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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(75)

第六章 「血と技」(75)

 ガクは、いいたいことをすっかり吐き出すと、後は手元に意識を集中させ、口を閉ざした。
 そうしたガクの様子を見て、
「……はいっちゃった……」
 と、テンはいった。
「こうなると、ガクは……回りのいうこと、聞いていないし、見えていないから。
 一度没入しはじめると……ガクは、長いよ……。
 集中力も体力もあるから……作業が区切りのいいところまでいくまで、ずっとこのまま……下手すると、一晩でも何日でも、飲まず食わずで続けているから……」
 ……そんなもんか……と、荒野は思った。
 いわば、精神的なバーサク・モードといった状態にあるらしい。
 自分が興味を持つことには、体力の続く限り、とことん、食らいつく……その代わり、興味の持てないことには、まるで関心を示さない……というのは、社会性を欠いた幼児的な気質の現れ、でもある。
『その……幼児性も……』
 必ずしも、悪いことばかりではない……と、荒野は思う。
 現に……ガクは、予想しなかった分野で役にたちそうだった。
『……所詮、おれたち、一族は、異能の者……』
 どかしら、歪んでいることは、別段、珍しいことでもない……と、荒野は思う。
「じゃあ……別の話しな……。
 いいそびれていた事が、いくつかあるから……」
 テンの言葉を受けて、荒野は、話題を変える。
 いくつか、伝えてそびれていたことがあった。
「……楓……。
 お前、これから一週間、茅に体術を教えてやってくれ。
 テンやガクと一緒に、しごいてやって構わない。茅がついていけなくなるくらいで、ちょうどいいから、遠慮せずにしごいてくれ。
 一週間、茅がリタイアせずにいたら……その時は、テン。悪いが、茅と模擬試合、やってくれないか?」
 楓は、荒野の言葉を半ば予期していたのか、素直に「はい」と頷いた。
 できれば、茅自身の判断であきらめる所まで、追い込んでくれ……という、荒野の思惑も、十分に含んでいる様子だった。
 おそらく、茅単独で頼まれた時、かなり判断に迷ったのだろう。
「……ええー!」
 逆に、大声を上げて驚いたのが、テンである。
「なんで、そんなことに……」
 茅と体術……というのは、テンにとって、よほど意外な取り合わせであったらしい。
 ましてや、素人同然の茅と、模擬戦とはいえ、実地に戦ってみろ……というのだから、戸惑うのも無理はないか……と、荒野は思った。
 そこで荒野は、考えていることをより詳細に説明する。
「茅は……体術を、習いたがっているが……おれは、本心では、反対なんだ……。
 半端に動ける方が、いざという時、かえって危ないからな……だから、楓にしろテンにしろ、特に手心を加える必要はない。茅がお前達について行けないようだったら、まだ時期尚早だ、ということだろうからな……。
 ……で、一週間、茅が楓の課す習練に根を上げなかったら……テン、お前と勝負させて、茅に、自分の限界をわきまえさせるつもりだ。
 茅は、身体能力的には、ようやく一月やそこいら、多少運動してきた……という程度の、ただの女の子だ。
 そんな相手に、遅れを取るお前ではないだろう?」
 そういわれたテンは、荒野の言葉を挑発、と理解しながらも、明らかに気分をそこねた表情にになる。
「……当たり前だよ……」
 押し出すように、テンはそう答えた。
「だから、お前が、茅に引導を渡してやってくれ……」
 荒野の意図が「茅に体術の修得あきらめさせる」ことにある、と理解した上で……テンは、ようやく頷いた。
 自分のことが話題になっているというのに、茅は、特に興味のなさそうな顔をして、ガクの後ろから、もといた荒野の隣へと移動する。
「……あと……は……。
 そうだ。いい忘れるところだった。
 これから、一族の、若くて暇を持て余した奴らが、この町のきて、おれたちの動向を見学するそうだ……」
 荒野がそう述べると、茅と、相変わら夢中でタイピングをしているガク、それに荒野自身の三人を除く全員が、一斉に驚きの声をあげる。
「……わざわざ、これから引っ越してくるやつらの名簿を作成して送ってくるほどだから、敵意や害意は、ないと思う。
 たぶん、本当に興味本位。ただそれだけ、だ。敵でもないし、味方でもない……いわば、やじ馬、だ。
 おれは、できればこいつらも、味方に引き込みたいと考えている……」
「……加納……」
 まっさきに動揺から立ち直り、問い返したのはは、孫子である。
「それ……いつ、知りましたの?
 それに、名簿……って、……あなた方のような非常識な方々が、あと何人くらい増える予定なのかしら……」
 やけに表情が、険しかった。
『……お前自身だって、その非常識の仲間だろうに……』
 内心ではそう思いながらも、荒野は、緊張感のない声で、
「……ええと……合わせて、百人ぐらい、かな?
 それと、知らせが入ったのは、昨日の夕方……」
 と、答える。
「……あなたという人は……どうして、そういう大事なことを、後回しに……」
 孫子は、顔を伏せて、ぷるぷると全身を細かく振るわせている。
「見解の相違だな」
 荒野は、ことなげに応じた。
「おれにとっては、毒にも薬にもならない単なる野次馬連中よりも……今、この場にいる人たちの安全を確保する方策の一つでも考える方が、よっぽど、大事なんだ……」
 荒野の返答を聞くと、孫子は、これ見よがしに大仰な動作で、数度、深呼吸をする。
「……了解しました……。
 で、その百人前後の方々というのは……信用、できますの?」
 ようやく顔をあげた孫子は、若干こわばった顔で、荒野をさらに追求する。
「今の時点では、なんとも、いえない」
 荒野は、ゆっくりとかぶりを振る。
「流石に、見境のない凶状持ちを野に放つほど浅薄だとは思わないが……。
 一口に一族、といっても、ピンキリだからな……。
 ここに移住できる、ということだから、何らかの理由で現場にでていない連中がほとんどだと思う」
「……何らかの理由?」
 孫子が、眉をひそめる。
「無能。有能ではあっても、適性に問題がある者……」
 ここで、孫子は、楓の方をちらりとみた。
 荒野は、ここにくると予想される人材の種別をさらに挙げ続ける。
「……病気や負傷などの理由により、一時的に現場から遠ざかっている者。若年者で、実務未経験のひよっこ……」
「……ようするに、戦力外の者と、始末に負えない変わり者の寄せ集め……という理解でよろしくて?」
 孫子が、冷徹な声で、確認してくる。
「おれは、そう予測している。
 それでも……仮にも、一族の者だ。
 数が数だし、味方につけることができれば、損はない……」
 孫子は、これみよがしに、盛大なため息を吐いた。
「まあ……こちらの足を引っ張るようなことがなければ……わたくしは、別にかまいませんけど……」
 当てつけと、それに、「孫子自身は、そちらの面倒はみない」という態度表明をしてみせる。
 荒野にしても、孫子にそこまで期待はしていないので、特に反論はしなかった。
「ねぇねぇ……」
 今度はテンが、興味津々、といった表情で荒野に尋ねてくる。
「どういう人達が、くるの?」
「野呂系と、二宮系が半々。
 年齢は、十代から二十代……ほとんど、若いやつらばかりだったな。お前達や、それに、この土地で今、起こっていることに、興味を持って、わざわざ出向いてくる酔狂者の集団だよ……」
 国内を根城にしているのは、六主家のうち、よっつ。そのうち、佐久間は滅多に人前に姿を現さないし、加納は、数自体がひどく少ない。
「……のらさんや、最強の人みたいな人たちかぁ……」
「あそこまで、精鋭だとは思わないがな……。
 そのうち、ひょっこりと姿を表し、挨拶にくるだろう……」
 少し前に……秦野の三人組が、テンたちの実力を自分の目で確かめに来たように……そうした者たちが、立ち会いを求めてくるのは、荒野には、必須に思えた。



[つづき]
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