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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(65)

第六章 「血と技」(65)

 登校の準備を終え、いつものようにマンション前に集合する。その日は、荒野と茅が一番最後だった。
 荒野は、早速楓の方に向かって歩いて行き、「テンも一緒に、体術をしこんでくれ」と頼もうとし、そこで楓がひどく憔悴していることに気づいた。
「……なんだ、楓……目の下に、クマができているぞ……」
「あは。あははははっ……」
 楓は、笑ってごまかそうとした。返答しにくいことを聞かれた時の、楓の癖だ……ということが、この時点では、さすがに荒野も気づいていた。
 そこで荒野はさりげなく、あたりを見渡す。
 孫子と香也……つまり、隣家の住人だけが、楓と同様に、目の下にクマを作っていた。
「……家の中で、あれからなんかあったか……」
 何事か察した荒野は、声を潜めて楓に尋ねる。
 楓は、蒼白な顔をして、小さく頷いた。
 ……お隣の、家庭の事情……となると、十中八九、香也をめぐるドタバタだ……とは思うが……。
「この場では、なんだから……昼休み当たり、じっくり話を聞く。場所は、後でメールで……」
 荒野がそういうと、楓は小さく頷いた。楓が頷いたのを確認して、荒野は楓から離れる。
 登校中、ペースメーカーである飯島舞花が、「来週のバレンタインが」どうのこうの、と、話題を振って来て、女性陣はそれなりに盛り上がっていた。
 商店街に差しかかった所で、玉木珠美が合流してくる。茅が、鞄の中から紙の束を取り出しながら、玉木の方にかけよって、早速、自主勉強会のことについて、説明しようとした。茅が鞄から取り出したのは、昨夜、テンと一緒に作っていた資料の、プリントアウトだった。
「……あー。
 そういうの、いきなり見せられて、説明されても……」
 玉木は、苦笑いを浮かべながら、茅に断りをいれた。
「放課後、使える場所は、責任をもって確保するから……後は、ソフトの整備の方は、そちらに一任します……」
 玉木は茅にそういって、頭を下げる。
「……このカリキュラム……サーバにもアップしているから、学校外からでも、学校のパソコン室からでも、アクセスできるの……」
 玉木にやんわりと断られた茅は、一緒に登校している生徒たちに、説明しはじめる。
「……時間がなかったから、まだ、一年生と二年生の、ごく一部分しか、整理できなかったけど……じきに、全学年、全教科を網羅するつもりなの……。
 会員登録をしてログインすれば、いつでも簡単なテストを受けて、学習した内容をどこまで把握しているのか、分かるし……それに、成績の推移も、記録されるの……」
「……いたれりつくせり、だな……」
 飯島舞花が、つぶやく。半ば、呆れた口調だ。
「それ……完成すれば、どっかの塾とかに、売り込めるんじゃないの?」
「売れるかもしれないけど……売らないの」
 茅は、ゆっくりと首を振った。
「教科書の記述をそのまま使っている所が多いから、営利目的にすると、問題が出てくると思うの……。
 それよりも、無償公開して、みんなに使ってもらうほうが、長い目でみるとメリットになるの……」
「……それ、ある程度できたら、先生方に内容を確認してもらって、監修してもらった方がいいな……。
 いや、早いうちから、『こういうの作っているんですが……』って、相談する形で、見てもらった方が、いい……。
 先生方も、面子ってものがあるから……茅ちゃんたち、生徒がやったものを、後で認める……というより、最初から、初期の段階から、作るのに噛んでいた……という形にした方が、スムースにいく」
 玉木も、茅の言葉に頷き、そういって協力してくれそうな先生、それに、協力はしてくれないだろうが、声はかけて顔をたてておいた方がいい……という先生の名前を、何人か、上げてくれた。
「……分かったの」
 茅は、素直に頷き、玉木の上げた先生の名前を反復してみせる。
「ま……そうやって、茅が頻繁に、職員室に出入りするようになった方が、こちらも都合がいいしな……」
 荒野も、そういって頷いた。
 今後……教員たちの、茅への心象がよい方が……荒野たちの立場が、有利になる……という、局面も、ありうるわけで……。
「ネットにアップした、って……それ、どこのサーバに、アップしましたの?」
 今度は孫子が、茅に尋ねる。
「徳川の。性能とバックボーンは折り紙付きだし、メールで頼んだら、快諾してくれたの」
 ……そんなところでしょうねぇ……と、孫子は納得した。
「……随分と、楽しそうな話をしているじゃない……」
 不意に、荒野の肩を叩いてきた者がいた。
 振り返ると、佐久間沙織が立っていた。
「……それのデータ、学校のパソコンからでも更新できるの?
 わたし、もう受験の心配をしなくていいから、手伝おうか?」
 沙織は、気軽にそんなことを言ってくれる。
「……学校からでも、自宅からでも、管理パスさえあれば大丈夫なの……」
 茅が、沙織に微笑む。
「先輩が手伝ってくれると、作業スピードが、倍増するの……」
 佐久間の体質を受け継いでいる沙織は、完璧な記憶力を持ち、実際に受験を経験して来たばかり。加えて、元やり手の生徒会長で、教員の覚えもめでたい……。
 これから、自主勉強会、を推進するには、これ以上はない、というぐらいに、うってつけの援軍だった。
「それにしても……。
 ……まさか、荒野君が、カミングアウトするとは思わなかったなぁ……それも、こんなに早く……」
 その佐久間沙織は、そういってため息をつく。
「わたし、もう卒業だから……もう一年、それが駄目なら半年はやく、荒野君たちがここに来てたら……わたしの学校生活も、もっと充実してたのに……」
 沙織は、そうぼやいた。
「でも、ま……。
 荒野君も、来年、三年でしょ? 進学は、するの? するんだったら、みんなを引き連れて、うちの学校にいらっしゃい。
 歓迎するし……その次の年は、茅ちゃんたちもいるでしょ?
 みんな揃ったら……楽しいことに、なるわよ……」
 ……沙織の進学先は、県内でも有数の難関校なのだが……沙織は気軽な口調でそういって、荒野たちを誘う。
「その件については……微力を尽くし、前向きに善処します」
 荒野は、わざと畏まった態度で、そう答える。
「……と、いうことで……大樹、お前も付き合え……」
 荒野は、昨夜の明日樹との約束を思い出し、ヘッドロックをする形で、すばやく大樹の首をホールドする。
「玉木、とりあえず、今日の放課後は、どこの教室を押さえたんだ?」
「……ああ、それなんだけど……」
 いつもはきはきする玉木には珍しく、言葉を濁す。
「まずは、勉強会の前に、大掃除、だな……。
 空き教室を使っていい、っていうことにはなったんだけど……そこ、長年倉庫代わりになっている所で、備品目一杯つまっているし、埃だらけだし……。
 片付けとか掃除とか、何人か人手があっても、使えるようにすうるまで、丸一日はかかるんじゃないかと……」

[つづき]
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