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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(73)

第六章 「血と技」(73)

 ネットオークション以外に、金銭を得る手段としてでた案は、ソフトウェアの開発と販売など、どちらかというと地味なものが多かった。
 やはり「学生という身分からはみ出さない」、それに「襲撃者に備えて、いざという時にいつでも動ける体勢を作っておく」という二つの制約が、大きな枷として機能している。
『……それさえなければ……』
 荒野は、炬燵を囲んでいる面々の顔を見渡す。
『結構……なんでも出来そうなんだけどな……』

「……先生なんかはな、徳川君ところの開発力と才賀さんの資本が結び付いたら、ここいらにコングロマリットができてもおかしくないとかいってたけどな……」
「……似たようなことを、構想していたのですが……」
 羽生が、がっくりと気落ちした様子の孫子に、慰めるような声をかけていた。
「……才賀は、そういうの好きみたいだけどさ……」
 荒野も、孫子に言葉をかける。
「別に、盛大にやる必要も、ないわけで……。
 おれも、この人数でここいらへん一帯を警戒することは不可能なのわかるから、術者を傭うことを考えたんだけど……手持ちの金では全然足りないって気づいてね……」
 個々の戦闘能力を比較するならば……荒野も、この場にいる中で、一般人の羽生を除いた者たちは、かなり上等な部類にはいる……とは、思っている。
 しかし、「いつ、どこに現れるか予測のつかない敵に備える」ということになると……やはり、「質」よりも「量」の問題になってくるわけで……。
 荒野がそんなことを話しはじめると、その場にいたみんなは、それなりに真剣な顔をして聞いてくれる。
「……このまま、常時警戒体制をとるにせよ、逆に、敵の情報を入手して殴り込みかけるにせよ……。
 この人数では、実際の所、どうしようもない。身動きが取れないんだ。
 だから、それなりの術者を雇える資金があれば……確かに、安心出来るんだけど……現状、そんなもの、ないから……」
 そうしたの条件で、最善を尽くすしかかない……というのが、現時点での荒野の結論だった。
「第一、今からお金を稼いだとして……それを有効に活用出来る準備が整うまで……敵さんが待ってくれる、って保証は、あるのか?」
 荒野は、不測の事態に備え、その場その場で事態を収拾する……という発想に慣れている。ましてや、今回は、お金を稼がねば命に関わる、という緊急時でも、ない。
「今までそうしてきたように、普通に生活するだけなら……お金、稼ぐ必要ないでしょ?
 ……楓とか、テンたちとかは……将来の事もあるから、いつでも一族と絶縁出来るように、今のうちから生活基盤を整える準備をしておく……というのは、別に構わないと思うけど……。
 才賀、鋼蔵さんのいうとおり、そんな大掛かりな事業って、本当に必要なのか?
 そりゃ、お金はないよりはあった方が、いい。あったほうが、より安心出来る環境が構築できる。それは、確かなんだだけど……」
 荒野は、「手持ちの金では満足な人材は確保出来ない」と気づいた時、自分自身にそう言い聞かせていたわけだが……。
「……資本を投入出来なければ、その分を、工夫でカバーすればいい……と、先程、いいましたわね……」
 孫子は、荒野の話しをまるで聞いていなかった。
「……これでも、わたくし、企業経営については、それなりの教育を受けています。もちろん、無資格ではありますが……。
 人を傭う余裕がない現状で、わたくし自身が動くのは、理に適っておりますわ……」
 つい先程までの落ち込んだ雰囲気は、見事に払拭していた。
「……まず、徳川の経営状態をわたくしの目で細かくチェックし、合理化と利益率の向上を実現させる」
「……徳川には、世話になっているし、それくらいはやってもいいんじゃないか……」
『おれも……徳川の企業に、余分な金を投資するかな……』
 と、荒野はチラリと考えた。
 孫子と違い、株式相場の知識や経験を持たない荒野にしてみれば、徳川のような知り合いの企業に投資する方が、まだしも抵抗がない。少なくとも、まだまだ業績の向上の余地がある企業、では、ある。
「……次に、茅や楓、それにテンたちが開発するソフトの、企画営業も任せて貰いたいですわ……。
 その代わり、手数料は頂きますけど……」
「それに関しては……各自個別に口説いてくれ……」
「……茅は、条件次第なの……」
「ボクは、トクツーさんのお手伝いの方が優先。
 余裕がある時は、やってもいいけど……」
 これは、テン。
「ええと……お仕事の内容次第、ですね……」
 楓は、かなり考えてから、ようやくそういった。
『……おれが、反対するとでも思ったのかな?』
 荒野はそうは思ったが、結局、なにも言わなかった。
 荒野は……楓には、出来るだけ、多くの選択肢を持って貰いたい……と思っていた。
『この件が片付いたら……』
 一族から足抜けして、一般人として生活する……という選択肢も、当然、ありうるだろう。楓は、荒野ほどには一族の中に身を浸しているわけではないし……。
「ねねね。ボクはボクは!」
 ガクが、自分の鼻先を指さして、騒ぎはじめる。
「……あなたも、何かできますの?」
 孫子の表情から察するに……孫子は、ガクを「戦力外」としてみているらしかった。
「……これでも、テンやノリと同じことを習っているんだから……」
 ガクは、頬を膨らましながら、孫子に返答をする。
「……基本的な知識は、二人と同等だよ。
 コンピュータやプログラムについても、同じこと習っているし……」
「それは、本当」
 テンが、ガクの言葉が嘘ではないことを裏付ける。
「ノリもガクも……プログラムのコード、書けるけど……」
「書けるけど?」
 孫子が、片方の眉をピクンと上げて、テンの言葉の先を即す。
「ノリは、かなりきっちりとマニュアルどうりにきれいなコード書くんだけど……ガクのコードは、妙に入り組んでいて……後から読むと、ひどく読みずらいんだ……」
「それは……つまり、コードとして、洗練されていない、ということですの?」
 孫子が、重ねて尋ねかえす。孫子は、プログラムに関する知識はなかったから、テンの言葉の内容が、イマイチ理解出来ない。
「いや、洗練されているかどうかさえ、よく判断できないっていうか……。
 同じ機能を持つプログラムを、ボクとガク、ノリの三人で書いたとする。すると、ガクのコードの方が、ボクらのコードより断然長くてごちゃごちゃしているんだけど……できあがったものを実際に走らせてみると、ガクが作ったプログラムが、一番処理速度が速かったりするんだ……」
「……ええと、それって……」
 荒野は、横合いから口を挟む。
「……どうして? おれ、専門的なことは分からないけど……コードが長くなると、それだけ処理する命令が増えて、普通は、処理時間が長くなるんでは……」
「……だから、スキップしたりズルしたりする命令を入れると、コードは長くなっても処理時間は節約出来るの!
 何度説明しても、ノリもテンも理解出来ないんだもん!」
 ガクが、怒ったような声で、いう。
「……あんなこんがらがったコード、普通、追えないって……」
 テンが、呻くようにいった。
『……テンが、それいうか……』
 荒野は、絶句した。
 完璧な記憶力を持つテンが混乱するコード……とは、いったい、どういう面妖な代物なんだろうか?
「……つまり、ガクのプログラムは、信頼出来ない……ということですの?」
 孫子も、どういうことなのか理解出来なくて、混乱している。
「いや、逆に、信頼性抜群!
 ボクやノリはエラー出すけど……ガクのコードがエラー出したこと、一回もないし……。
 ガクのプログラムは、使用試験も必要ないんじゃないか、って、思うくらいで……」



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