第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(157)
その後は、「どうやってお金を稼ぐのか?」という具体的な方法論と、「そんなに必死になって稼ぐ必要があるのか?」という目的自体を問い直す議論とが、交互に行われた。
おおざっぱにいうと、孫子が「経済的な基盤をしっかりして、使える人材も拡充すべき」という論で、荒野が「ないものはない。とやかくいってもしかたがないから、手持ちのリソースを有効に使う方法を模索するべき」という意見。
いわば、孫子が長期的にみて、優位な位置を築こうとする戦略重視派で、荒野は、資金にしろ人的リソースにしろ、現状で利用出来る範囲内で、最大限の効果を出そうとする戦術重視派である。
『……どちらの言い分にも……』
一理は、あるのだが……と、楓は思う。
「……次に、茅や楓、それにテンたちが開発するソフトの、企画営業も任せて貰いたいですわ……。
その代わり、手数料は頂きますけど……」
そこで、おずおずと発言したのだが、話題はすぐに「現状で可能な事業計画の具体案」に移っており、楓は自分の意見をいう時期を逸した形になった。
孫子の発言を受けて、荒野が、
「それに関しては……各自個別に口説いてくれ……」
と「その件に関しては、感知せず」の態度を表明すると、
「……茅は、条件次第なの……」
「ボクは、トクツーさんのお手伝いの方が優先。
余裕がある時は、やってもいいけど……」
茅、テンが順番に、各自の方針を表明する。
楓もあわてて、
「ええと……お仕事の内容次第、ですね……」
と、言い添えた。
楓にしてみても、経済的な見地から、一族の援助を受けなくてもやって行けるだけの基盤を整備しておきたい、という気持ちは、ある。
「ねねね。ボクはボクは!」
「……あなたも、何かできますの?」
自分の鼻先を指さして騒ぎはじめたガクに、孫子が怪訝な表情をして応じた。
「……これでも、テンやノリと同じことを習っているんだから……」
ガクは、孫子の態度に不満そうな顔をして、返答をする。
「……基本的な知識は、二人と同等だよ。
コンピュータやプログラムについても、同じこと習っているし……」
「それは、本当。
ノリもガクも……プログラムのコード、書けるけど……」
テンが、首肯して、ガクの発言を裏付けた。
「書けるけど?」
孫子は、疑わしげな表情を隠そうともしなかった。
「ノリは、かなりきっちりとマニュアルどうりにきれいなコード書くんだけど……ガクのコードは、妙に入り組んでいて……後から読むと、ひどく読みずらいんだ……」
「それは……つまり、コードとして、洗練されていない、ということですの?」
「いや、洗練されているかどうかさえ、よく判断できないっていうか……。
同じ機能を持つプログラムを、ボクとガク、ノリの三人で書いたとする。すると、ガクのコードの方が、ボクらのコードより断然長くてごちゃごちゃしているんだけど……できあがったものを実際に走らせてみると、ガクが作ったプログラムが、一番処理速度が速かったりするんだ……」
……なんだ、それは……と、楓は思った。
「……ええと、それって……。
……どうして? おれ、専門的なことは分からないけど……コードが長くなると、それだけ処理する命令が増えて、普通は、処理時間が長くなるんでは……」
荒野も楓と同じことを考えたのか、戸惑った表情で、そう聞き返す。
「……だから、スキップしたりズルしたりする命令を入れると、コードは長くなっても処理時間は節約出来るの!
何度説明しても、ノリもテンも理解出来ないんだもん!」
ガクが、少し大きな声を出すと、
「……あんなこんがらがったコード、普通、追えないって……」
テンが、呻くように嘆いた。
「……つまり、ガクのプログラムは、信頼出来ない……ということですの?」
荒野と同様、技術的な知識はあまり持たない孫子も、どういうことなのかよく理解出来ない、という表情を浮かべている。
「いや、逆に、信頼性抜群!
ボクやノリはエラー出すけど……ガクのコードがエラー出したこと、一回もないし……。
ガクのプログラムは、使用試験も必要ないんじゃないか、って、思うくらいで……」
そう答えたテンは、何故かムキになっているように思えた。
『……悔しがっている?』
楓には、いつもは冷静なテンが、「らしく、もなく」感情的になっているように見えた。
がぜん、ガクがどのようなコードの書き方をするのか、興味が涌いてくる。
「……あの……」
楓は、おずおずと片手をあげた。
「ガクちゃんのコード、どこかに保存してませんか?
できれば、一度みてみたいんですけど……」
「そうだな……。
楓や茅、徳川あたりに見てもらって、判断した方がいいかも知れない……」
楓の発言に、荒野も頷く。
「……今、ここにはないけど……。
ちょっと時間くれたら、書いちゃうけど……」
ガクは、ことなげにそう答えた。
「……ちょっと待って、パソコン持ってくる……」
テンが、立ち上がって、居間から出て行った。
「……わたくしのパソコンでは、駄目ですの?」
孫子が、ぽつりと呟く。
「まるっきり、駄目ではないけど……」
ガクは、炬燵の中に両腕を突っ込み、背を丸めた姿勢でうっそりと答えた。
「ボクのコードは、マシンには優しくないから……半端なスペックだと、正直厳しい……」
「……つまり……マシンの処理能力を、とことん使い尽くす、ということですか?」
楓は、ガクに尋ねた。
「……それもあるけど……。簡単な処理なら別にいいんだけどさ、ある程度以上、複雑な処理を行い、なおかつ、マシンに十分なスペックがある時には、その都度、仮想OS作ってその中で処理させちゃうし……」
……楓は、ますますガクのコードが知りたくなった。
テンが、徳川から預けられたごついノートパソコンを持って帰ってきた。
「……テン、今、どんなプログラムが欲しい?」
目の前にノートパソコンを置かれたガクは、それを開いて立ち上げながら、テンに尋ねる。
「監視カメラの認識システム、かな。
駐車違反の車とそうでない車を識別して、前者の場合、警告を発するとともに、メモリーに映像を残す。後者の場合、映像の記憶は除去する」
この間、玉木と徳川が、そんなシステムのことを話していたような気がする。そうか、実際に開発していたのか、と、楓は思った。
「……条件付けが曖昧だね。
同じ認識システムってことで、この間、茅さんが描いたっていう似顔絵があるって話ででしょ?
それと似たような顔つきの人がカメラに移ったら、指定されたメールアドレスに通知出す、ってプログラムは、どう?」
「……できるのか?」
荒野が、真剣な顔になっていた。
「指紋の認証システムも実用化されているんだから、顔を識別することくらいは、できるよ」
ガクは、特に力んだ様子もなく、さらりと答える。
そんな会話をしている間にも、ガクは、DOSモードでパソコンを立ち上げ、猛然とタイプしはじめる。
……GUIさえ切り離し、テキストベースで直にマシンの性能を引き出すつもりらしい……。
なるほど、ガクの方法は、「マシンにはやさしくない」と、楓は納得した。
「かなり曖昧な判断が必要になるんだけど、そういうのこそ、ボクが得意な分野でさ……」
「……そうなんだよな……。
ガク、通常のアルゴリズムでは処理するのが難しい工程をプログラミングするのが、得意なんだ。
野生の勘をマシンにコピーしているとしか、思えない……」
ガクのコードに興味を持った楓は、ふらふらと立ち上がって、ガクの後ろから画面を覗き込んだ。
……画面一面に、「0」と「1」とが、びっしりと並んでいた……。
『……マ、マシン語直打ち!』
楓がおののいていると、いつの間にか、茅が楓の隣に立っている。
「……茅様、これ、わかります?」
「部分的に」
茅は、頷いた。
「カオス理論を、応用しているみたいなの」
「あ。わかる?」
ガクが、手を休めずに応えた。
「……テンもノリも、いくら説明しても、分かってくれなくてさぁ……」
[
つづき]
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