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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(86)

第六章 「血と技」(86)

「……じゃあ、わたしたちは帰ります。
 今日はごちそうさまでした……」
 飯島舞花が立ち上がったのを機に、樋口明日樹も帰るといいだし、香也が送っていくことになった。
 荒野は、残った面子を見渡す。
 カニ料理を肴に酒盛りをはじめる荒神、羽生譲、三島百合香。事業計画がどうのこうのと打ち合わせをはじめる玉木と孫子。徳川とテン、ガクはパソコンの画面を覗き込んでなにやら理解不能な単語を並べ立てはじめる。茅と楓は、浅黄とお絵かきをして遊んでいた。
 ……居場所がない……と、感じる、荒野だった。
「……おれも、帰るか……」
 そこで荒野も、プリントアウトの束をまとめてすぐに腰を上げ、帰宅組の後を追った。

「あ。おにーさんも、帰ってきたのか……」
 マンションのエレベータ前で、飯島舞花たちに追いついた。
「……なんか……残ってても、やることなくてな……」
「あの集団だとな……徳川も玉木も、特殊だし……才賀さんあたりがそれに拍車をかけてる……」
「あの中に混じっていると、おにーさんがマトモにみえるよ」
 舞花がそうお笑ったところで、エレベータが開いた。三人で乗り込む。
「栗田君は、今夜も泊まっていくの?」
 荒野は、試しに尋ねてみる。栗田精一が飯島舞花のマンションに泊まり込んでいくのは、日常茶飯事といってもいい。
「……いえ。平日ですし、今日は帰りますよ」
 栗田は、淡々と答えた。
「これ以上、ベタベタしていると、先々飽きそうだから、その辺はけじめつけてるの」
 これは、舞花。続けて舞花は、不意に真面目な顔をして、
「でも……マジな話し、徳川とか玉木とかは、おにーさんたちが来てからだな。
 本当に生き生きとし顔を、しだしたの……」
 とか、いう。
「ってことは……前は、そうじゃなかった?」
「うん。なんていうか……もう少し、鬱屈してた。
 例えば、玉木ちゃんなんか……少し前と今とでは、違うだろう?」
 舞花がそういったところで、エレベータが舞花の部屋があるフロアに到着、
「……じゃあ、また、明日」
 といって、二人はエレベータから降りた。
 一人になって、荒野は、少し考えてみる。
 いわれてみれば、確かに……玉木にしろ、徳川にしろ……学校の中では、異色の生徒である。それまで、それなりに窮屈な思いをしていても、決しておかしくはないのであった……。
 放送部員を初めとして、友人知人が多い玉木はともかく、徳川などは、完全に孤立していたのではないだろうか? 徳川自身は、孤立していても、さほど掻痒を感じない性格であるらしいが……。
 しかし、荒野たちのように、自分たちよりも常識はずれな存在が同じ学校に通うようになり……所を得る、という面は、あったのだろう。
 それが彼らにとって、一概にプラスであるとばかりは断言できないものの……それでも、荒野たちが「ここにいる」ということで、活躍の場を得ることができた者がいる……という事実は、少しだけ、荒野を元気づけたのであった。

 ドアを開け、キッチンに入って、コーヒーをセットして、荒野は、改めて、プリントアウトした紙束をみる。今後のためにも、この町にやってくる予定の一族関係者の、顔と名前くらいは覚えておきたかった。
 今日のような、実戦経験のないひよっこばかりなら、何十人やってこようが、なにも問題がないいのだが……。
 問題なのは、「未熟だから」現場に出されていない若年者よりも、肉体的精神的な損傷によりリタイアし、なおかつ「一族の術者」であることに拘りを持つ……という、手合いで……うまく利用して立ち回れば、テンたちの修練に利用できるかな、という気持ちも多少はあったが……その逆に、一歩対処を間違えると、覿面、地雷と化す……のも、この層の特徴である。
 そこで荒野は、プリントアウトの「略歴」を頼りに、「おそらく、無害」と「もしかすると、有害」、「要注意人物」の三種に分けはじめた。国内の術者とはあまり面識のない荒野は、当面、データの概略からしか判断できない。
 この段階では、六割強が「おそらく、無害」に該当し、「もしかしたら、有害」が二十数名、「要注意人物」は十名ほどになった。それぞれ、「ブルー」、「イエロー」、「レッド」と色で分類し、「レッド」と「イエロー」の顔と名前を頭に叩き込んだ所で、茅が帰ってきた。
 茅も自分の分の紅茶をいれはじめたので、荒野は「レッド」と「イエロー」のデータを茅に示し、茅にも顔を記憶するように勧める。明日になったら、テンたちにも、同様にするつもりだった。プリントアウトの元データは、荒野のパソコンの中にあるから、ハードコピーなら、何枚でも作ることが出来る。
「……こんなに早く来るとは、思わなかったものな……」
 冷めかけたコーヒーを啜りながら、荒野は茅にいった。
「連中も、それだけ時間を余していたんだろうけど……」
 四人組とも「術者」として活躍した経験はなく、うち、二名は「無職」である、という話しだった。彼らが、国内の、あの年齢層の術者の平均的な像なのかどうか、荒野には判断できなかったが……半端ながらも、一族としての能力を持ちながら、活躍の場を与えられていない……という者が、それなりの人数、存在するのだとしたら……確かに、それは……一族上層部にとっても、頭の痛い話しだろう。
 穿った見方をするのなら、公然と共存策を推進する荒野が出現したのを幸いに、そうした持てあまし組と問題児とを、一挙に押しつけてきたのではないか……という考え方も、可能だった。
 荒野がそうした推測を口にすると、茅は、
「そういう人たちも……仲間にするの」
 とだけ、答えた。
「荒野の器量が、試されていると思うの……」
「まあ……そうなんだろな……」
 荒野も、頷く。
 公然と、堅気との共存を説いた荒野に向かって、「……やれるもんなら、やってみろ……」という訓戒も含めて、こうした人材を押しつけてきた……ということは、十分に考えられる。荒野の知る限り、二宮中臣と野呂竜斎は、その程度のことは、平気でやってのける人格だった。
「確かに……説得して、仲間にできれば……こっちの戦力もそれなりに増えるわけだし……」
 荒野は、ため息をついた。
 荒野を取り巻くリスキーな状況は、まだまだ改善される様子を見せなかった。




[つづき]
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