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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(82)

第六章 「血と技」(82)

「……さっき、才賀にこなかけて殴られていたのが、田中君」
「……ういっす……」
 書類上、田中太郎、という姓名になっている少年は、今だに赤さが消えない鼻をさすりながら、もう片方の手をあげる。
 荒野は、茅から手渡されたプリントアウトをめくって先を続けた。
「それで、そっちのややごついのが、佐藤大介君……」
「……うっす!」
 荒野に名を呼ばれた少年が、直立不動になる。
 身長は荒野とさして変わらないが、肩ががっちりとして胸板が厚い。
 彼の印象を一言で表現すると、「みていると、あつぐるしい」ということになる。返答の仕方まで、外見に似て体育会系だった。
『……軟派な田中に、硬派な佐藤……か……』
 と、荒野は二人の印象を脳裏に刻み込んだ。
「……で、こっちの平安貴族みたいな顔をしているのが、鈴木友哉君……」
「……よろしくお願いします……」
 鈴木君は、おっとりとした動作で、頭を下げる。
「で、残ったちっこいのが、高橋一……と……」
「……なんでおれだけ呼び捨てなんだよ……」
 む、っとした表情で、「高橋君」が、荒野を睨む。
 しかし、高橋君は背が小さい上に童顔であったため、まるで迫力がなかった。それどころか……。
「……ショタ系、キタッー!」
 いつの間にか「高橋君」の背後に忍びよっていた三島百合香が、背後から「高橋君」の首に抱きつく。
「な、な、な、荒野! この可愛いの、こっちにまわせってーのー!」
「……わっ! なんだ、これ! 耳に舌入れるな! 変なところ触るな! 息吹きかけるなぁ!」
「……よいではないか、よいではないか……」
「……あー。
 先生も、こんなところ勝手に発情して、おっぱじめないように。
 未成年の人目もあるし、それに、食事前だ。
 それからな、高橋一。君だけ呼び捨てなのは、この中で、おれより年下は君しかいないからだ。
 ええと……ねんこーじょれつ、っていったっけ? 日本ではそういうのに重きを置いて、敬称も呼び分けるんだろ?」
「……はつじょーって、なーに?」
「それは、大人になればいやでも分かることだから、今は教えないのだ。後の楽しみにとっておくのだ……」
 姪である浅黄の無邪気な問いかけに、徳川篤朗がしたり顔で答えていた。
「ってか……こいつらも、来てるし……」
「……あとな……新しく来た四人に言っておくけど……この紙の束、なんだか分かるか?
 君達と同じように、興味本位でこっちに向かっている一族関係者のデータ・リスト……竜斎さんと中臣さんが、送ってくれたもんだ。
 みろよ、この厚さ……」
 荒野は、ばらばらーっとプリントアウトした紙の束を指でめくる。
「……たまたま君達が、第一号なったったけど……まだ、こんだけの人が、ここにくるわけ……。
 だから、な。
 おれがいいたいことは、たったひとつだ。
 面倒を、起こすな。おれの手を、煩わすな……。
 おれからは、以上……さあ、メシにしよう……」

「……せんせー、ちょっと味みてくださいー……」
 ちょうど、その時、楓が台所から三島を呼ぶ。
「おーし。今いくー」
 三島はそれまで取り付いていた高橋君からあっさりと身を離し、台所に向かった。
「……な、なんなんだ……あの女……」
 ようやく起き上がった高橋君が、着衣の乱れを直しながら、そういった。
「うちの学校の養護教諭だ。同時に、うちのじじいが雇った報告者でもある」
 荒野がそう告げると、三島君だけではなく、新参者の四人全員が目を丸くする。
「……先生だぁ……あれが……教育者……」
「おれ……せいぜい、タメだと思った……」
「奥が深いっす……」
 呆然とし、そんなことを呟きあう四人。
「……他の先生方はマトモだから、安心するといいのだ……」
 炬燵にあたっていた徳川篤朗がそう口を挟んだが、その徳川にしてからが、白衣姿で頭に太った黒猫を乗せているので、まるで説得力がない。
「……タメ、といえばだな……。
 この書類によると、高橋君は、テンたちと同学年じゃないのか?
 学校の方はどうするつもりだ?」
 荒野は、より事務的な方向に話を代える。
「……あ。はい」
 いきなり荒野に話しかけられた高橋君は、直立不動になった。
「その辺は、うまく……そこにいる佐藤さんの身内、ということで、近くに同居する予定です。
 実際、遠縁に当たるそうですし……」
 荒野は、
『……似なくて、よかったな……』と思ったが、口にはださなかった。
「……その、佐藤君と高橋君が、二宮で……田中君と鈴木君が野呂かぁ……」
「……そうっす! 一族の幼年キャンプで知り合いました!」
 ごつい佐藤君が直立不動のまま、大声を張り上げる。
「で……高橋君は四月から学校に通う、として……。
 他の人達の、表向きの身分は? 他の三人も、学生? それとも、どっかに職を持っているの?」
 佐藤、田中、鈴木の三名は、高橋君よりも年長で、学生であっても働いていてもおかしくない年齢だった。また、一族の者も、大半は、表向きの職業を持っているの。
「……ぼくは、一応、学生です……」
 下ぶくれ顔で目が細い鈴木君は、片手をあげる。
「一応、地元の国立で、そろそろ就職活動をしなければならない時期なんですが……」
 そういって鈴木君は、聞き覚えのある学校名を告げた。
「……なんだ、地元じゃないか……」
 たしか……柏あんなの姉が、籍を置いている大学だ。荒野が拍子抜けしたようにいうと、
「一族は……全世界に散らばっていますから……」
 鈴木君は、そういって、頷いた。
「……長老が長年地固めしてきた土地、ですからね……。
 荒野さんの動きも、何げない顔をしてサポートしてくれている草も、多いと思います……」
 草、とは、古来、忍び全般を指す呼称の一種だが……ここでは、正体を徹底的に秘匿し、一般人として生活しながら情報収集に専念する、埋伏要員のことを指す。
 鈴木のいううとおり、表立って出てこない、微妙な世論操作、などでひそかにサポートされている気配は、荒野も感じていたが、「草」に対しては、その存在を徹底的に無視するのが一族としての礼節なので、荒野は素知らぬ顔をしている。
「……正体を明かさないだけで、この土地に根を張っている一族は、想像以上に多いのかもしれないね……」
 荒野は、そういって頷いただけだった。
 つい先程も、孫子から「一族には、非常識な者が多い」と指摘されたばかりだが……まともな社会常識を有しているのなら、すでに現場に回されて、ひっそりと自分の仕事をこなしているのである。
「残りの二人……田中君と佐藤君は?」
 荒野は、残った二人に尋ねる。
「……目下、無職であります!」
「フリーターっす……」
 しゃちほこばって答える佐藤君と、だるそうに呟く田中君。
『……本当に、好対照だな……』
 荒野は、二人の様子をみて、そう思う。
「……田中君はともかく……佐藤君は、高橋君の分もお金が必要になるからな……。
 ……玉木か徳川、なんか、手頃な仕事のあて、ない?
 就職が駄目なら、バイトでもいいけど……」
 特に面倒を見なければならない義理もないのだが……一応、手近にいた知り合いに聞いて見る。
「……それについては、わたくしに腹案があります……」
 何故か、声をかけられていない孫子が片手を上げた。
「……才賀……お前、ベンチャーは諦めたのでは……」
「……諦めては、いませんわ。以前、想定していたよりも、規模を縮小しなくてはならなくなっただけで……」
 孫子は、不敵な笑いを見せた。
「……地元にも、これから来る一族の人にも……メリットがあって、お金もまわる、アイデアです……」




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