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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(67)

第六章 「血と技」(67)

 放課後になると、昼休みと同様、荒野は、パソコン実習室に向かう。
 そこでは現在、ボランティア活動に必要なシステムと、自主勉強会に使用する教材の打ち込みと整理が行われていて、荒野の知り合いの多くも顔を出すようになっている。作業の中心になっているのは、やはり堺雅史らを中心としたパソコン部の生徒たちで、放送部員たちに頼りにされることが多いせいか、この数日でめっきり表情に自信が見えるようになってきた。
 それ以外には、今日の昼休みから、佐久間沙織と茅が中心になって勉強会の資料整理を行うようになっている。これも、量が多いから、一応の完了を見るまでに数日の時間を要することだろう。

 荒野がパソコン実習室に入ると、予想通り、二つの島に別れて人が集まっている状態になっていた。
 先週から引き続き、ボランティア活動に必要なシステムを整備しているパソコン部員たちが集まっている箇所と、茅や佐久間沙織が中心になって、教科書や参考書、プリントなどをどこかから持ち込んだスキャナーで取り込んでいる人々と。後者には、すでに受験を終えた生徒に佐久間沙織が声をかけたのか、三年生の生徒が多かった。
 茅は、そうした、受験を終えたばかりの生徒と互角以上になにやかやと議論しながら、保存すべきデータを選択している。楓は、パソコン部の島と勉強会準備の島を、忙しくいったりしたりしている。パソコン部の島の方から、楓だけでは飽き足りず、茅まで呼び出されることもあり、そんな時は、茅も気軽に応じて足を運び、ひとしきり解説らしきことをしゃべりながらカタカタと忙しなくキーボードを叩いて当座の問題を解決し、また、元の沙織の隣の席に戻って、例のキーボード二刀流に戻るのだ。
 近寄ってよく見てみると、茅と沙織は、英語と数学、とか、地理と古典、とか、全く別個の教科についての作業を左右同時に進めていて、周囲にいる生徒たちも、もう慣れてしまったのか、茅や沙織が行っている人間離れした作業に注意を払っている者は、いないようだった。
 というか、今、パソコン実習室にいる生徒たちはそれぞれに自分で処理すべき仕事を抱えており、茅や沙織に注意を向ける余裕がある者は、いなかった……と、いうべきなのかもしれない。

 しばらくその様子をぼーっと眺めていると、荒野から少し遅れて孫子が実習室に入ってきた。孫子は今週の掃除当番に当たっていたので、それだけ遅れたのだろう。
「……よう……」
 孫子とは同じクラスで、当然、一日顔を会わせていたわけだが、放課後になって顔を合わせるのは初めてなので、荒野は一応声をかける。
「今日は、徳川の所にいかないのか?」
「……彼には、彼の仕事がありますの。
 通常の仕事とか、それに、わたくしが昨日渡した事業計画書に目を通して、検討するという作業とか……」
 孫子は、そう答える。
「でも……才賀は、プログラムとか、できないだろ?
 勉強のほうは出来そうだけど……これだけ、三年生が出ばってきているとなあ……あんま、出番はないんじゃあ……」
 そういう荒野も、顔を出してみたのはいいが、ここでやるべき事をあまり見いだせないでいる。
「……あ、いたいた。
 加納君、才賀さん……それから、ここにいる人で、手が空いている人!
 良かったらちょっと、こっちを手伝ってくれませんか?」
 荒野と孫子がそんなやりとりをしている所に、有働勇作が入ってきた。
「それから、堺君。
 例のシステム使って、登録者の中から希望者募ってください。
 仕事は、自主勉強会の会場として使用する空き教室の整理と掃除。汚れてもいい服装で来ること。日時は、今から、二階の北側の空き教室で。
 校内の登録者全員にメールすれば……」
「……はい。ぽちっとな、と。
 同報メール、送りました。
 サーバレスポンスの関係で、多少前後することもありますが、この学校関係のと登録者に、同じメールが届いている筈です」
 パソコン部の島に埋没していた斉藤遙が、片手を上げて有働に答える。
 それとほぼ同時に、実習室内にいた生徒の携帯が、ほぼ一斉に鳴ったり振動したりして、メールの着信を告げた。
 荒野が自分の携帯を確認すると、確かに有働がしゃべった通りの内容のメールが、着信している。
『……なるほど……』
 荒野はこの時初めて、パソコン部が制作しているシステムの利便性を実感した。

 一旦自分の教室に戻り、学校指定のジャージに着替えてから、「二階の北側の空き教室」とやらに向かう。いってみれば、なんのことはない。
 この学校に転入してきた初日、自分で使う分の机や椅子を取りに行った、倉庫代わりにされている空き教室だった。
「……何年か前までは、この学校も、もっと生徒数が多かったそうですが……」
 同じように学校指定のジャージに着替えて来た有働勇作は、そう説明してくれた。
 ここ数年は、一学年の生徒数が減少傾向にあり、校内の設備はキャパシティを余している状態だ、という。おかげで、先生方に話しを通しさえすれば、こうして空いている教室を生徒が使用できるわけだが……。
「……まずは、中に積み上げられている机や椅子を、教室の外に出そう……」
 荒野は、有働にとりあえず、そういった。
「そう……ですね。
 とりあえず、廊下に出して、その後、教室内を綺麗に掃除してから、使う分だけ中に戻しましょう……」
 有働も、荒野の言葉に頷く。
 先に到着した荒野と有働が机や椅子を出している間に、着替え終わった孫子、それにメールに応じて散発的に男女の生徒が集まってくる。
 男子は椅子や机の持ち運びなどの力仕事、女子は廊下に出した備品の水拭きや、備品を運び出して空いた箇所の掃き掃除やワックス掛け、という分担になった。
 その教室から出した備品は、なるべく状態のいい五十組の机と椅子を残して、残りは、少し離れた場所にある、同じような空き教室へと運び込まねばならず、この移動も男子の仕事になった。自然と、男子の仕事の采配は有働が、女子の仕事を手分けするのは孫子が行っていた。
 拭き掃除や掃き掃除を担当した女子も、何年も放置されていた備品であり教室だったので、当然のように埃まみれであり、何度も雑巾をゆすぐバケツを取り替えねばならなかった。一年でもっとも寒いこの季節に長時間、水仕事を行うのはけっして楽ではなかった筈だが、特に愚痴や苦情をいう生徒はいなかった。
 駆けつけてきた生徒たちの中には、昨日の放課後と今朝の校門前で荒野にまとわりついてきた女生徒の一群も含まれていて、彼女たちも意外に機敏に動き、率先して他の人の負担を減らしてくれていた。

[つづき]
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