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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(80)

第六章 「血と技」(80)

 昼休み、荒野はパソコン実習室を覗いてみた。
 昨日の昼休みのや放課後の延長……と、言い切るのには、語弊があるほど、人数が増えていた。もとからいた放送部やパソコン部の面々はもとより、三年生や先生方、それに新顔の一年生や二年生までもが入り交じって、なんかすごい混雑になっている。
 もちろん、楓や茅の姿も、見えた。
 二人とも周囲の生徒たちと話し合いをしながら、忙しくキーボードを叩いている。

「……すごいでしょ?」
 いつの間にか、近寄ってきた有働勇作が、荒野に声をかけてきた。
「ぼくも……ここまで人が集まってくるとは思いませんでしたが……」
「なんか……おれにやれること、ある?」
「昨日準備した一室だけでは足りなくなってきたので、もう一室教室を片付けます。できれば、昼休みに片付けたいので、手を貸してもらえれば……」
 もちろん、荒野は有働と一緒にその足で片付けを手伝いに行った。その途中で、玉木の声で、有働が言ったのと同じ内容のアナウンスが、全校に放送される。
 昨日の放課後の集まった生徒に加え、手近にいた生徒たちも集まってきたので、二倍以上の人数になったことと、一度参加した生徒に関しては、手順が分かっていたので、より効率的に作業を終えることができ、あっという間に昼休みのうちにもう一室の教室が確保できた。
 百名近くの生徒たちが校内放送を合図にしてわっと集まり、近場にいる生徒たちの指示に従いながら、するべき仕事をしてすぐに帰って行く。荒野がみたと感じでは、各学年、だいたい同じ人数が来ているようだった。
「……なんだか、凄いことになっているんだな……」
 漠然と予想していたよりも、率先して自発的に動いてくれた生徒たちをみて、荒野は感心していた。
「……ええ、例のボランティアの登録者数、なんですが……」
 有働は、荒野にそう告げたところで、昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。
「全校生徒数を越て、さらに増え続けています。
 生徒の兄弟とか、町中に張ったポスターと口コミとの相乗効果で……この先、どれほど人数が増えるか読めない状態です。
 自主勉強会の企画と準備をしていることも、父兄に受けがいいみたいで……」

 放課後になると、荒野は教室を出て、まっすぐに調理実習室に向かう。いつもは自分で食材も用意するのだが、この日に限って事前に「手ぶらで来てもいい」という連絡があった。
 何故かは分からないが、この日に限って荒野以外の部員が材料を用意してくる、という話しなっていた。
「……さて、いよいよバレンタインデーが、来週に迫って来ました……」
 荒野をはじめとする料理研の面々が揃うと、すでに部活を引退していた筈の三年生が教壇にあがり、そう挨拶をする。
「……そこで、来週は、例年のように、料理研による、手作りチョコ教室を行います。本日の部活は、その予行練習を行います……」
 前部長の三年生がそう宣言すると、荒野以外の部員たちが、「わっー!」と喝采を上げながら拍手しだした。
 荒野を含めて、全員、部活中はエプロン姿である。
「……そ、そういうことに、なっているの?」
 落ち着かない様子で、荒野は左右を見渡し、手近にいた部員に小声で確認する。
「……そうそう……」
「抜け道っていうか、ガス抜きっていうか……」
「うちの学校、その前後は持ち物検査厳しくなるから、そういう名目で、うちの部が他の女生徒にも門戸を開くの……」
「先生方も、部活の一環、ということにしておけば、見て見ぬふりをしてくれるし……」
 日本におけるバレンタインデーの奇習については、何度か聞く機会があった。
 それと、この時期、校則の締め付けが厳しくなることも、ついこの間の抜き打ち持ち物検査で実感していた。
 それでも……。
『……なるほど……』
 と、荒野は思った。
 来週の部活の時に、料理研が、チョコの作り方を、希望する生徒に伝授する。
 部活動に使うものだから、チョコの持ち込みもお咎めなし。
 そして、そこで出来上がったチョコは、校内で自由に流通するのだろう……。
『学校の規則というのは……』
 かように、部外者新参者には予想できない、抜け道を用意しているものなのだな……と、感心した。

 他の部員たちが用意したブロック状のチョコを砕いて湯せんし、一度溶かしてから、型にいれて冷やす。場合によっては、ホワイトチョコなどで表面に文字を入れる……などの実習を終え、後か片付けをしても、最下校時刻まで、まだいくばかの時間があった。
 いつもなら欠食児童のように群がってくる運動部員たちも、この時間なら、まだ、部活の最中だ。出来上がったチョコをどうするか、ということになり、結局、部員の人数で頭割りにして、持ち帰ることになった。
 今回ばかりは、部員たちが自分で食べたくなったらしい。あるいは、来週に誰かに贈るのかもしれないが……。
「……と、いうことで、加納君。
 今日のでだいたいのやり方はわかったでしょ?
 この中で唯一の男子だし、当日は講師役、よろしく!」
 全部長の先輩がそういうと、荒野を除く全員がパチパチと拍手をしはじめる。
 料理研は、荒野以外は全員、女子だった。

 いつもより小一時間ほど早い時刻に、他の部員たちと別れた荒野は、その足でパソコン実習室に向かう。
 自主勉強会もやっているそうだから、確実にそこにいる……という保証もなかったが、なんだかんだで、パソコン実習室が、茅や楓の最近のたまり場になっている。
『……それとも、もう帰っちまったかな……』
 茅は「買い出しも含めて、家事一切を引き受ける」と宣言していたし、事実、昨日も早めに帰宅した、と聞いている。間に合えば一緒に帰るつもりだったが、時間的にも微妙な所だった。
 パソコン実習室は昼休み以上に生徒や教師が詰め掛けていて、かなりの活況を呈していた。半数以上にあたる、三年生と教員とが、自主勉強会向けの資料作りに勤しんでいる。キーボードになれていない教師に指示を受けながら、生徒が打ち込み作業を行っている姿も見えた。パソコン部員と放送部員も、相変わらず賑やかに意見を交換しながら、作業を進めている。
 顔見知りの堺雅史に近寄って声をかけると、茅と楓は、今日は早くから、勉強会の方に向かっている、という話だった。その後、堺に様子を尋ねると、基幹部分は茅と楓、徳川が作ってくれたが、細かい部分や新たに付加した機能、総体的なチェックなど、やるべきことはまだまだ多い、という。
「……バグ取りなんかは、部外の協力者にも参加してもらってますが……」
 そういって、堺は、少し離れた所で末端に取り付いている一群の生徒を指さす。
 実際に使って見なければ発見できないバグもあるので、ああして、協力者を募って、いろいろな使い方をしてもらっている……という。
「……一部分は、もう稼働していますから……後は、使いながら、意見を貰って直して行くしかないですね……」
 そういって、堺は肩をすくめた。

 堺に別れを告げ、荒野はパソコン実習室を離れ、荒野自身も片付けを手伝った、空き教室へ向かう。
 携帯で連絡してもよかったが、同じ校舎内にいながら、勉強をしている最中に呼び出すのも気が引けた。
 てっきり静まり返っているもの、とばかり思っていたが、実際に足を運んで見ると、五人から十人程度のグループに別れて机を寄せ合って、上級生が下級生の勉強をみている、という形であり、教室内は予想していたよりも騒然とした雰囲気だった。
 どうやら、学科や生徒の理解度に応じて、数人づつのグループを作って、小人数で学習しているらしい。
 考えてみれば、授業は授業で、普段からしっかりとしているわけで、それをサポートするための学習方法としては、こうした形式の方が効率がいいのかも、知れない……と、荒野は思った。
 そうして荒野は、自主勉強会が行われている二つの教室を一通り回ってみたが、茅と楓の姿は見つけられなかった。代わりに、飯島舞花、有働勇作、栗田精一、柏あんななどの顔を、生徒の中に見つけたが、せっかくの自習を邪魔するのもなんなので、目があっても目礼だけにとどめ、声をかけずに廊下に出た。

 どこにも姿が見えない所をみると、茅たちは、先に帰ったようだ。
 さて、おれも帰るか……と、荒野が思った時、荒野の携帯から、呼び出し音がなった。
 ポケットから取り出して液晶画面を確認すると、孫子からの電話だった。




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