第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(165)
「……と、いう訳で、この場所を使わせてほしいのですが……」
工場内に設置してある事務所で、孫子は、徳川篤朗に相談していた。
「わたしからも頼むよ、トクツー君……」
孫子の隣で、玉木珠美も掌を合わせる。
「素材、どんどん撮影しておきたいんだ……」
「……それは構わないのだが……」
徳川は、しげしげと孫子の手元をみた。
「なんで、才賀は……そんなものを持ち出しているのだ?」
孫子は、工場に保管してあるライフルを持ち出して、弾倉を装着しているとことだった。
「念のための、保険です」
孫子は、きっぱりと答えた。
「あの方たち、まだ完全に信用している訳ではありませんので……」
「……その分の料金はすでに頂いているから、好きに使えばいいのだ……」
徳川は微妙な表情を作って無理に頷き、今度は玉川に向き直る。
「撮影するのは構わないが、ひとつ条件がある……」
「……撮影許可、でたー!」
そう叫びながら玉川が出てくると、工場のあちこちで撮影機材の準備をしていた放送部の面々は、どっと沸いた。
「……メイク、上がりましたー!」
別室で、テンを着替えさせていた放送部の女生徒が、盛装したテンの手を引いて現れる。
……おおっ! と、放送部員が、ざわめいた。
「……な、なんか、おかしいかな……これ?」
あまり注目されることに慣れていないテンが、周囲の反応に、珍しく頬を染めて動揺している。もっとも、ヘルメットのバイザーで顔の上半分が隠れていたが……。
「……いい……」
ぽつり、と、誰かが呟いた。
「なんつぅーか、あれ?
可愛カッコいい?」
「やっぱ、ヒーローのコスチュームは、これくらい現実離れしてないとなー……」
「……こう、一見華奢な、細長い手足と、プロテクターとかメットとかの、丸みを帯びたフォルムとの対比が……」
「……あのねー、いいこと教えてあげよーかー……」
玉木が、テンの耳元に口を寄せて、囁く。
「……この塗装案と、胸のエンブレムのデザイン、君の所のお兄ちゃんにやってもらったんだ……」
塗装パターンについては、学校の休み時間に香也の教室に出向き、写真や三面図をみせて、簡単なラフをその場で描いて貰った。胸とヘルメットについているエンブレムについても、モチーフだけを指定して、香也に描いて貰ったデザインを元にして、立体化は、知り合いのフィギア原型師に作らせた。
依頼したその場でケッチブックにちゃっちゃと描いてくれたくらいだから、香也の方は、あまり、熱心だったとは思えないのだが……少なくとも玉木は、嘘はいっていない。
「……おにいちゃんが……」
玉木の言葉を聞いたテンは、自分の胸元、銀色のユニコーンをモチーフにしたエンブレムの上に、掌をあてる。
その表情をみて、玉木が後ろ手に合図をして、カメラを回させる。玉木の意図をくみ取った部員が、慌ててカメラを構える。
「……この間のは、突発的だったから……。
今回は、名乗りを上げるシーンからいってみようか?」
玉木は、テンに言い聞かせるように、指示した。
「名乗り?」
テンは、首を傾げる。
「メイドールでも、揃い踏みして、こう、しゅたっしゅた、とポーズつけて、名乗るじゃない?
慈悲深きご奉仕のヒトガタ、メイドブラック!
とか……」
玉木は、弟や妹とたまに観ることがある特撮番組の決めポーズを、うろ覚えで真似して見せる。
背後で、放送部員たちが笑いをかみ殺している気配がしたが、玉木は構わなかった。
「……ああ……ああいうの……。
ちなみに、メイドブラックのポーズは、こうだけど……」
テンはそういって、びゅん! びゅん! シュタッ! っと、手足を振り回し、
「……慈悲深きご奉仕のヒトガタ、メイドブラック!」
っと、見栄を切った。
玉木のがうろ覚えで、かつ、足元がふらついていたのに比べ、テンの決めポーズは振りが正確で、なおかつ、迫力がある。
玉木の時は笑いをかみ殺していた放送部員たちも、一泊の間を置いて、「……おおっ……」と感嘆の声を上げながら、拍手しはじめた。
「……決めるなぁ、テンはちゃん……GJ!」
玉木は、テンに向かって親指を突き出した。
「……その調子で、シルバーガールズの方もいってみよう!」
「……え? う、うん……。
でも、台詞とか振りとかは……」
「その辺は……ほれ、適当に……」
玉木は、テンから少し距離を置いて、はたはたと手を振る。
……どうやら、テン自身がアドリブで考えなくてはならない……。
『……ええと、さっき、技の一号、とか、いったし……プロテクターとメットに、黒と金の塗装が入っていたから……』
テンは頭の中では忙しくさまざまなことを考えながら、六節棍を振り回す。
体が、自然と、今朝、楓が棍を扱っていた時の動きをトレースしている。楓は、初めて棍を扱っていたので、無駄が多く実戦的な動きではなかったが、その分、見栄えがした。
「……知恵と技の戦士、シルバーガールズ、一号!」
テンは、棍を肩の上に置き、名乗りを上げる。
……しばらく、誰も動かなかったし、何もいわなかった……。
「……すげぇ……」
「今、震えがきたよ……やばいよ、これ……」
「今の動き……やたら、迫力ねぇ……」
数十秒後、ようやく固唾を呑んで見守っていた放送部員たちが、硬直から解けて口々にテンを賛美しはじめる。
「……玉木ぃ……これ、いけるよ、絶対!
プロがやってるのより、迫力あるもん!」
「……でしょでしょ……」
にやにや笑いが止らない玉木は、ひっきりなしに放送部員たちにVサインを送っている。
「……テン!」
いつの間にか、五十メートルほど離れた場所に移動していた孫子が、テンに向けてライフルを構える。
一旦、テンの周囲に集まりかけた放送部員たちが、わっと、テンから離れた。
「ウォーミングアップをお手伝いしますわ……。
それから、玉木たちもよく観てなさい! いいデモンストレーションになりますわ!」
「……ライトアップ! テンちゃんに光源集中! カメラ、全部テンちゃんに向けて!」
孫子の意図を察した玉木が、号令をかける。
テンが、棍を構える。
孫子が、引き金を引く。
少し間を置いて、天井につるされたライトが、テンに集中した。
「……嘘だろう、おい……」
カメラを構えていた放送部員が、呟く。
『嘘ではないのだ……』
スピーカーを通した徳川の声が、工場内に響く。
『こっちのカメラ……急いで調達してきた、高画質、高精度、高性能のカメラにも……テンが、その棒切れで、ライフル弾を弾き飛ばしている映像を確認したのだ……』
徳川は徳川で、事務所の中から様子を伺っていたらしい。
『……テン、その棒は、もうボロボロだ。スペアはいくらでもあるから、替えるといいのだ。新品の方が、撮影映えもするのだ……』
銃口を降ろした孫子は、つかつかとテンたちの方に歩いてくる。
「……みてのとおり、こちらの準備はもう終わりますけど……」
途中、ここに来る途中で拾ってきた四人組が、目を見開いてテンの方をみて固まっているのに気づき、声をかけた。
「……あなたがたの方の準備は、もうよろしいのかしら?
ああいう子ですから、慢心せずに、最初から全力を……いいえ、死力を尽くすこと、お勧めしますわ……。
わたくしなら、興味本位であのような子に挑戦するような無謀な真似は致しませんけど……あなたがたが、そのためにわざわざここまで足を運んだのですものね……。
一戦も交えずに、このまま帰る……とは、今更、いいだしませんわよね?」
孫子は、四人に向かってにっこりとほほ笑んだ。
四人は、汗だくになり、蒼白な顔色をしながら……それでも、けなげにも、こくこくと頷いてみせた。
[
つづき]
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