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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(64)

第六章 「血と技」(64)

「夕べは、三回」
「いちいち、回数を指摘しなくていい……」
 荒野とガクの、毎度おなじみの朝の挨拶だった。今朝は、雲一つ無く、抜けるような青空が広がっていたが、大気は乾燥していて、肌に突き刺さるように、冷たかった。
 荒野、茅、テンとガクの四人は、ストレッチをいつもより入念に行ってから、土手の方に走り出した。
「そういや……ガク、傷の具合、どうだ?」
「浅いのはだいたい、塞がってきた。でも、深く切れている箇所もあるから、そっちの方は、もう少しかかる。傷口が盛り上がってきたところなんか、古い細胞がぼろぼろ表面に剥がれてきて、痒くてしょうがない。
 今日、お医者さんのところにいって、見て貰う予定」
「痒くても、掻くなよ。
 昨日の、楓とのアレはどうだった」
 町中を併走しながら「術が、技が、修練が」などの単語を使うのが何となく恥ずかしかったので、荒野は「アレ」といういい方をする。
「本格的に習うのは、傷がすっかり塞がって、激しい運動が出来るようになってからだけど……」
 ガクは、ため息混じりに呟いた。
「……まずは、手裏剣が真っ直ぐ飛ぶようになるように、練習する」
「……飛ばないのか、お前」
 荒野は、まじまじとガクの顔をみた。
「基本中の基本、だぞ」
「だって……やったこと、無かったんだもん……」
 ガクは、珍しくしょぼーんと肩を落とした。
 ……あまり深く追求しないようにしよう……と、荒野は思った。
「……ねえねえ、かのうこうや!」
 テンが、荒野の服をちょんちょんと引っ張る。
「ボクは! ボクにはなにか、聞くことないの!」
「テンは……しっかりしているからなあ……」
 荒野は、あやうく「ガクとは違って」といいそうになり、慌ててその言葉を呑み込む。
「徳川の手伝いとか、昨日いってた茅の手伝いとか、適当に忙しくやっているっんだろ、どうせ。
 ま、なにか問題があったら、その都度、連絡してくれ……」
 荒野がそういうと、テンが、珍しく不満そうな顔をする。テンはテンで、荒野に心配されていないのが、不満らしい……。
 難しいものだな……と、荒野は思う。
 荒野とて、他人に指示を出す立場にたつのは、これがはじめてのことであり……万事そつなく、というわけにもいかないのだった。
「……それより、茅……。
 本当に、楓に習うつもりか?」
 荒野は、話題を反らすために、茅に話しかける。
「習うの……」
 茅は、頷く。
「無理はしないし、怪我や体に負担をかけすぎないように、気をつける。
 それが、今後予測される状況下で、一番、合理的な対処法なの……」
 今度は、荒野がため息をついた。
「まあ……ほどほどにな……」
 その件については、昨夜のうちに、茅自身から聞かされていた。楓は「荒野が許可してくれれば」という条件付きで、茅に体術を教えてくれる……と、約束してくれたらしい。
 楓自身が判断していいのかどうか、分からなかったので、荒野に振ってきた……というところだろう。
 そして、荒野にしてみれば……本心はどうあれ、茅が自発的に「やる」といったことを、確たる根拠もなしに止めさせることも出来ないのであった。
 茅のいう「側に誰もいないとき、自分の身を守れるように」という理由も分からなくもないのだが……生半可な護身術を身に付けてしまったおかけで、かえって慢心し、逃げ際を誤って負傷する……という例は、意外に多い。
『後で……楓には……茅がすぐに根を上げるくらい、厳しい修練を課すよう、申しつけておこう……』
 結局、その件に関しては、荒野はそう結論した。
 茅が、楓のしごきに耐えきれなくなって、逃げ出す……という形が、一番妥当な結末に思える。

 ガクは本格的な運動を禁じられていたので、茅と一緒に走り込みをやっている。茅がやっている程度の運動なら、ガクにとっては、「激しい運動」の範疇に入らない。
 そこで、テンの組み手の相手は、荒野が努めることになる。
 荒野は、ガクから借りた六節棍を構えて、テンと対峙していた。
「お前ら、さ……」
 荒野はそういって、棍の関節を全て外し、手首を飜す。
「これ……折りたたみの棒としか、使ってないだろ?」
 荒野の六節棍が、生き物のようにうねって、テンの手元に飛びつく。
 テンは、冷静に荒野の棍の先端を払う。
 反対側から、今度はテンの頭部に向かって、荒野の棍が向かってくる。
 テンが、数メートル後退して、それを避ける。
 荒野は、関節部を全て外して頭上に掲げ、長く伸ばした六節棍の中央を高速で回転させていた。荒野の頭上に、円盤状の残像が出現している。
 荒野が、消えた。
 いや。急激に動いたので、瞬時にテンの視界から、消えた。
「動きが、単調」
 不意に、すぐ後ろから荒野の声が聞こえたので、テンは総毛立てて振り返る。
 テンのすぐ目の前に、棍が迫っていた。
 背を反らして、棍をやり過ごす。
 と。今度は、足元を払われる。
「注意力、散漫」
 足元を払われ、横向きになったテンの体を、荒野は腿で受け止め、一拍の間をおいて、今度は、足の力で真上に放る。
 テンの体が、高々と、空中に舞い……。
「ま……まだまだ、ってこったな……」
 落下止まると、テンは、荒野に襟首を掴まれた状態で、猫の子のようにぶら下げられていた。
 目線が、荒野と同じ高さで……テンの足は、地に着いていない。
「武器に頼り過ぎるな。目だけでなく、肌で、全身で、三百六十度を感じろ。動きをもっと柔らかく。相手に次の手を読ませるな」
 一息にそういってから、荒野は、テンの体を地面の上に降ろす。
「なんなら、お前も、ガクや茅と一緒に、楓に体術を習っておけ……」
 テンは……反論、できなかった。

[つづき]
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