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彼女はくノ一! 第五話 (154)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(154)

 楓や孫子に語りかけながら、羽生は羽生で、
『……処女にこんなこといわせるなよぉ……』
 などと、思っている。
 立場上、しかたなく諭してはいるが……まったく、こういうのは、自分の柄ではないのだ……と、羽生は思った。
 無性に、照れくさかった。
 そこで、いいたいことだけいうと、そそくさと席を立ち、自分の部屋に待避する。
 残された三人は、もはや勉強、とかいう雰囲気でもなく、誰からともなく、「今夜は中断」という事になり、香也はノートや教科書などを片付けてから、プレハブに向かった。
 孫子は自分の部屋に、楓はかなり気まずい想いを抱えながらも、羽生の部屋に向かった。

「……あのぉ……」
 楓は、羽生の部屋の前で声をかける。廊下とは、襖で仕切ってあるだけなので、ノックをするのには不適切な環境だった。
「羽生さん……。
 ちょっと、パソコン使わせて貰って、いいですか?」
 ついさっき、あんなことをいわれたばかりだから、こうして羽生の部屋を訪ねるのは、楓にしてみても気詰まりなものだが……一日一度はネットに接続し泣ければならない事情を、楓は抱えていた。
「……楓ちゃんか……」
 羽生は襖越しに、想像していたよりも穏やかな声で返事をする。
「いいよ。入りなよ。
 例の、ゲームのだろう……」
 羽生の返答を確認してから、楓は、「失礼します」と声をかけて襖を開け、部屋に入った。
「……はい。例のゲームの、です……」
 おずおずと答えながら、楓は慣れた手つきで羽生のデスクトップを立ち上げる。羽生は、楓から目を反らして、猛然と煙草を吹かしていた。
 パソコンが起動するまでの時間が、楓にとっては非常に長く感じた。
「……で、あれ……ゲームの方の進行は、どうなっているの?」
 羽生にとっても沈黙が重かったのか、楓にそう話しかけてくる。
「は、はい……。
 香也様のデザインがだいたい通って、今は、そのデザインを元にして、指定された構図で絵を描いている段階ですね……。
 もうかなりやりとりがあるので、意志の疎通はスムーズにいっていますし、着色は別の人がやってくれるというし、枚数も膨大になるので、こっちのペースで進めてくれていい、っていわれてます……」
 年末、堺雅史経由で香也が依頼されたゲームは、着々と形になっていっている。
 テキストの方と同時進行だから、まだまだ作業全体の終わりは見えてこないのだが……楓は、パソコン操作に苦手意識を持つ香也の代わりにネットに接続し、他のゲーム制作者と香也との仲介を行っていた。
「香也様も、描くのが早いですし……」
「自分の絵でなければ、こーちゃん、割り切って、小手先の技だけで、ちゃっちゃと進めちゃうからな……。
 わたしの同人誌の時も、そうだ。
 頼まれた絵の時は、こーちゃん、悩んだりとか、迷ったりとか、そういう躊躇いがない……」
 ようやく、マシンが起動し終える。羽生のパソコンは、マシンパワーはそれなりにあるはずなのだが、重い常駐ソフトを複数起動時に読み込むので、どうしても起動時間が長くなる。
 楓はブラウザを立ち上げ、直接アドレスを打ち込んで、フリーメールのページにアクセスする。メールチェックをしながら別のウィンドウを開き、今度はゲーム制作者のSNSページにログインし、ざっと内容を確認する。
 新規の絵の発注がいくつか、構図を指定しされており、それと、以前、アップした絵の修正も、何枚かあった。
 プリンタを立ち上げ、それらの絵をプリントアウトしながら、詳しい説明に目を通す。
 細かい指定は相変わらず多いが、特に入り組んだ注文もない。
 これなら、すぐにでも香也に口頭で伝えることが出来るな、と楓は思った。
 プリンタとパソコンの電源を切り、羽生に「ありがとうございました」と一礼して、プリントアウトした紙を持って、羽生の部屋を出ようとする。
「……楓ちゃん……」
 と、羽生が、楓のことを呼び止めた。
「わたしは……別に、どっちの味方ってわけでもないけどさ……。
 自分から迫っていくばかりじゃなくて、向こうにも惚れさせなけりゃ、駄目だぞ……」
 羽生は、照れくさそうな表情を浮かべながら、楓にはそういった。
「そう……ですね……」
 楓は、戸惑いつつもそう言い残し、襖を閉める。
 楓の足音が遠ざかっていくのを確認しながら、羽生は自分の頭を抱えて畳の上を、音をたてないように気をつけながら、転げ回った。
 ……なにをしているんだ、わたしは……とか、羽生は思っていた。

「……どういうことですの? 伯父様……」
 楓と羽生がそんなやりとりを行っている頃、孫子は、自分の部屋で実家へ電話している所だった。
『……前にもいっていたろ。そこでは、お前は平凡な一学生として、生活して貰う。故に、そんな学生らしからぬ金額を動かすことなど、ゆるさん』
 電話相手は、孫子の保護者でもある鋼蔵だった。
『……普通の学生が、ベンチャー企業にメール一つで十億単位の投資をするかぁ!』
「……ですから、そのへんの事情については、メールで詳しくお伝えした筈です。
 それに、添付した事業計画書にあるように、私情抜きにしても十分に投資に見合う将来性がある、と、判断したのですが……」
『だから……そんな判断をするのが、まるっきり学生らしくねーってーの!』
 冷静に反駁する孫子に、いきり立つ鋼蔵。
『そういうことは、大人になってからいくらでもやれ!
 というわけで、駄目っつーたら駄目なの!
 成人するでは、株もM&Aも禁止!
 少しは謙虚になってだな、フツーの女の子の幸せでも探してみろってーの……』
「……ですから、このままですと、そのフツーの女の子の幸せが、遠ざかっていくのです!」
 あくまで平行線の議論に、孫子の語気も荒くなる。
「これは……自衛のための、わたくしがここに居続けるための戦いなのです!」
『とにかく、だな。
 ……お前の個人名義の資産は、お前が成人するまで凍結する』
 鋼蔵は、冷徹な声で孫子に告げた。
『起業ごっこをやりたかったら……お前が、自分自身で、資金調達から行ってみるんだな……。
 親の遺産や才賀のバックアップは、一切期待するな……。
 もっとも……お前がかき集めた金で、うちの系列会社の者を雇用するのは、一向に構わんがな……』
 そういうと、鋼蔵は、通話を切った。それが、最後通牒、ということらしかった。
 才賀グループの中には、専門職に特化した人材派遣会社がいくつも存在する。ただし、多くの系列会社は、第一級の人材しか登録を認めていないので、実際に利用するとなるとかなりの資金が必要となる。
『……自分自身で、資金調達から……』
 鋼蔵に、一方的に通話を切られた孫子は、携帯電話を睨みながら、一人で闘志を燃やしていた。
『やって……やって、みせますわ……』
 孫子は、負けず嫌いだった。



[つづき]
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