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彼女はくノ一! 第五話 (162)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(162)

 朝食を済ませ、楓たちが登校すると、ガクは途端に横になった。
「……ご飯を食べた後、すぐに横になると牛になるよー……」
 テンが、妙に年寄り臭いいい方をする。
「いいよ。牛になっても……。
 眠いし、傷も早く直したいし……」
 ガクは、そういう途中で、ふぁ……と欠伸をする。
「……行儀悪いなぁ……」
 テンは、苦笑いしながら、ガクを見つめる。ガクを、そのまま炬燵で寝かせておくつもりだった。本来なら、ずっと安静にしていた方がいいくらいなのだ。
 ただ、ガクの方が、じっとしていない。
「……寝るんなら、ちゃんと部屋に戻って布団で寝なよ……」
「んー……。そうする……。
 傷、早く直して、思いっきり楓おねーちゃんに……。
 後、庭の自転車直しておいたから、よかったら、使って……」
 ガクは、のろのろと起き上がり、重たい足取りで自分の部屋に向かった。
 徹夜明け、ということもあり、今日はそのまま怪我人らしく、おとなしくしているつもりらしかった。

 テンは、食器を洗い終わった後、自分用にお茶を焙じて入れる。焙じ茶は、この家にきてから、真理や羽生にいれ方を習った。手間はかかるが、こっちの方が、普通の日本茶よりもテンの嗜好に合うので、時間がある時はこっちをいれている。
 焙じ茶の湯飲みを片手に炬燵に向かい、昨夜、一晩かけてガクが作っていたシステムをチェックする。相変わらず、複雑怪奇なコード進行で、目でアルゴリズムを追うのに骨が折れたが、なんとか「うまく作動しそうだ」ということだけは、理解できた。
 ガクが書いたプログラムを圧縮してメールに添付し、徳川の業務用のアドレスに送付する。後の評価は、徳川に任せよう……と、テンは思った。
 その後、テンは茶器とパソコンを片付けて、炬燵の電源も切り、炬燵布団を剥がして庭の物干しにかけた。幸い、今日は天気がよく、ガクは寝ているし他の住人たちも出払っている。他の布団も干せばよかったな、と思いつつ、テンは母屋に戻り、居間をはじめとしたいくつかの部屋に掃除機をかけ、廊下のぞうきんがけをする。家自体が多きので、一度にすべての部屋を掃除するのは時間的に無理だったが、かといってサボり過ぎても後の手入れが滞る。時間がるときに、できる範囲で行う、というのが、真理から教えられた狩野家なりの掃除法だった。この日の日中は、家事を遂行できるのがテンだけだったので、掃除できる範囲は、自然といつもよりも小さ
くなる。
 ざっと掃除を終えると、もう商店街のお店が店開きする時刻になっていた。別に買い物を急ぐ理由もないのだが、ここ数日はお昼前後から普段の買い物客とは別の人手、フリフリドレスのおねーさんとその取り巻き連中が増えるので、できるだけ朝のうちに買い物を済ますようにしている。
 掃除道具を片付けて、手早く外出の身支度を整えると、テンは、冷蔵庫に張り付けてあった羽生の買い物用メモを引っ剥がし、さっさと家を出る。
 でがけに今朝、ガクから聞いた自転車のことがふと頭をかすめたが、最初からやすやすと乗りこなせるとは思えなかったので、やはり徒歩で商店街に向かう。
 自転車の練習は、そう、お昼過ぎにでも行うことにしよう。自転車に乗れれば、荷台の分、一人でも多くの荷物を運ぶことができるようになる……。

 帰ってきたテンがお昼ごはんを作っているところに、眠そうな顔をしたガクがやってきた。
「……十分に寝た?」
「いや。お腹、空いた……」
 とぼけた問答の後、テンはもう一人分のおかずを用意した。人数も来客も多い狩野家では、ご飯は多めに炊く習慣ができているので、一人分くらい増えても支障はなかった。
「午後はどうする?」
「……また、寝る。怪我、早く直したいし……」
 昼ごはんを食べながら、テンはガクとそんな会話を行う。
「怪我人としては安静にするのが順当だけど、なんだかガクらしくないしね……」
「……そう?
 でも、今朝のみたら、ボクも、早く直して楓おねーちゃんとやり合いたくなったし……」
 ガクは、いつもにも増して、食欲旺盛だった。
「……こんな傷、さっさと塞いでやる……」
「根性で、回復力は増えないよ……」
「それでも……ほら、傷口、もうこんなに盛り上がってるし……もう少しだよ……」
 ガクはそういって、腕の傷痕を、テンの目の前に示した。
 実際、傷口の周囲は、ガクのいうとおり、盛り上がっている。
「自由に動けるようになるまで……あと、二、三日、っていうところかな……もう少し、早くなるかもしれないけど……。
 それまで、おとなしく食っちゃ寝しておくよ……」
「……少しは、家事手伝えよ……」
 珍しく、テンがガクにぼやいてみせた。
 ぼやきながらも、テンは、ガクがこれほど「安静」に気をつけるは珍しい……と、思っている。
 ガクが怪我や病気をしたのはこれが初めてではないが、どちらかというと落ち着きのないガクが、自分から進んで体を休めようとしているのは、これが初めてだった。
 よっぽど……楓に体術を習いたいらしい。

 昼食後、二人は庭に出る。
 自転車と、それに手裏剣の投げ方の練習をするつもりだった。
 自転車については、所詮バランスの取り方だ、ということが分かれば、後は特に問題はなかった。二人とも、せいぜい二、三度転んだだけで、すぐにコツをつかみ、特に不自由する事なく、乗り回せるようになった。
 なるほど……ペダルをこいでいない時の方が、走行時より、バランスの取り方が難しいのか……と、テンは思った。

 自転車はどうやら乗りこなせそうだ、ということになると、今度は、ガクが楓に借りた手裏剣を持ち出してきた。
「……力を抜いて、力を抜いて……」
 とぶつぶつ呟きながら、ガクは庭にある桜の樹に向けて、手裏剣を打つ。
 最初のうちこそ、昨日までと同じくきりもみ状態で、あさっての方向に飛んでいったが、何度か投げ続けるうちに、かっ、かっ、と音をたてて、幹に刺さるようになる。
「……コツ、掴んできたね……」
 テンは、ガクにそういった。
 ガクの飲み込みの遅さを承知していたテンは、もともと、さほど心配していない。
「……そう、だね……」
 ガクは、眠そうな顔でそういって、「……ふぁ……」と大欠伸をした。
「だんだん、体が覚えてきたようだから……今日はこの辺にしておく……。
 また、寝る……」
 そういってガクは、手裏剣を片付けて母屋に戻った。
 テンは、干していた炬燵布団の埃を払い、取り込んでから母屋に戻った。

 炬燵に布団を被せてから、テンはパソコンを立ち上げ、メールのチェックをする。徳川から、ガクが一晩かけて打ち込んだプログラムについての問い合わせが着信していた。それには、「ガクが起きたら、直接返信をさせる」とのみレスして、徳川に送り返す。
 徳川は、最近は真面目に学校に通っているので、平日の日中は、昼休みくらいしか仕事の用事が処理できない。放課後は、まっすぐ工場に向かうらしく、ほぼ毎日、徳川の下校時刻に合わせて、決まった時間にタクシーが迎えにくる、という話だった。
 二足のわらじも、やはり相応に多忙であるらしい。
『……学校、かぁ……』
 と、テンは思う。
 実際に通っている香也たちの話しでは、実に不自由で窮屈な場所であるらしいが……同時に、傍から見ていると、案外、楽しそうな場所なのではないか……という印象を、テンは抱いている。

 この時点では、テンは、今度の春から自分たちが学校に通いはじめる……ということに対して、差し迫ったリアリティを感じることができなかった。




[つづき]
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