第六章 「血と技」(84)
曰く、もうもうたる煙の中から、プロテクターを吹き飛ばしながら出てくるシルバーガール。
曰く、煙をたなびかせながら、六節棍や鎖を縦横に振り回して敵をなぎ払うシルバーガール。
曰く、後ろから飛来する投擲武器を、振り返りもせずに棍で打ち払うシルバーガール。
曰く、廃材をものともせず、もの凄い勢いで疾走するシルバーガール……。
「……まー、今日一日で、こんだけの素材が、げとできたわけですよ……」
居間のテレビで再生したDVDの映像について、玉木はそう解説した。
「……なんつうか、生身でトクサツしちゃうんだもんなぁ……で、結構、見栄えする画像が撮れちゃったりするし……」
玉木の話しによると、「合成や3Dなどの手間のかかる作業が、かなり減らせる」とのことだった。
「……つまり、低コストで良質のコンテンツを生産できる、ということで……」
これを利用しない手はない、という趣旨だった。
「どの道……」
孫子も、玉木の言い分を後押しする。
「……放っておいても、挑戦者は次々とやってくるわけですし……それを撮影するだけで、それなりに見応えのある映像になるのですから、これをお金に替えない手はありませんわ……」
傍らでは、ガクが、「……どーしてこういう時に、ボクは怪我をしているんだ!」とか、喚いているが、だれも相手にしていない。
「金……ねぇ……」
荒野は、憮然と呟く。
荒野にしてみれば……自分たちの戦闘が、一種のショーとして消費される……ということには、複雑な思いがある。
それでも……むざむざ、無駄に血を流すよりは、はるかにマシか……とも、思うのだが……。
「……具体的にいうと……」
黙り込んだ荒野に向かって、玉木が説明を続ける。
「シルバーガールズ」を商店街及び、ボランティア活動のマスコットキャラとして扱う。
商店街やボランティア活動のサイト、それにポスターなどの媒体に、「シルバーガールズ」の画像や映像を散りばめて、知名度の向上を図る。
「……よくあるでしょ、ヒーロー物で、主人公が交通ルールを守ろう、とかいうの……。
だから、ボランティア活動なんかとは、イメージ的に相性がいいよ……」
「……おれ……その辺のこと、よく知らないから……」
荒野は、そう言葉を濁しておいた。
「……それ以外に、シルバーガールズのコンテンツや関連商品も、商品にします。
具体的には、映像そのものの、ダウンロード並びにDVDパッケージ、フィギュアやキャラクター商品など、ですね……。
画質を落とした本編を、ネットで配布する……ということも、考えています」
「……いや、別に反対はしないけど……素人が作った代物……そうそう、売れるものなのか?」
荒野は、こめかみを指で押さえつつ、ゆっくりと首を振った。
「……何をいっているんですか、荒野さん!」
口泡を飛ばしつつ、荒野の方に身を乗り出して力説しはじめたのは、新参者四人組の中で一番濃い顔をしている、佐藤君だった。
「……今の世の中、萌えですよ萌え。それに燃えが加われば、まさに無敵。シルバーガールズには、それがあります。一見、可愛い女の子三人組、実は、最強の正義の味方。このギャップがたまらんのですよ。来ますよ、これは、来ますよ……」
『……こういうキャラか……』
荒野は、内心で鼻白みつつ、遠い目をして、「わかったわかった」と、佐藤君をいなす。
佐藤君は……顔だけではなく、性格的にもかなり「濃い」ようだった。
「……あー。その手の知り合いに打診してみた範囲では、そっちのゴツイ人と同じような意見の人が多くてな……」
玉木は、佐藤君から視線を逸らしつつ、荒野に話しかける。
「……その手の知り合いってのは、ようするに、シルバーガールズの素材とか持っていって、細かいパーツとかアクセサリを作ってもらった職人さんたちなんだが……」
「玉木、お前……そういう特殊な職人さんたちに伝手とか持っているのか?」
半眼になった荒野が問いかけると、
「……あ。それ、ほとんど、わたしの紹介……」
と、羽生譲が片手をあげた。
「長年、コミケに出入りしていると、その手の知り合いが自然とふえてな……。
うちの同人誌のお得意さんの中にもいるし……あと、ちづちゃんの大学も、その手の活動している人、多いな……」
羽生のいう「ちづちゃん」とは、柏あんなの姉、柏千鶴のことだ。
「……あー。はいはい。いらっしゃいますねー。
わたしは詳しくはありませんが、ええと、現代視覚文化……ナントカ研究会、だったかな? 確か、そんなサークルがあって、かなりいろいろな方面に手を広げているようですが……」
同じ大学に通う田中君は、おっとりとした口調で羽生の説明を補足すると、ずずず、と食後のお茶を傾けた。
……荒野には、あまり理解できない世界だった。
「……ま、まあ……やりきれる自信があるのなら、好きにやってみてくれ……」
正直、あまり関わり合いになりたくないので……荒野としては、さっさとこの話題は終わらせたい所でもある。
荒野はぼんやりと、発起人の一人である孫子の顔を見つめる。
『才賀……悪の組織の女幹部とか……似合いそうだな……』
と、ふと思った。
「……荒野」
やおら、茅が立ち上がって、片手を上げた。
「茅も、手伝うの。茅たちの手で、ヒーロー物を作る……」
茅は、うっとりと陶酔した顔をして、胸の前で掌を合わせた。
「……いや……もう、好きにしてくれ……」
荒野は、なんとなく徒労感を感じて、少し、うなだれた。
それから、はっ、とあることに気づいて、顔を上げる。
「今のうちに断っておくと、おれ、出演しないから!」
これまで事例から考えても……本人も知らない内に、キャストの一人に数えられていた……ということが、ないとは言い切れない。だから、早めに明言して釘を刺しておく必要があった。
その時、玉木が目を反らして、小さく「けっ、チキンが」と呟いたのを、荒野は聞き逃さなかった。
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