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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(81)

第六章 「血と技」(81)

「……話しは、わかった……」
 孫子からの電話を一通り聞いた荒野は、そう答えた。
 ため息混じりだった。
「……で、その間抜けどもは、今、徳川の工場で……」
『もう、すっかり……放送部の……いえ、玉川のペースに巻き込まれていますわ……』
 電話の向こうで、孫子も、ため息混じりだった。
『……放っておいても害はなさそうですけど……。
 前々からいおうと思っていたのですけど……あなたの一族の関係者って……常識人の比率が異常に少ないのではなくて……』
「……たまたま、変人がこっちに集まってきているだけだよ……多分。
 ま、やつらがなんか変なこと仕掛けてきたら、遠慮なく撃っちゃっていいから……」
『……もちろん、そのつもりですわ……。
 ここには、スペアのライフルも、弾丸も、豊富にありますから……』
 ……それが狙いで徳川の工場に誘い込んだな……と、荒野は思ったが、口に出さなかった。
 その時、チャイムが鳴り響いて、「……もうすぐ最終下校時刻になります……」という校内放送が流れる。
 孫子との電話が、思ったよりも長くなったようだ。
「……もうこんな時間か。
 こっち、まだ学校なんで、一旦、マンションに戻るつもりだけど……そっちに向かった方が良さそうか?」
『いえ……。
 その、彼らも結構、放送部の方々と、和気藹々とやっていますし……別に出向いてくる必要もないと思いますわ。
 それに、もう少ししたら、わたくしたちも帰るつもりですし……』
「そうだな。もう、いい時間だもんな……。
 放送部のやつらにも、ほどほどにしておけって伝えておいてくれ。
 それから、その四人には、おれに会いたかったら、回りくどいことせず、直接マンションに来いっていっておいて……。
 伝言ばかりですまないけど……」
『……いえ……彼らは、今、撮影とかヒーロー談義にうつつを抜かしているから……後で、話しの区切りがついたときにでも、伝えておきます……』
 それから、二三、簡単なやり取りをしてから、電話を切る。
 結局、茅たちとは合流できなかったな……とか思いながら、荒野は一階の玄関に向かった。
 部活帰りの生徒に加えて、自主勉強会とかの生徒たちも一斉に帰りはじめたので、下駄箱がおいてあるあたりはそれなりに混雑していた。人混みをかき分けて、上履きをスニーカーに履きかいている時に、肩を叩かれる。
 飯島舞花、栗田精一、柏あんなの水泳部組と、それに堺雅史を加えた四人が、立っていた。この四人は、校内公認のバカップル二組、でもある。
「ああ……。勉強会の方の帰りか……。お疲れ」
 このうち水泳部所属の三人は、先ほど、教室の方で見かけていた。
「うん。今日は部活がないし、一年の勉強見るのは、セイッチので慣れているし……柏の分は、堺に頼まれたし……」
「……あんなちゃん……なかなか、成績が上がらないから……」
 堺雅史がそういって顔を伏せた。
「……お、お馬鹿なわけじゃないから……勉強が、嫌いなだけで……」
「……はいはい……」
 柏あんながそう言いつのるのを、堺雅史が軽くいなす。
「……堺君たちも大変だよな……。
 本当、ご苦労さん……」
 荒野は真面目な顔をして、頭を下げる。
 荒野たちがこの学校に来なければ……現在、発生しているパソコン部や放送部の仕事の大半も、必要がなかった筈、なのである。
「苦労は、苦労ですけど……やっていて、楽しいですから」
 堺は、頭を下げた荒野に、そういう。
 荒野と堺は、直接話す機会こそ少ないものの、茅や楓経由で、「堺をはじめとするパソコン部は、かなり、よくやってくれている」と聞いている。二人は、パソコン部のことを、部活……というよりは、最近ではプロのSE顔負けの仕事ぶりになってきている、と評していた。
 帰り道の途中でそんなことを話しをすると、
「……あの二人に、引っ張られているだけですよ……」
 と、堺は首を振る。
「知識と経験がものをいう世界だし……あの二人が側にいて、すぐに疑問点に答えてくれるから、何とかなっている感じです……」
 それから堺は、この間荒野が持っていった技術書は、正式に「学校の図書室への寄贈本」という形になり、分類ラベルも貼られた上で、パソコン実習室に戻ってきたそうである。
「……実習室に本棚持ち込んで、そこが図書室の分室、みたいな形になりました……」
 一応、文芸部に所属している茅が、手を回して手配した……と、いっていた。
 文芸部員は、図書委員と兼任している生徒が多く、茅が相談した上で、そう手配したらしい。
「それに……うち……パソコン部とか、放送部とか、だけではなくて……なんか……学校中は、妙にテンションが上がってきている気もしますし……。
 生徒がこんなに大勢……この時間まで残っていることなんて……ない、ですよ……何十人もの生徒が、勉強をするために、自主的に居残りするなんて……」
 堺がそこまで話した時、家が別の方角にある、という堺と柏の二人との、分かれ道にさしかかった。
「さっきの話しだけど……学校だけ、ではないよな……」
 堺と柏と別れると、今度は舞花が荒野に話しはじめる。
「……商店街の方だって、なんだかんだで活気が出てきているし……」
「……あれは、玉木たちが勝手にやっているだけで……そういや、今日も……」
 荒野がそう答えようとした時、荒野の携帯が鳴った。取り出してみると、茅から、メールが着信している。
「……なあ……」
 歩きながら、ざっとメールの文面を確認した荒野は、舞花と栗田に話しかける。
「君たち二人、メシ、一緒に食う?
 なんか、また狩野家で、大勢で食べることになっているけど……」

 飯島たちとは、マンションの前で一旦別れ、着替えてから狩野家に合流することになった。栗田精一も、舞花の部屋に頻繁に泊まりに来ている関係で、予備の着替えくらいは置いてあるらしい。
 鞄を置いて、私服に着替えて狩野家を訪ねると、制服姿にエプロンをつけた樋口明日樹が出迎えてくれた。
「樋口も来てたのか……」
「うん。例によって、帰りに誘われて……。
 ただで御馳走になるのも悪いから、手伝っているわけだけど……」
「いい心がけだけど……中、いつもにも増して、賑やかじゃないか?」
「……う、うん……それが、ね……」
 口ごもる明日樹の体を押しのけるようにして、玄関から居間に向かうと、「かにー、かにー、かにー! かにーずくしー!」と喚きながら、テン、ガク、羽生の三人が、炬燵の周囲を踊りながら練り歩いていた。
「……おー。おー。来たか、カッコいいこーや君!
 いやな、そこの四人が、お近づきの印に、って、タマちゃんところに残ってた蟹、食べきれないくらい、どっさり買ってきてくれてな……」
「……四人……って、才賀電話でいってた……」
「そう。その四人ですわ……」
 台所から、鍋を抱えた孫子が居間に入ってくる。
「……何故だか、玉木とかテンとか徳川とかの意気投合してしまって……」
「いや、おれなんかもう、姐さんに……ごほっ!」
 そんなことをいいつ、荒野にとっては初対面になる少年が、ドサグサに紛れて後ろから孫子に抱きつこうとする。孫子は、炬燵の天板の上に鍋を降ろし、後ろも見ずに裏拳を少年の鼻柱に叩きつけた。少年が、畳の上に沈む。
「この通り、すっかりとけ込んでいますけど……加納!
 あなたの関係者は、こんなのばかりですの?」

 荒野は……なにも、言い返せなかった。




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Comments

いやーいいっすねえ

いや~すばらしい。特に孫子の裏拳にびびっときちゃいました!発言は初ですが、結構最初のほうから楽しませてもらってます。
毎日この作品を楽しみにしていますよ~。

  • 2006/09/29(Fri) 06:39 
  • URL 
  • しろるな #-
  • [edit]

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