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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(85)

第六章 「血と技」(85)

 居間で皆が歓談しているその時、楓は、三島百合香と肩を並べて、台所で食器を片付けていた。
 楓は、今後の方策とか、難しい話しに参加しても仕方がない……と、思っている部分も、ある。
 そして……ある気配、を感じた楓は、
「先生……後は、頼みます……」
 と言い捨てて、三島の返答も待たずに、自室に急いだ。

「……なんか、仲がいいんすねぇ、皆さん……」
 そういったのは、四人組のうち、一見優男風の田中君だった。二十才前後に、見える。
「つきあいは短いけど……濃いからな……」
 いろいろな意味で……と、答えながら、荒野は思う。
「偏ったヤツらばかりだけど、それなりに役にはたつ……って……。
 ……来たか……」
「来たって……何が、ですか?」
 突如、真剣な表情になった荒野に、田中君が不審な顔を向ける。
「……楓に聞け……。
 これから、楓の後に付いていくと、面白いものが見えるぞ……」
 それから、腰を上げようとした玉木に気づいて、荒野は、
「……一族の関係者にしか見えない見せ物だけどな……」
 と、慌てて言い添える。
「……例の?」
「例の、だ」
 事情を知っている孫子と荒野は、そういいあって頷き合う。
「寒いから、わたくしは、遠慮させていただきます」
 孫子は、両腕を炬燵の中に潜り込ませて、背を丸めた。
「……ボクは行く!」
「ボクも、ボクも!」
「茅も行くの……」
 テン、ガク、茅の三人が、立ち上がり、廊下へと続く襖を開けた。
 ちょうど、完全武装の楓が、通りかかった所だった。
「……お前らも、後学のために一度見物しておいた方がいいぞ……。
 最強とその弟子の稽古風景、なんて、滅多に観られないから……」
 荒野が湯呑みを傾けながら四人組に向かってそういうと、四人組は慌てて立ち上がった。

「……なぁなぁ、カッコいいこーや君……」
 玉木が、上目遣いになって、荒野に尋ねる。
「その……楓ちゃん、って……強いの?」
「比較の対象が明確でないんで、正確には答えにくいのだけど……」
 荒野は、どう答えたものか、と考えながら、慎重に答えた。
「……一族の中では……かなり、上位に来るだろう。
 六主家の中でも、あそこまで行けるのは少ない……」
 しかも……まだまだ、成長の余地を残しているんだよな、あいつ……と、これは、口の中で呟く。
 楓は、荒神が教えるようになってから、格段に腕を上げている。
 楓がこの先、どこまで行けるのか……荒野にも、見当がつかなかった。

 五分後、楓と荒神、それに、四人組と、テン、ガク、茅が帰ってきた。
 四人組は蒼白な顔をしていて、テン、ガク、茅は、興奮した様子で頬を上気させている。
「……楓、さん……。
 あの……いつも、あんなこと、やっているですか?」
 四人組を代表して、平安貴族顔の鈴木君が、かなり恐縮した面持ちで尋ねる。
「……雑種ちゃんも、最近は、だいぶん動きが良くなったよねぇ……」
 楓が答える前に、スーツ姿の荒神が、歌うような節回しをつけていった。
「最初の頃は、今よりも無駄な動きが多かったけど……」
 ……じゃ、ぼく、着替えて来るから……と、言い残して、荒神は四人組の背後を通って、自室に向かう。
 その背中に、三島が、
「……二宮先生、カニ、まだ残っているけど、食うか?」
 と声をかけている。
「……ええっと……」
 四人組の注目を浴びて、戸惑いつつも、楓は答えた。
「いつも……。
 そう、ですね。これでも、段々、師匠の動きが、見えるようになってきました……」
 四人組は、ほぼ同時に、「はぁあぁ……」と盛大なため息をついた。
 そして、いきなり、口々に、「すいません。今夜はこれで帰ります」といって、玄関の方に向かう。
「……どうしたん? いきなり、あれ……」
 羽生譲が、荒野に向かって首を傾げて見せた。
「彼我の実力差を、見せつけられたからでしょう……。
 自信喪失、っていうか……」
「……だって、四人でもボク一人に敵わなかった人たちだもん……」
 テンが、炬燵に潜り込みながら、そう言い添える。
「今度誰か来たら、こっちに回せよ……」
 テンの隣に座りながら、ガクがテンに囁いた。
「……そういうんだったら、早く怪我直す……」
 テンは済ました顔をして、ガクにそう答えた。
「楓ちゃん……そんなに凄いのか……」
 玉木は、どこまで本気で受け止めていいのか、判断しかねている。
 玉木の知る楓は、この一党の中でも比較的地味な人間なのだ。
 楓は、照れたような笑いを浮かべて、「ちょっと着替えてきます」と襖の向こうに姿を消した。
「……単純に、力だけ、とか、スピードだけなら、テンやガク、ノリの方が上だけど……」
 荒野は、素人である玉木にも分かりやすい説明を考えつつ、そう話す。
「その代わり、楓は……様々な技を取得しているから……。
 例えば、テンやガクは、つい最近まで、手裏剣の投げ方、知らなかった。投擲武器があるのと無いのとでは、戦い方のバリエーションが、かなり違ってくるし……」
「そういえば……今日も、相手は目一杯飛び道具使っていたけど、テンちゃんは、使ってなかったな……」
 玉木も、納得した顔をして、頷く。
「……まだ、ようやく基本的な投げ方をようやく習った段階で、使いこなすところまではいってなかったんだ……」
 テンは、あっけらかんとした顔をして、いった。
「それに、いい機会だったから、プロテクターの評価もやっておきたかったし……。
 でも、あのお兄ちゃんたちは、ちょっと期待はずれだったな……。
 手裏剣や六角一つとっても、投げた時の勢いが、楓おねーちゃんの時とは段違いなんだ……あれでは、まともな試験になんないよ……」
「ライフルを使用して、防弾性能はチェック済みなのだ……」
「楓おねーちゃんの六角……距離にもよるけど、下手をすると、ライフル弾なんかよりも、エネルギー量、多いよ……」
 テンは、ぼつり、と、続ける。
 テンは以前、真っ正面から楓が投じる六角の雨の中に突っ込んだ経験がある。
「……そんなに凄いんか……」
 玉木が、半ば呆れたようにテンに尋ねる。
「うん。
 ……楓おねーちゃんだけは……怒らせない方が、いい……」
 テンは、妙に実感の籠もった返答をした。テンの隣では、ガクも、コクコクと頷いている。
「今度から……あまり、からかわないようにしよう……」
 玉木が、目を見開きながら、そういう。
「……なんにせよ、玉木が大人しくしてくれるのは、いいことだ……」
 荒野の言葉にも、実感が籠もっていた。




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