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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(78)

第六章 「血と技」(78)

 翌朝、荒野と茅はいつもの時間に起き、いつものようにランニングに出かけた。マンションの前で茅がストレッチしていると、隣の狩野家からぞろぞろと人が出てきた。いつもと違っていたのは、長らく真理とともに留守にしているノリだけではなく、ガクの姿も見えなかったこと、それに、楓と孫子が新たに加わっていたこと、だ。テンの話しによれば、ガクはあれから徹夜をしたらしく、これから着替えて出てくるから、先にいっていてもいい、ということだった。
 ガクは、一つの事に夢中になると、周りの事が目に入らなくなるタイプらしい……と、荒野は記憶に止めた。
 人数が増えた状態で、ゆるゆるとした速度で河川敷に向かう。目立ちたくないし、体を温める必要もあったので、朝っぱらから全力疾走、などはしない。
『何だかんだで……』
 荒野は、ぞろぞろと小走りになっている少女たちを、さり気なく見渡す。
 こいつら、それなりに良好な関係に落ち着いているよな……と、思う。
 摩擦や小競り合いがまるでないわけでもないが、そうした大小のトラブルを乗り越えてきたことが、現状では相互理解に役立っている……と、荒野は分析している。
 特に、楓と孫子は、仲がいいとか悪いとかいう以前に、香也を巡って対立している。香也が態度をはっきりさせない限り、この二人の関係は、緊張をはらみ続けるだろうのが……それ以外の部分で、何度かの物理的精神的衝突を経験してきたため、楓と孫子は、互いの長所と短所をよく理解しあって、一部では認め合っている節もある。
 そして、そうした「ぶつかり合いながらも、相互理解を深めていく」という関係性は、後から来たテン、ガク、ノリの三人に対しても、結果として拡張して引き継がれているのだった。
『でも……もうちょっと……』
 親密になって貰おうか……と、荒野は考える。
 今、一緒に走っている少女たちは、何だかんだいって、現在、荒野が信頼できる、身近な即戦力なのだった。その即戦力の信頼性を高めるための工夫は、しないでいるよりはしておいた方が、いい……。
 この場合、「信頼性を高める」とは、すなわち、「ぶつかり合ってもらう」ということである。すなわち、実際に戦ってみて、お互いの事をよりよく知り合って貰う、というこを意味した。
 幸い、昨日のうちに、楓に、テン、ガク、茅へ、体術を教えるよう、命じていた。

 まず手はじめに、楓とテンを立ち会わせてみた。
 楓が勝つのは荒野も予測していたが、テンが数秒も保たなかったことは予想外だった。
『……意外と……』
 テンは、不測の事態に直面した際、機転が利かない性質であるらしい……と、荒野は脳裏に刻み込む。
 確かに、手にした六節棍を、初っぱなにいきなり投げつける……という、楓がとった手段は、意表を突く方法ではあったが、それにも増して、テンの対応は芸がなかった。
 楓が投げた棍に気をとられたテンは、楓自身の接近をむざむざ許し、あげくの果てに、腰に手を回した楓に、直上に放り投げられる。
「……テン……間抜けだ……」
 とは、荒野とともに二人の立ち会いを見物していたガクの台詞である。
「間抜け」とは、どちらかというと、ガクがそういわれることの方が多い、語彙であった。
『……実戦経験が、圧倒的に不足しているんだな……』
 と、荒野は判断する。
 テンやガクは、今まで、限られた人数しかいない、閉鎖的な環境下にいた。だから、多様な反応に、うまく即応できず、潜在的な能力を引き出す前に勝負がついてしまう。不測の事態に、思うように対応できない……。
 こうした機会に、ここにいる人間だけでも、なるべくいろいろな組み合わせで、軽い立ち会いを行っていこう……もしも可能であるのなら、今後、この町に大挙して押し寄せてくる、という一族の者たちとも、どんどん立ち会わせていこう……と、荒野は考える。
 目下の所、荒野が想定してる「勝利条件」は、ここにいる者、全てが、一人もかけることなく、この土地で健やかに成人すること。あるいは、自分の意志でこの土地を去るまで、平穏に暮らしていくこと、である。
 そのための障害になりうる要素は、この土地の人々の、お世辞にも「普通」ではない、自分たちに対する偏見と差別意識。それに、存在が明らかになっている、襲撃者、だった。
 荒野自身の感覚でいえば、後者よりも前者の方が、対処するのに苦労を強いられる……と、予測しており、後者の襲撃者については、どちらかというと「敵」というよりは「障害物」であると感じていたが……いずれにせよ、将来の対決は避けられない相手、であるのには、違いなく、対策として、今いる戦力の増強は必須である、と感じていた。
 だから、荒野は、テンやガクたちについても、早急に「使える」レベルにまで引き上げる必要があった。
 もっとも、テン、ガク、ノリの三人については、今の時点でもそれなりの基礎が出来ているので、荒野はあまり心配はしていない。心配なのは、三人ではなくて、……。
『……茅……なんだよ、な……』
 茅が妙にやる気を出していることが、目下の所、荒野のひそかな悩みの種、であった。従来通り、「非戦闘員」として、戦力外の存在で在り続けてくれた方が、荒野としてはよっぽどありがたいし、気も休まるのだが……。
 そこで荒野は、孫子と掛け合って、「茅をやりこめて、やる気をなくしてくれ」と頼み込んでみた。多少、痛い目に合えば、茅も諦めるかも知れない……。
 荒野がその場で交渉すると、孫子は眉を顰めながらも、不承不承、茅と立ち会うことを承知してくれた。
 荒野は、テンとガクから六節棍を借り、茅と孫子にそれぞれ持たせる。
 孫子は、剣道の構えで棍を構え、対峙した茅も、それに習った。
 そして……次の瞬間、茅の姿が消え失せる。
『……あっ……』
 慌てて荒野は、五感を研ぎ澄ませ、茅の気配を捜した。
 気配を絶った茅は、とことこと無造作に孫子に近づいていき、「……えい」という気の抜けるかけ声とともに、孫子の手元に棍を打ち付けた。
 痛み、よりも、茅の姿を完全に見失ったこと、それに不意をつかれたことで、孫子は、手にしていた棍を、取り落とす。
『そうだ……茅、あれ、出来たんだ……』
 荒野は、そのことを失念していた自分を呪った。
 年末に、見よう見まねで憶えて以来……茅の「気配絶ち」は、さらに完璧に近づいていた……。
「才賀。
 恥じることないぞ。今の茅は、気配を消すことに関しては、一流の術者並だ……。
 あれを、察知できるのは……一族の中でも、数えるほどしかいない筈だ……」
 荒野としては、孫子に、そう慰めの声をかけることしか、出来なかった。

 ともあれ、この一件で、茅が楓に体術を習う、ということは、いよいよ動かせない決定事項になってしまった。




[つづき]
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