第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(153)
その夜も、楓と孫子は、夕食後一時間ほど、香也の勉強をみた。香也と同じ学年である楓は、自分自身の勉強も兼ねている。孫子は、茅と一緒に下校する都合で、毎日のように遅くまで学校に残っている楓とは違い、真っ直ぐに帰宅して自分の勉強をする時間を確保しているようだった。楓や孫子の頭がいくら良くても、学習していないことを身に付けるわけにはいかない。
種をまかなければ身はならない。無から有は産まれない。個人的な資質の善し悪しによらず、知識を技能を身に付けるには、やはりそれなりに時間や労力などのリソースを消費しなければならないのであった。
楓にしろ孫子にしろ、基本的な性格として、努力家としての資質を有しており、それなりの成績を維持している。だから、香也の勉強をみるくらいの余裕はある……の、だが……。
今夜は、以前とは少し、様子が違っていた。
羽生譲が異変に気づいたのは、洗い物を済ませて台所から戻ってきた時で、楓と孫子に挟まれた香也は、何故か額に脂汗を流していた。
不審に思ってよくよく見ると、楓と孫子は、必要以上に香也にべったりとくっついて、両側からのし掛かっている。
体がぴったりと密着しているのは勿論、何気に香也の体を必要以上にべたべたと撫で回しているし、何か言うときは香也の耳元に息を吹きかけるような至近距離で、囁く。
年頃の男の子として……これは、たまらないだろうなぁ……と、羽生は想像する。
そこで、羽生はわざとらしく、大きな咳払いをした。
「……あー。
お二人さん、土曜日にいろいろあった、というのは聞いたけど……香也君、困って固まっているから、逆セクハラもほどほどに……」
あんまり強くいうと、また昨夜のドタバタ騒ぎの再開である。
……ので、羽生は、比較的のんびりとした口調で、楓と孫子を諭した。
「……第一、君たち……また、三人でやるのか?
あれが癖になっちゃったのか?
そーゆーことは、こーちゃんと二人きりで、しっぽりとやるように……」
羽生が冗談めかしてそういうと、楓と孫子は顔を真っ赤にして香也から体を離した。
まだ、羞恥心は捨てていないらしい……と、羽生は判断する。
テンとガクが、風呂に入りにいっていなければ、二人も、これほどあかるさまに密着したりしなかったかも知れない。
『……三人だけになると……』
羽生は、楓と孫子の態度を、分析する。
『……香也への欲求と、それに、お互いへの競争心から……どんどん大胆な行動をとってしまうんだな……』
と。
楓にしろ、孫子にしろ……それぞれ、単独で香也と二人きりになったら、割合「二人きりでいる」という状況だけで満足してしまって、それ以上にそんな激しい迫り方は、しないのではないだろうか?
だが、楓、孫子、香也が三人だけ、になってしまうと……楓は孫子に、孫子は楓に、香也をとられたくない、という感情が先にたってしまい、どんどん、過激なアプローチを行うようになる……。
通常の、香也と同年配の男子なら、ほぼヤルことしか考えていない年頃だから、出来れば身代わりになりたい、と思う者がほとんどだろう。
しかし、こと、香也の立場になって考えると……。
『……こーちゃんにとっては、ひどく迷惑な話だよな……』
香也と付き合いが長い羽生は、香也の臆病な部分を、本能的に悟っている。
香也自身が、ことあるごとに「ぼくには、そういうのはまだ早いと思う」といっているように……香也が異性とその手の関係に陥るには、羽生の目から見ても、いまだ時期尚早に思えた。
『……ま、結局、決断するのは、こーちゃん自身なんだけどさぁ……』
羽生としては、香也が決断する気になるまで、香也ができるだけ自由に判断できる余地を残しておきたいところで……。
羽生は、煙草に火をつけ、
「……わたしがどうこういう問題じゃないのかも知れないけどな……」
と前置きしてから、
「楓ちゃん。と、それから、ソンシちゃん。
あのな、君たち、こーちゃんとどうなりたいの? こーちゃんとただやりまくれればそれでいいの?
それだったら、今からでもゆっくり馴らしていけばな、毎晩交代でこーちゃんにご奉仕しますハーレムエンドぉ! みたいな結末もありえるかも知れないけどな……。
でも、今の状態でそれやっちゃうと、こーちゃん、自分では何も出来ない腑抜け野郎になっちゃうぞ……」
羽生は、ずばり、と切り出した。
「……こーちゃんだって男の子だからな、年頃の。体の誘惑には、それなりに弱かろう。
でもな、ドサグサ紛れに、そういうの性欲を解消しあう関係が常態になったとして、だ。
君たちは、それで満足できるのかいな?
急いで無理に体だけ繋がっても……こーちゃん、君たちのこと、ちゃんと見てくれるとは限らないよ……。
……あー……。
色と恋とは、結構、別物だから……特に、男性にとっては……」
羽生とて、自分の経験からそういっているわけではないのだが……友人知人が多い羽生は、異性関係のあれこれを見聞する機会も多かったので、その手のことに関しては、いわゆる耳年増だった。
「……えっちさえすれば、こーちゃんが振り向いてくれる、こーちゃんは自分のモノだわ! ……って幻想持たないで、あえて性欲解消用の肉奴隷になりたいってなら、止めやしないけどさ……」
これくらいキツイ表現を使って釘を刺しておかないと、真理が帰ってくるまでに落ち着かないだろう……と、羽生は思った。
案の定、香也から身を離した楓と孫子は、顔を赤くしたり青くしたりしながら、俯いたり目線を何もない空中に泳がせたり、と、すっかり挙動不審になっている。
「性欲はな、あるよ。わたしにも。若いんだから。
当事者同士の合意があるのなら、割り切ったセフレというのも、ありだとは思う。
でもな、それと恋愛とは、別腹だから。
楓ちゃんとソンシちゃんは、こーちゃんにとって、単なる都合のいい女、で終わってしまっていいのか。
それとも、それ以上に親密になりたくはないのか、って話しだな……」
羽生は、炬燵の天板をコツコツと指先で叩きながら、続けた。
「……自分の体を餌にしてはじめるような関係から、ちゃんとした恋愛に発展するのは……結構、大変だと思うぞ……」
羽生がそういうと、楓が傷ついた表情をした。
羽生には、ここで何故、楓がそんな表情をするのか、わからなかった。
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つづき]
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