荒野が知らないところでまだまだいろいろな目にあっている可能性もある。
夢想や絵空事ならともかく……現実に、自分自身の身に降りかかってくるとなると……天国のような地獄、というか、地獄のような天国、というか……とにかく、いたたまれない。
しかも、全員と同居しているのだから、プレッシャーもひとしお、大きい筈だが……。
香也は、あの通り、飄々として、ペースを崩さない。
せいぜい、軽い風邪を引く程度だ。
そう考えると……。
「意外と……大物なのかな……」
と、荒野は、ぽつりと声に出した。
「絵描きが?」
荒野の胸に頭を預けた茅が、下から荒野を見上げながら、いう。
「……うん。よく、平気だなあ、と……板挟みもいいところだろ、彼……」
「絵描き……そこまで他人の気持ちを想像できるほど、成熟してないの……」
「いうなぁ、茅も……」
荒野は、頭を掻いて、天井を見上げた。
「でも……そんなもんなのかなぁ?」
心理戦や戦いの駆け引きに関してはそれなりの経験はあるが、こと、男女のこととなると……荒野だって、香也とどっこいどっこいだ。いや、荒野や香也の年頃で、異性関係の経験豊富なエキスパート、というのがいたとしたら、それはそれでイヤなヤツなのかも知れないが……。
「それをいったら、茅だって……他人のことは……」
「以前は知らなかったけど、憶えてきたの」
茅は、荒野を見上げながら、ふ、と薄く笑った。
「ここには……サンプルがいっぱいなの……」
「……なるほどねぇ……」
荒野は、こちらに来てからの知り合いの顔を一通り思い浮かべる。
特に、公然と回数を競い合う二組のバカップルとか、どこまで本気でいっているのか判然としないが、生徒相手に誘惑してくる三島百合香とか……。
「確かに、サンプルはいっぱいだ。
おれとしては、茅にはあんまり参考にしてない欲しくないけど……。
人間、慎みを忘れたら、お終いだぞ……」
荒野が真面目な顔をしてそういうと、茅は、ぷっ、と吹き出した。
「……茅は、大丈夫なの。
荒野と二人きりの時しか、こういうこと、しないの……」
「……あのなぁ……」
荒野は、茅の首に腕を廻して、抱きしめた。
「今日、みんなの前で、こうやったの、誰だ?
らぶらぶだって、触れ回ったのは?」
非難する口調ではなく、笑いを含んでいた。
「あそこにいた人たちは、いいの。
あの場にいたのは、茅たちのこと、知っていて欲しい人たちだけだったから……」
茅も、くすぐったさそうに身を捩りながら、そう答える。
なんか……茅は、少しづつ、感情を表に出すようになっているな……と、荒野は思った。人目がある時はまだまだ硬いけど、荒野しかその場にいない時は、よく表情を変えるようになってきている。
もう少しすれば……学校や町中でも、今、ここでそうしているように、素直に笑ったりする、普通の女の子になるのだろう……と、荒野は、そう思った。
茅の情緒面に関しては……もはや、成長による解決は、時間の問題だ……と。
「なあ、茅……」
荒野は、抱きすくめた茅の耳元に口を寄せて、囁く。
そして、
「今日、シルヴィが、うちに来て……」
と、シルヴィ・姉崎に持ちかけられた取引について、一通り、茅に話してみた。今日は、事件らしい事件が起きていない割には、一族関係の交渉で細かい進展がいくつかあった一日だったが、その中でも真っ先に茅の耳に入れておきたい案件が、これだった。
最初に、やりとりの概要だけを茅に伝え、それから、「おれは応じるつもりはないって断ったけど、シルヴィが茅の意見も聞きたいといったので」と、前置きした上で、「茅も、そういうの、イヤだろう?」と聞いた。
茅は、
「……むぅ」
と、呻って考え込んだ。
「……お、おい、茅……なに、考え込む事、あるんだよ……」
荒野としては、当然、茅も荒野と同じ判断を下すものと思っていた。
ので……焦る。
「でも……荒野がここから離れられない今……姉の情報網は、魅力なの……」
茅は、やけに冷静な判断を下す。
「それに、荒野がシルヴィのことらぶらぶでえっちするのは、茅もすごく厭だけど……。
荒野、シルヴィに、らぶらぶ?」
荒野は、ぶんぶんと首を横に振る。
「シルヴィは好きだけど……その、家族みたいなもんだから……。
らぶらぶとか、そういう感情とは、違う……」
……第一、子供の頃にさんざんいじられ、いぢめられた相手でもある。荒野にとっては、「異性」というより、「苦手意識」の方が先に来る。
「なら……茅は、気にしないの……」
茅は、曇りのない瞳で、荒野を見上げる。
「シルヴィがいうとおり、デメリットはほとんどないけど、メリットがある取引だし……それに、ことは、荒野と茅の二人だけの問題ではない……。
感情論だけで判断するのは……収集できるはずの情報を収集しないのは……最悪、楓や、他のみんなを危険にさらす可能性もあるの……」
「……あ。ああ……」
荒野は、ぼんやりと頷く。
「そうだな……こんだけ、訳わからない状況だと……どんな伝手でも掴んでおいた方が、いいよな……」
荒野は……茅に、叱責されているような気分になった。
いわれてみれば……これから、荒野の判断は、多くの人の……安全、に影響する。だとすれば……。
『……私情に流されるのは、駄目か……』
とか思っている荒野に、茅は、いった。
「……その代わり、シルヴィとえっちした日は、その三倍、茅とえっちするの……」
「……せめて、二倍にしてくれ……」
[
つづき]
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