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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(83)

第六章 「血と技」(83)

「……宅配?」
 荒野は眉を顰める。
 あんまり夕食が遅くなるのも……ということで、孫子が作った書類やデータ類は後で見ることにして、食事をしながら概略だけを口頭で語って貰うことになった。
 炬燵の周りには、狩野家の住人に荒野と茅、三島百合香、飯島舞花、栗田精一、樋口明日香、徳川篤朗と浅黄、加えて、田中太郎、佐藤大介、鈴木友哉、高橋一も当たり前の顔をして加わっている。食事の材料である蟹を大量に買い付けてきたので、羽生譲やテン、ガクなどは、四人組の存在を歓迎している節があった。
 ……ま、いいけどな……と、荒野は思う。
「正確には、地域密着型の、宅配です」
 孫子は頷く。
「古い言い方をすれば、ご用聞きですね。商店街と契約した個人宅を結び、一軒一軒の要望を聞いて、注文のあった商品を配送する……。
 似たようなサービスは、一部コンビニでも初めているそうですが……商店街全体とコンビニとでは、品揃えが違います。また、日中のうちに商品を発注しておけば、深夜など、時間指定で配送が可能……というシステムにすれば、商店街全体の売り上げも増えます。
 不動産の確保は必要ですが、事務用品や車両などの備品は、才賀の系列会社で使い古した余剰品を安く譲って貰えるように交渉します。
 個人宅まで出張して、商品の配送と、細かい要望に応える、というサービスをして、加盟店と個人顧客から、対価を頂く……というシステムを、構築します」
「……幸い、なんやかんやで、カッコいいこーや君たち、商店街でもかなり好印象だしさ……」
 一足先に孫子の構想を聞いていた玉木が、つけ加える。
「……一時的なイベントもいいけど、今度のは、恒常的にじわじわと売り上げ、のばせるわけでしょ? 世帯の人数や構成にもよるけど、毎日のお買い物、食事の材料とか総菜とか、真面目にやってたら結構な荷物になるし……そういうの、頼めば家まで運んでくれる……ということになったら、全体的な売り上げが、確かに底上げしていくと思う……」
 ……荒野にとっても、実感を持って頷きたくなる意見だった。
「兵站……ロジスティックは、才賀グループが得意とする分野ですから……わたくしも、それなりに蓄積したノウハウを教えられていますし……必要な備品類も、調達しやすいです。
 それと、社員は出来るだけ、減らして、実働要員は、登録制にしようかと思っています。人件費の削減、ということもありますが、人の出入りが多少激しくなっても、怪しまれないように……」
 孫子の言葉を受けて、荒野は、しばらく考え、頷いた。
「特に、反対する理由はみつからないな……。
 確かに、田中君と佐藤君みたいに、無職の一族がこっちに居つこうとしたら、かっこうの隠れ蓑になる……」
「それに……人材派遣会社、として登記を行っておけば、現在やっているようなイベントなど、突発的に人手が増える時にも、対応できます」
「近郊の農家なんかも……農繁期だけ人手が欲しい、っていう所、捜せばあると思うし……。農業、慣れないとキツイから、なかなか人が居つかないんだけど……その点、一族の人なんかは全然楽勝でしょう?」
 玉木がそういうのは、学校の友人の中で、専業や兼業の農家が意外に多いからだった。この辺は、駅の近辺や国道沿いは、それなりに背の高い建物が建っているが、そうした地区から少しでも外れれば、まだまだ農地が多い土地柄だ。
「確かに……その程度の肉体労働で根をあげる一族は……いたとしても、ごく少数だけど……」
 時間給いくらで、農業に従事する一族……そんな発想をまるで持たなかった荒野は、目を開閉させながら、またも頷く。
 荒野は、戸惑ってはいるが……孫子の構想を否定する材料を思いつかなかった。
「……ただ、たった一つだけ、問題が……」
「……大丈夫だよ、才賀さん。
 聞けば、カッコいいこーや君なら、十分にクリア可能だって話しじゃないか……」
 わざとらしく俯く孫子。そして、芝居がかった動作で、孫子の肩に手を当てる玉木……。
『……こいつら……』
 荒野は思った。
『結託して……あらかじめ、打ち合わせしておいたな……』
「いいよ……。
 とりあえず、いってみろよ、その問題とやら……」
 荒野は、半ば観念して、そういった。
「事業を興す時に不可欠な物、といったら、相場が決まっています」
「お金。資本金。おぜぜ。おあし……」
「……で、おれの蓄えを、宛てにしたいと……」
 ほぼ予想通りの答えだったので、荒野はため息をついた。
「……どうしても、いやだ、というわけではないけど……。
 才賀。鋼蔵さんに資産凍結されたといっても……お前も、それでもいくらかは用意できるようなこと、いってなかったか……」
 羽生の見積もりでは、孫子の持ち物は、ン十万とかン百万単位の高級品が平然と転がっている、とかいうことだった。それらを全て処分すれば、それなりの金額にはなる筈だった。
「わたくしも、もちろん、手持ちの物を現金化いたしますわ……。
 ですが、そちらの投資先は、もう決まっています。
 それに……あまりいいたくはありませんが、もともと、一族の問題、でしょう。一族が、果たして、この町で一般人と共存できるのか、という……。
 あまりわたくしたちに頼りすぎるのも……」
「……ちょっと、待て!」
 非常にイヤな予感がして、荒野は、孫子の言葉を遮った。
 後者……「一族の問題」うんぬんの話題は、別にいい。荒野にしてみても、正論であるように、思える。
 問題は、前者、「孫子の新しい投資先」について、だ。
 荒野には、初耳だったし……玉木が孫子の構想を後押しするような態度をとっていることと合わせ……非常に、イヤな予感がした……。
「その……才賀の、新しい投資先って……」
 それでも、荒野は聞き返さない訳にはいかなかった。
 すると、こちらの話題には参加せず、賑やかにカニ尽くしな食卓で争奪戦を続行中だったテン、ガク、三島百合香、羽生譲、加えて、田中太郎、佐藤大介、鈴木友哉、高橋一の四人組までもが、一斉に手を止めて、荒野の方に振り返り、
「「「「「「「……しるばぁ~、がぁ~るず!!」」」」」」」
 と、声を揃えた。

 荒野は、くらくらっと目眩がするのを自覚した。




[つづき]
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